戦いの終わり
(じょ、条約締結?まさかとは思うが、敵にも私のような講和を望んだ者がいたのか?ならばこのチャンス、絶対に逃してはならない)
カーンが誰よりも早く前に出て口を開いた。
「私は、王国軍、第2護衛親衛隊大隊長及び上級大将のアウェンス・カーンだ、是非ともあなた方と話がしたい!」
「私もです、カーン大将閣下」
ドラグーンからいち早く降りてきたタケヒロがすぐにカーンの前まで来る。装備を一切持っていないタケヒロの様子から、カーンは少し安堵を覚えた。
「それでは、中へどうぞ」
そうカーンが要塞内部への入り口に手を向けると、タケヒロは首を横に振って返した。
「ここで、いますぐに調印をお願いします」
「…わかりました」
何かを察したのかカーンもあえて何も言わず、それに従った。タケヒロが出した一枚の紙に、捕虜解放と不可侵条約についての記述が書かれていた。
「不可侵条約…少々お時間をいただけますか。国王陛下からの御許可を頂かねばなりません」
「構いません。よろしくお願いします」
すぐに長距離にいても陛下と会話が可能な、魔法通信室へ向かい、すぐに準備に入った。
魔法で作られたスクリーンに陛下がラフな格好で映し出された。
「なんだカーン、急な話というのは」
「は、ただいま。ゼグラーン連邦の一人が我が国の兵士と十天創元のミフィーナ・フェルブラント上級大将と共に現れ、捕虜の解放を条件に不可侵条約を締結したいと参ったのです。それに関しての陛下の御許可を承りたく思い、急な通信を入れました。無礼をお詫びいたします」
「ふむ……お前は受け入れたいか?その条約を」
ここで『はい』と言えば、臆病な司令官ということでクビになるかもしれない。だが、これは現在の我々にとってまたとないチャンスなのだ。
カーンは生唾を飲み込んで口をゆっくりと開いた。
「はい」
少しの間沈黙が流れる、その静けさがより一層カーンを緊張させた。
「よかろう、其方がそう思うのならやりたまえ、許可を出す。ゼグラーン連邦と不可侵条約を締結せよ」
「!?」
その間ような物言いに全身の力が抜けそうになったカーンだが、すぐさま返答を返した。
「ありがとうございます。このカーン全身全霊を持って、陛下のご命令を遂行してみせます」
「うむ、ではな」
通信が切れ、スクリーンがゆっくりと消滅していく。
「ありがとうございます、陛下」
もう一度誰にも聞こえぬようにそう言い、またすぐにバルコニーに向けて走り出した。
「待たせてすまない、国王陛下の御許可がおりました。」
「…………陛下がそうおっしゃるのなら…」
「何も言うことはない…」
先ほどまで熱く議論をしていた将校たちも、静かになり、用意された椅子と机で、調印式が行われた。捕虜解放と相互不可侵条約に関する契約書に互いにペンで名前を書き、それぞれが国印を押した。
こうも簡単にいくとはタケヒロも思っていなかった、警戒はしていたが、辺りに飛んでいるドラグーンは何も危害は受けておらず、悠々と飛行していた。
「この度はありがとうございます、まさか自分と同じ考えの方がいらっしゃるとは思いもよりませんでした」
「私もです。聡明な方が相手で助かりました」
タケヒロとカーンの間に、少しの気の緩みが生まれた。調印式が終わると捕虜の拘束具が全て外され、王国側に返される。
「このような失態、深く謝罪いたします。カーン大将」
「いえ、フェルブラント大将こそ、ご無事で何よりです」
短い上級大将同士の会話が終わると、カーンの印とサインが書かれた紙を手に、すぐさまドラグーンで飛び立ったタケヒロ。
その後ろ姿を見ながら、王国の人間は得体の知れないゼグラーンをより警戒することになった。
だが、これで平穏が訪れる。長い戦いの終わりがタケヒロの報告で決まるのだ。




