澪とのデート(最終話)
「すげぇ・・・。」
澪に声を掛けられ、下げていた顔を上げるとそこには夕日で赤く染まった街並みが見えた。それを見て、俺は思わず感嘆の声を漏らす。今、俺の目の前に広がる景色は幻想的ですらあった。
「ふふっ、すごいでしょ?私以外の人がこの時間帯にここに来るのは見たことがないから知る人ぞ知る穴場スポットって言ったところかな。」
澪は赤く染まった街を見ながら解説してくれた。
「もしかして、さっきのベンチで休んだのも・・・?」
「うん、少し時間合わせをしてたんだ。」
先ほど公園のベンチで休憩を取っていた際、澪が時計を頻りに確認していた理由がわかった。
「それにしても、なんで俺をここに連れて来たんだ?」
俺は「連れていきたい場所がある」と聞いた時から気になっていたことだ。
俺の言葉を聞いた澪は大きく深呼吸をした後、俺の目の前に立った。夕日の光が後光のように澪を照らしていてその姿はもはや芸術と言っても過言ではないだろう。
「それはね・・・。単純に翔斗君とこの景色を見たかったからって言うのが一つ目の理由。そして二つ目の理由はある言葉を伝えるために来たんだ。」
「・・・。」
俺は無言でその言葉の続きを待つ。
「・・・あなたの事が好きです。ずっとずっーーと好きです。」
対して澪は後ろで手を組み、とびっきりの笑顔でそう告げた。
「っ!?」
俺はあまりの衝撃に心臓が破裂したような気分になった。
「昔の時の明るいところもカッコいいところも元気いっぱいなところも今の時の優しいところも結衣ちゃんが大好きなところも私や淳君のためにいろいろ考えてくれるところも。考えればキリがないほど翔斗君の事が好きです。」
「・・・俺は、そんな大層な男じゃないよ。あの時は何も知らなかっただけだ。そして、今はただ後ろめたいことから目をそらしているだけのただの・・・臆病者だよ。」
俺は過去の事を思い出しながら自嘲気味に言った。
「知ってるよ、それも全部含めて好きなんだから。」
しかし、澪は即座に言い返してくる。
「やめてくれ、世間一般では俺は下衆の部類に『パァン!』。」
俺の話は澪のビンタによって止められた。
「やめるのは翔斗君だよ。それ以上は私に対する侮辱だよ。」
「・・・。」
澪の怒りの表情に俺は黙る。
「別に他の人が馬鹿にするのはヤダけど我慢する。でも、翔斗君自身が自分の事を卑下するのはいくら私でも許さない。」
「でも・・・」
俺は反射的に言い返そうとする。
「翔斗君は何もわかってない!!」
しかし、俺の反論が喉から出る手前で澪の大声によって止められた。
「あの時、ストーカーから助けてもらった時、私がどれだけうれしかったか。あの時、私たちを助けてしまったせいで翔斗君がいじめにあって私がどんなに後悔したかも全然わかってない!」
「お、おい澪。」
澪は涙が出ていることも気にかけず話を続ける。
「私のせいで翔斗君が心の底から笑わなくなってしまったことがどれだけ悲しかったか翔斗君はわかってない!」
「澪・・・。」
俺は何も言うことができず、ただ話を聞くことしかできない。
「私はあなたの強さも弱さも全部知ってる。だって、ずっと傍にいたから、ずっと見ていたから。」
「・・・。」
「翔斗君が自分の事を何度でも卑下するなら逆に私は何度でもこの気持ちを伝えるよ。それこそ、翔斗君が認めるまで何度だって。」
「昔のように戻らなくたっていい、無理だってしなくていい、私は翔斗君のそばに居続けるから。」
言い切ると同時に、澪は俺の体に抱き着いてきた。泣いているためか心なしか暖かく感じる。今はその感覚がとても心地よく感じられた。
「・・・ありがとう、澪。」
口からこぼれ出たその言葉とともに俺の中で重々しい扉が開く音が聞こえたような気がした。
遂に、澪が告白ですね。ここまで長かった・・・。




