久しぶり(前編)
佐々木とあんなことがあってから何週間か経ったある日。俺はいつもの平穏な日常を取り返しつつあった。
「翔斗君。」
学校から帰宅するため荷物をまとめていると澪がやってきた。
「どうした?」
「今日、友達に遊びに誘われちゃったから一緒に帰れなくなっちゃった。」
澪は若干、口を尖らせながらそう告げる。
「そうか、気にしないで楽しんで来い。」
「うん、本当にごめんね。」
そう言って、澪はその友達に元に向かっていった。普段は澪と一緒に帰っているため一人での帰宅になるのはかなり久しぶりだった。
俺はカバンを肩にかけ、教室を出て下駄箱に向かう。いざ帰ろうと下駄箱の扉を開くとそこには俺の外履きと見慣れない手紙が入っていた。手紙を開けるとそこにはこんな言葉が書かれていた。
『田宮先輩へ。話したいことがあるので放課後、屋上で待っています。』
その手紙には送り主の名前が書かれていなかった。しかし、『田宮先輩』と書いてあるということは送り主はおそらく1年生だろう。
「・・・。」
表面上では何も喋らない俺だったが内心ではかなり嫌だ。今までの経験上この手の呼び出しにはろくなことがないのだ。
ある日は、呼び出されてその場所に向かうとたくさんの女子の笑いものにされた。
ある日は、呼び出されてその場所に向かうとオラオラ男子に脅迫まがいの行為をされた。
まぁ、どれも中学校の事であるのだがそれが俺の中では尾を引きづっていた。
「はぁ。」
俺は大きく溜息をつき、その待ち合わせ場所に向かう。告白なんてことはないと思うがもしもの本当だった場合、相手を傷つけてしまうのは避けたいためだった。
移動を終えた俺はいざ覚悟を決めて、屋上へつなぐドアを開ける。
「あっ、来てくれたんですね田宮先輩。」
そこには何故か体をもじもじさせている四大美女が一人『藤本 明日香』がいた。
「呼び出したのはお前か?」
「はい。」
俺がそう聞くと、藤本は恥ずかしそうに答えた。
(これは、もしかするともしかするんじゃないか?)
俺が内心、ちょっぴり期待感を膨らませていると遂に藤本から本題が切り出された。
「・・・私に勉強を教えてください!!」
「帰るわ。」
俺は短くそう告げて屋上を後にしようとするが藤本は逃がすまいと腕を強く引っ張ってきた。
「待ってくださいよぉ~。」
藤本は今にも泣きそうな声色で俺を呼び止める。
「・・・はぁ。」
演技だとはわかっていても男子は女子に勝てないものである。その例に倣い結局、俺も足を止める。
「話だけなら聞いてやる。」
「ありがとうございます!」
先ほどの涙声はどこへ行ったのかというほどの豹変ぶりである。もう1回逃げ出してやろうかとも考えたがやめた。
「え~、私はですねこれでもかなり頭が悪いんですよ!」
藤本は何故か自慢げにそう言ってきた。
「・・・頭が悪いって言ってもどの程度なんだ?」
自慢げに話してきたことに少々ムカッと来たが普通に聞き返した。
「えーとですね、下から大体10番ぐらいですね!」
その言葉に俺は思わず意識を失いそうになった。(比喩表現)
「マジで言ってんのか?」
「はい、大マジです。」
藤本の肯定に俺は頭に手を添える。そして、こう告げる
「帰っていいか?」
「駄目です。」
俺の提案は即時却下された。
「なんで俺なんだ?」
「おっ、そんなことを聞くという事は受けてくれると受け取ってもいいんですかね?」
「違う。」
お気楽な藤本の言葉を即時に否定し、話を続ける。
「なんで淳じゃなくて俺なんだと聞いているんだ。」
「う~ん、単純に言えば時坂先輩に迷惑をかけたくないからですね。」
藤本の言う通り淳は今、大会に向けてかなり真剣に部活に取り組んでいる。そのことに配慮しての事だろう。
「ただでは受けんぞ。」
「・・・それはちょっと予想外です。」
俺がジト目でそう告げると藤本は少し驚いていた。
「何がだ?」
「いえ、前までの田宮先輩だったら何の対価がなくても受けてくれたと思うので少し意外だなぁ~と。」
俺は藤本の言っている意味がよくわからなかった。
「それは褒めてるのか?それとも貶してるのか?」
「もちろん、いい意味ですよ。」
藤本は笑ってごまかそうとしてきた。わざわざ聞いても意味のないことを追求するのは面倒なのでこの話はここまでにした。
「それじゃあ、詳しいことは追って連絡しますね。」
「おい、まだ俺は受けるとは言っていないんだが?」
「それじゃあ、また今度~!」
俺の話を最後まで聞かずに藤本は屋上から走り去っていった。
「ったく、人の話は最後まで聞けっつうの。」
そんな呟きを漏らし、俺も家に帰るべく屋上を後にした。
今回が『久しぶり(前編)』なので次回は言わずもがなのあの人です。どうか書こうか迷いますね




