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ゼグラーン戦記  作者: 椿
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転機



「なぜ撤退なのですか!ガディア様!」


森を歩く王国軍の一人がそう声を上げ、ガディアに話しかけた。


「フェルブラント上級大将とその部隊の行方が不明だからだ」


その返答に兵士はまだ、納得していたなかった。


あと一歩で勝てるところだった王国軍に後退指示が出たからだ。それも我々が弱っているかのように撤退せよとの命令だった。


兵士からしてみればなんのために、ここまで来たのか。という怒りがこみ上げていたからだ。


「ですがガディア様!おっ」

「もういいだろレイヴェル、ガディア将軍にもきっと考えがあるのだ」

「でも!」


もう一人の兵士がレイヴェルという男を止め、森に静けさが戻った。


そう、先ほどの戦闘はゼグラーンが優勢に見えたが、それは王国軍の鮮やかな撤退による誤認であり。ギリギリの戦いをしていたのはゼグラーン軍だったのだ。


しかし、フェルブラント上級大将たちの行方がわからないのが王国軍の不安であった。それほど簡単にやられるような女性ではない。


それは王国国民だけでなく、兵士や貴族からも思われていることだ。

だが、もし、もしもフェルブラントが戦死などした場合、国家を揺らすほどの衝撃を王国は受けるだろう。


ガディアが最も恐れていた事態はそれなのだ。フェルブラントの精神的支柱というのは思っている以上に重要なものであり、人の心の支えになっていると十天創元の中で誰よりもわかっていたからだ。


「フェルブラント…どこにいる、どこに行った」


誰にも聞こえないような声でそう呟き、輝く夜空を見上げたガディア。星は綺麗だったが、風は冷たく、いいと感じる者ではなかった。



「ん…………」


暗い牢の中で、一人の女性が目を覚ます。

美しい鎧に身を包んだ、黒髪の女性。

鋭い目つきではあるが、その瞳には誰にも負けないという闘志が宿っている。


「!!」


状況をすぐに理解したのか、立ち上がって周りを警戒する。

視界に入るのは、蝋燭に灯された一つの火と、縦に何本も伸びている鉄格子だけだった。


自分が囚われているということはすぐに分かった。だが、なぜ、どうやって捕らえられたかを一切覚えていない。


頭を右手で軽く抑え、下を向いたまま少しの間考えるが、思い出せない。


「思い出せないだろ」



その声の方向にすぐに目を向けると、長身の男が立っていた。その男は、こう言った。


「俺が君を捕まえた。タケヒロという者だ」


獣のような恐ろしい目をその男に向け、警戒する彼女に、男は軽く微笑んだ。




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