4 波乱のガーデンパーティー
◆
それから、秋のガーデンパーティーの日となった。
この日は晴天で、この分なら今日一日天気が崩れることはないだろう。
誠に残念だ。
ジェフリー殿下は私に参加するように命じていたが、ドレスを用意するでもなく、エスコートをしてくれる訳でもなかった。
だが、必ず何かを企んでいるだろう。
なので、ドレスなどは実家を頼って用意した。
我が家で飼っている伝書鴉に小さな亜空間収納鞄をつけて、運んでもらったのだ。
エスコートをしてくれる殿方はいないが、お飾りとはいえ王太子妃なので、そこは大目に見てもらおう。
まあ、夜会と違ってそこまでパートナーは必要ではない。
会場の人々の、私に向ける視線は様々だ。
大部分は同情的だが、一部からは敵対心も伺える。
──カルミア伯爵の一派だ。
どうやら、私がジェフリー殿下にいまだに横恋慕をしていると思い込んでいるらしい。
そういえば、カルミア伯爵は爵位を金で買った元平民。貴族のそういった繋がりがないので、その情報に至っていないか、信じていないのかもしれない。
まあ、カルミア伯爵のことはどうでもいい。
さすがに、多くの貴族が参加するガーデンパーティーでは大きな問題は起こさないだろう。
とにかく何事もなく、最後まで終わることを願う。
◇
それから、王妃殿下やジェフリー様たちの挨拶があり、ガーデンパーティーが始まった。
私は挨拶もしないで、彼らの後ろでただ見ているだけだった。
楽で良かった。
王族への挨拶が終わり、各々軽食を摘んだり会話に花が咲き始める頃、私は数人の令嬢たちに囲まれた。
「王太子妃様、ちょっとよろしいでしょうか?」
「なんですか?」
全員、低位貴族の令嬢だ。
顔を知っている程度で、知り合いではない。
殿下をつけないのは、私を見下しているからだろう。舐められたものだ。
「お願いします〜」
「……分かりました」
仕方ないので、それに従ってみる。
そして、人気のない場所に連れて行かれると、そこには貴族の令息たちがいた。こちらも顔を知っている程度の低位貴族だ。
「何か御用ですか?」
ここまで案内した令嬢たちはさっさと逃げてしまった。
そして──
「王太子妃様は、ジェフリー殿下に相手にされず、日々、寂しい思いをしていると聞きました」
「我々が慰めてあげますよ」
どうやら、彼らに私を襲わせて醜聞にしたいらしい。
首謀者はリタ様か、カルミア伯爵か……あるいは、ジェフリー様か。
「いりません。あなたたち、どうなっても知りませんよ?」
「どうなるんです?」
令息の一人が、私の腕を掴む。
「こうなります」
その手を通して、私は魔法を流した。
「ぎゃっ!?」
バチンッと激しい音と閃光が発し、私の腕を掴んでいた令息は体から煙を上げて倒れた。
かなり加減したので命に別状はないはずだ。
「は!?」
「な、何を……」
「さて、ここからは正当防衛です」
◇
私を襲おうとした令息たちを魔法で昏倒させ終わった時──
「きゃああああ!?」
轟音と共に、悲鳴が上がった。
何かと思って会場に戻ると、黒い毛並みを持つ大型の狼のような魔獣が数体、庭園内に侵入していた。
ちなみに、先ほどの令息たちは〝影〟たちに任せてあるので、恐らく保護されているはずだ。
何故王宮に魔獣が?
もうすぐ、魔獣が増える時期ではあるが、王宮周辺には魔獣除けの結界が張ってあるのに……
「アレクシア様!」
「エドウィナ、何があったの!?」
「それが、魔獣研究所に運んでいた魔獣が、途中で逃げ出したらしく……」
確かに王宮の近くにはそういった研究所があるが……タイミングが良すぎる。
そもそも、こんな元気な状態の魔獣を、研究所には運ぶはずがない。
ジェフリー様たちの様子を見るとかなり慌てている。
特にカルミア伯爵の慌てようが異常だ。
彼らが画策したが、何か不都合が起きたのだろうか?
「騎士たちは……」
ガーデンパーティーの参加者を避難させた上、魔法騎士たちが防御壁を展開している。
しかし、明らかに魔獣と戦う人数が足りない。
「仕方ないわね……エドウィナ、みなさんをお守りするように結界を張って。避難誘導にも協力を。必要なら〝影〟を使って」
「アレクシア様は?」
「私の〝特異魔法〟は範囲が広くて威力の調整が難しいのよね」
「……分かりました。アレクシア様もお気をつけて」
避難誘導が完了すると、私は特異魔法を展開した。
足元に青白く輝く魔法陣が現れ、あっという間に天候が悪くなり、大粒の雨が降り、雷が発生し始める。
せっかく用意したドレスもびしょ濡れだ。
『天の怒りたる雷よ、我が敵を殲滅せよ!!』
私の詠唱に、天が応える。
いくつもの雷が魔獣たちに降り注ぎ、それらを倒す。
そして、雷が遠のき地上の汚れを洗い流すように、雨が降り注ぐ。
そうして、雨が止むと嘘のように空は、何事もなかったように晴れに戻った。
こうして、波乱のガーデンパーティーは終わった。
◆
その後、魔獣の件は完全な事故ではなく、私を狙ったものだということが判明した。
しかし、魔獣が暴走し、予期せぬタイミングで庭園に現れたらしい。
そもそも、私だけを狙うならもっと人が少ない時に暗殺するべきだが、どうやらこれも、あくまで嫌がらせのつもりだったと供述しているしい。
なんとも、杜撰な……
陛下は「嫌がらせのつもりだったなどと言い訳しているが、実態は暗殺未遂であろう」と言っていたが、果たして……?
首謀者はカルミア伯爵。
どうやら、リタ様の地位を確固たるものにしたかったらしい。
なんとも傍迷惑な話だ。
彼がマトモに社交をしていたら、私がジェフリー殿下との婚約解消を望んでいることを知れただろうに。
そういった訳で、ジェフリー殿下やその他貴族たちを危険に晒したカルミア伯爵は、せっかく手に入れた爵位を失うレベルのやらかしとなったわけだ。
そして数日後、私はまた謁見の間へと呼び出されたのだった。
◆
「アレクシア、魔獣の制圧お見事でした」
顔色が悪い王妃殿下が言った。
「もったいないお言葉です」
チラリと視線だけでジェフリー殿下たちを見ると、彼はよく分からない表情でこちらを見ており、リタ様は青い顔で下を向いていた。
「其方の特異魔法は、〝天候操作〟だったか……」
「はい。主に雷雨を操れます」
特異魔法はその人が生まれつき使える魔法のこと。
通常の魔法と違い、特に修行をしなくても使えるのだ。
私の特異魔法は雷雨に特化した〝天候操作〟。
好きな時、好きな場所に大雨を降らせ、雷を落とせるのだ。
大規模な魔法のため魔力消費が激しく、一度使うと一ヶ月前後は魔力不足で使えなくなってしまうのが難点だが、敵を多く引きつけた場所に使うとかなりの数を減らせる。
今回の使用で、魔力は大幅に削られたが、普通の魔法が使える分は残しておいたので、今、襲撃されても逃げ切る自信はある。
エドウィナもいるしね。
「それで、そのアレクシアにはこれまでの非礼を侘びたいと……」
「そのような上っ面の謝罪で済ませる気か? 王妃よ」
そこに現れたのは、全快した国王陛下。
「へ、陛下、何故……」
「まったく、私が寝込んでいる間に随分、好き勝手してくれたようだな?」
「そ、それは……」
「私に毒を盛ったな? アレクシア嬢に毒を盛ったのも其方の一派だろう。
その上、リタ嬢……いや、カルミア伯爵に都合がいいように忖度まで……」
「──っ!?」
「王妃よ、其方には先王妃の死に関わっているという疑いもある。今後、この国での自由はないと思え」
「そ、そんな……」
王妃殿下は、騎士たちに囲まれ、魔封じを施した手枷を嵌められた。
「そして、アレクシア嬢」
「はい」
「此度の活躍、大義であった。その褒美に願いを聞こう」
「でしたら、私の願いはただ一つです」
私は一息ついて続ける。
「ジェフリー殿下との婚姻を無効化してください」
「よかろう」
ああ、これでようやく──
「お待ちください!」
そこへ、私の希望を打ち砕く一声。
「なんだ、ジェフリー」
「あ、あの時……四年前に俺を助けてくれたのは、アレクシアだったのか!?」
ジェフリー殿下が必死な様子でこちらを見ていた。
「四年前?」
一同の視線がジェフリー様に集中する。
四年前……確か、ジェフリー様が私以外に愛する人がいるという宣言をした頃?
「俺の『初恋の君』は鮮やかな金色の髪と光るように輝く鮮やかな青い瞳を持つ少女だった……」
「はあ……」
私も金髪に青い瞳だが、金髪は茶髪に近い色合いで瞳は深い青色。
ジェフリー様のいう特徴とは違うと思うが……
「俺はブルーベル公爵家の領地へ長期滞在する際、魔獣に襲われたことがある。その時助けてくれたのが、鮮やかな金色の髪と光るように輝く鮮やかな青い瞳を持つ少女だったのだ!」
ジェフリー様が過去の話をし始める。




