表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
98/129

第2章 昏きに潜む-2


「龍音ー、今日静と一緒に甘いもの食べに行こうって話してるんだけど、どう?」

「パスー。今日も塾」

「ありゃま。大変大変とは聞いてるけど、ほんとうに毎日だね」

「うちの親が厳しくてねー。それなりの所に行かないと、学費は出さないぞなんて言うもんだから」


 瑠奈の誘いを、龍音は唇を尖らせながら断る。

 非常に魅力的な提案なのだが、ここで甘い言葉に乗せられてしまうと本当に後が怖い。

 なにせ一日休むだけで家に連絡が行くのだ。

 サボっていることがバレようものなら、父親から何を言われるかわかったものではない。

 はふう、とため息をつきながら、カバンを取り上げる。

 最近はこのカバンもずっしりと重たい。

 塾に行かないといけない時間を考えると、家に一度帰るわけにはいかないからだ。


「そろそろ行かないといけないから、先に行くね」

「うん、気をつけてね」


 じゃあね、と手を振って教室の外へと飛び出した。

 すると、廊下の向こう側から見知った一組の男女がこちらへ向かってきているのに気づく。

 無論その正体は琉衣夜と静だ。

 その手にはいくつかの袋が握られている。


「よお、もう帰るのか」

「うん、そろそろ電車に乗らないと間に合わないから」

「ああ、塾だったか。ちょっと待てよ」


 そう言って琉衣夜はごそごそと袋の中をあさり始める。

 そうして手に取ったのはおにぎりと唐揚げだった。

 小さな袋にうつしたかと思うと、そのままこちらへと差し出してくる。


「やるよ。食べずに勉強するのも辛いだろ」

「え……いいの?」

「最近帰る時に腹空かせてる顔してたからな。安心しろ、こいつよりはマシだから」

「ふむ、おんしは一度殴られておいた方が良さそうじゃの」

「人に自分の食い物も持たせておいてよく言うぜ」


 そう口の端を釣り上げて言う琉衣夜だが、直後にその後頭部を平手が襲っていた。

 それを見てクスッと吹き出してしまう龍音。

 「いってぇな」と抗議するように睨みつける琉衣夜だが、静はそれを意にも介さぬ表情を続けている。


「まあ、食事もとらずに勉強をした所で効率が良い訳もないからの」

「あ、ありがと」

「そういう訳だ、また明日な」

「うん、じゃあね」


 ひらひらと手を振りながら琉衣夜達は教室の方へと戻っていく。

 おそらく食堂から買ってきたのだろうが、あの大量の袋の中身をこれから全部食べるのだろうか。

 ……琉衣夜と瑠奈はあれだけ食べるタイプではなかったと思うので、静が随分と健啖家なのだろう。

 もらった袋の口を閉じて右手に握り、駅までの道を走り抜けていく。

 どういう経緯であれせっかくもらった食事だ。

 美味しく頂くこととしよう。


 早めの電車に乗れたので、塾にも少し早めに到着できた。

 おかげで琉衣夜の差し入れもゆったりと食べられる。

 おにぎりの中身は鮭だった。

 飲食ができるスペースでモグモグと栄養補給を続けていると、お腹も膨れて普段より余裕ができた気がする。

 お茶で最後の味を流しきって、はふうと一息をついていると塾の始まる時間がちょうど近づいていた。

 横に置いていたカバンを再度手に取り、教室へと向かい始める。

 すると、その途中でこれまで見た事のない金髪の男性があちらこちらへ視線を向けていた。

 見るからに迷っているようだ。

 無視して教室に行くことも考えたが、こちらに気づいた男性の方が口を開いてきた。


「おや、ここの生徒さんかな。申し訳ないんだけど、教室を教えてくれないですか?」

「え、ええ。いいですけど、どこに行きたいんですか?」

「Aクラスを探しているんですけど、迷ってしまいましてね」

「Aクラスなら私と同じ教室ですよ。一緒に行きましょうか」

「おお、それはありがたい。是非お願いします」


 ニコニコと微笑んで彼は彼女の後をついてくる。

 そういえば、これまで勤めていた先生が新しい人に変わるらしいとの話は聞いていた。

 彼がその新しい先生なのだろう。

 「こっちです」と先導しながら龍音は自分の教室へと向かっていく。

 ……そのせいで、龍音は背後の男性の表情に気づかない。

 

(……見つけた。これが例の監視対象の近隣者だね)


 そう、金髪の男性ヴァーリは薄い笑みを浮かべる。

 全く違和感を持たれていない辺り、それなりに馴染みこむことは出来そうだ。

 教師陣の方は魔導を多少使っているが、こちらは特に手を入れる必要性はなさそうだ。


「それにしても、この学校の雰囲気は良いですね。みなさん、勉強に非常に励んでらっしゃる」


 そんなことを呟きながら、ヴァーリは先導してくれている少女へ視線を向ける。

 さて、この少女をどのように自分の手のひらで転がすべきか。

 そんな思考を密やかに推し進めながら。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ