瑠奈と幽霊少女のお話 前編
二年ぶりの更新でしょうか・・・。
また定期的に更新していきたいと思っておりますので、よろしくお願いします。
ある日の昼休み、深夏瑠奈は玉置龍音から、その話を聞いた。
「ねえ、瑠奈」
「ん〜? どうしたの、龍音」
「琉衣夜の家から学校に行く道の途中に、すごく古い家があるの知ってる?」
「え〜、そんなのあるっけ……」
「ありゃ、知らないか。ま、注意してみないと気付かないしねぇ。……それでさ、そこには出るらしいのよ」
「それって……」
言いながら、両手を胸の辺りでだらりと下げるジェスチャーをした龍音に、瑠奈はゴクリと息を呑んだ。
「ユーレイ、って事?」
「あれ、瑠奈ってそういうの信じるタイプ?」
「……あ〜、うん。まあね」
少し引きつり気味の笑みを浮かべながら、瑠奈は龍音から目を逸らす。
瑠奈は幽霊や人魂と言った、いわゆるオカルトや怪談は実際にあり得ると知っている。だが、それを言ってしまうと色々と面倒なことになってしまうので、そこは適当に濁しておきたい所だ。
(というか、それ以前に私の中にも得体の知れないモノがいるしね……)
彼女は、その身に“四大天使”と謳われる存在の一体を身に宿して生まれてきた。生まれながらにしてオカルトの領域にどっぷりとはまっていたような子だ。
当然のことながら、瑠奈の周りは魔法も幽霊も呪いも何でもござれ状態だったのだ。今回龍音が話している「恨めしや〜」的な存在もいた。
が、彼女自身が直接関わったことはない。存在だけは知っているといった状態だ。
若干言葉少なになった瑠奈を、怖がっているのだと考えた龍音は、ニマーっと笑みを広げて言う。
「ほら、瑠奈と琉衣夜の家から登校してくるとき、途中に公園があるじゃない。あの近くに、一軒だけポツンと大分古い家があるのよ。そこで出るらしいよ?」
「へぇ〜」
そんな家、あっただろうか。
顎に指をやりながら思い返してみるも、心当たりはない。意外と近場に、そんな彼女が元いた世界の専門分野が転がっていたとは。
……少し、興味が湧いてきた。
「ねえ、龍音はそこに行ったことあるの?」
「あるけど……言うほどでもなかったわよ? ま、中には入ってないから、本当に出るかはわからないけど」
あそこ売り地って看板立ってるから、入りづらいのよね。
そんな風に付け足した龍音の言葉を、しかし瑠奈は殆ど聞いていなかった。
幸いにして今日は五時間授業だ。放課後はそれなりに時間が取れる。場所もわりと近いとくれば、これは一回行ってみるのも悪くはないのでは無かろうか。
「……よし」
「よしって、瑠奈アンタまさか……」
「うん、帰りにでも寄ってみる。琉衣夜、どこに行ったんだっけ」
「先生の所だと思うけ、ど……」
「ん、行ってみる。ありがとうね!」
「あ、ちょ……」
龍音が何か言いかけていたようだが、瑠奈は聞かずにそのまま駆け出した。
職員室へ行くと、目当ての人物はちょうど職員室から出てきた所だった。どんぴしゃだ。
「る〜いや〜!!」
「ん? って、ゴア!?」
こちらを向いた琉衣夜に、正面から飛びつく。琉衣夜は突然の衝撃にもどうにか対応し、胸元に跳び込んできた少女へ目をやった。
「おっまえなぁ……いつも言ってるけど、いきなり飛びつくなよ」
「えへへ〜、琉衣夜をみたら居ても立ってもいられなくなって〜」
てへり、とかわいらしく微笑むと、おでこに強めのチョップが入った。わりと手加減抜きだったらしく、それなりに痛い。
「いった! もう、何するのよ!」
「そりゃ、こっちのセリフだっつの!」
そんな風に言い合う二人を遠巻きにして、何人かの生徒が、ある者は羨ましそうに、ある者は微笑ましげに見ながら通り過ぎていく。
琉衣夜と瑠奈は一切知らないものの、それぞれわりと知名度が高い(琉衣夜は問題児として、瑠奈は美人の転校生として)のと、周囲をはばからずにいちゃついている(本人達にその気はない)事が重なって、実は学校公認のカップル扱いされていたりする。
それを知ったとある女子一名が、瑠奈のファンを集めて琉衣夜を襲撃したこともあったのだが……ここでは割愛させていただく。
ひとしきり言い合った後、どちらとも無く溜め息をついて、言い合いが終了する。同居生活も一月を越え、互いが互いに引き際を知ったためか、こういった言い合いが後に尾を引くようなこともない。
……その絶妙な距離感が、「恋人にしか見えない」といわれる所以でもあるのだが。
まったく、と呟きながら、琉衣夜は言い合っている間もちゃっかりくっついていた瑠奈を引きはがす。瑠奈としてはもう少しくっついていたい所だったが、言い合っている間にわりと時間を食ってしまった。
名残惜しいが、サクサク話をしていった方が良いだろう。
「琉衣夜、学校に来る道の近くに、お化け屋敷があるって知ってる?」
「お化け屋敷? ……ああ、公園の傍にあるヤツか。それがどうかしたか?」
「今日、そこに行ってくるから、夜ちょっと遅くなるね」
そう言うと、琉衣夜は辺りに誰もいなくなったのを確認してから瑠奈の耳元へ口を寄せてくる。
「<罪咎の巣>からの依頼か?」
<罪咎の巣>というのは、琉衣夜と瑠奈が所属している組織だ。とある国の首都に本拠地を構えており、魔術などが絡んだ、表沙汰には出来ない事故や事件を処理するための組織。
<罪咎の巣>に所属できるのが、基本的に放置しておくと色々まずいことになるレベルの実力者のみなので、必然とそこに寄せられる依頼も高難易度になる。おそらく、というかほぼ確実に、彼の言葉は瑠奈を心配してのことだろう。
そう思うと、胸が温かくなるのを感じた。
何せ、あの琉衣夜が心配してくれるようになったのだ。少し前までは、「自分の人生に関わってこないなら、他人のことなんかどうでも良い」なんて、素で言ってた、あの琉衣夜がだ。
まだ彼女や、龍音といった一部の人間にしか心を開いていないものの、それでも一歩だ。感慨深く思ってしまうのも、無理はないだろう。
「……瑠奈?」
「あ、ゴメン」
考える方に没頭していたせいか、琉衣夜が怪訝そうに尋ねてくる。それに一言謝ってから、事情を説明した。
「あのね、話だけ龍音に聞いたんだけど、さっきのお化け屋敷に幽霊が出るんだって。だから、行ってみて、もし私に出来ることがあったらやりたいな、なんて思ったの」
幽霊というのは、何かしらの理由でその場や物に縛られてしまった人であることが多い。つまり、その何かしらを解決してやれれば、幽霊は消える……というより成仏できるのだ。
無論、彼女に出来ることが必ずあるという訳でもない。もしかしたら、何も出来ないかもしれない。
それでも、行ってみる価値はあると思う。
瑠奈は、ほんの一週間ほど前に琉衣夜に救われた人間だ。彼が手を差し伸べてくれたおかげで、彼女は今のような楽しい日々を送ることが出来ている。
ならば、同じように他の人へ手を差し出すのは悪い事じゃないはずだ。
そんな彼女の思いが伝わったのだろうか、琉衣夜は緊張したような雰囲気を緩めて僅かに微笑んだ。
「今のお前なら、そこらの幽霊に憑かれるなんて事もないだろうけど……ま、気を付けろよ」
「うん、ありがと!」
礼を言われてもな、と苦笑しながら、琉衣夜は瑠奈の頭へ手をやった。少しの間だけ髪が全て真っ白になったりしたこともあったが、今は元通りの綺麗な茶髪だ。
龍音にちゃんとした手入れの仕方を教えてもらってからはフワフワサラサラになっており、触っているだけでも心地が良い。
もちろん、瑠奈の方も琉衣夜に撫でられてイヤになる訳がない。むしろ、目を細めながらその感触を楽しんでいる。
「さて、教室の方に戻るか。そろそろ休み時間も終わるしな」
「うん!」
放課後。
瑠奈は一人で、例の幽霊屋敷に来ていた。
これから夏へ向かっていく時期だからか、空はまだ明るい。だが、雲が少し出てきたのと、僅かに湿り気を帯びた風で梅雨が近いのも同時にわかる。
そんな、命がすくすく育っていく季節が近いというのに、目の前の家にはそんなこともまるで関係がないようだった。
建てられてから、まず確実に数十年は経っているだろう。木造の平屋で、ビルが近くにあるせいか薄暗いのも相まって、異様な不気味さを醸し出している。
「これ、一番に入った人本当に怖かっただろうなぁ〜……」
一人でそんなことを呟きながら、瑠奈は『立ち入り禁止』の看板を無視して敷地に入る。どこからか侵入できないか、と見回ってみる。雨戸で閉じられているだけだから、その気になればどこからでも入れそうだ。
まずは正攻法、とばかりに玄関のドアノブへと手をやる。普通なら鍵がかかっているだろうから、ここから入れないなら他の所、どこから入るべきか、なんて考えながら、ノブを回した。
すると、想像に反してノブはアッサリと回りきり、カチャリと軽い音を立ててドアが開く。特に何かをした訳でもないのに、アッサリと。
「不用心……なのかなぁ」
誰も住んでいないのだから用心もクソもないような気もするが、とりあえず労力をかけずに入れるのだからよしとしよう。
「お邪魔しま〜す……」
小さく言いながら、中に入る。
近代的なビル群の中にポツンと立っている昔ながらの平屋、という時点でかなり不気味なのだが、中はそれ以上に気味が悪い。
入ってすぐに土間があり、その奥に和式部屋があるようだ。が、雨戸が全て閉められているようで、光源が開けたままの玄関しかない。他の誰かに気付かれたくはないので、ドアは閉めておきたい所だ。
学校帰りでそのまま来たので、懐中電灯なんかも持ってはいない。
気は進まないが……他に手段もない。
「……力よ」
奥底深い井戸から水をくみ上げる感覚で、自分の内に眠る力へ語りかける。その力を利用して、今度は頭の中で魔導を組み上げていく。
琉衣夜が彼女の中の天使を撃破してから一週間、彼女が一人で魔導を使うのはこれが初めてだった。
最封印がされて瑠奈本人の調子が上がらなかったというのもあるが、瑠奈自身使わずに済めばそれが一番良いと思っていたからだ。
瑠奈に封印されている天使の力は膨大にして絶大であり、上手く使えば無双となりうるが、同時に彼女の意識が天使に侵蝕されていくというリスクも存在している。
今回の一件でかつての封印が全て壊れる寸前まで行ってしまった結果、瑠奈と天使の力はより密接にリンクしてしまっている。今は彼女が主導権を握っているが、無用なリスクは取らないで済むのが一番良いのだ。
緊張のファーストコンタクト。だが予想していたよりもアッサリと力は言うことを聞き、魔導の術式がすんなりと完成する。
「光を」
呟くと同時、瑠奈の掌に淡い光を放つ球が現れる。光量がとりあえず彼女の周囲を照らすのに十分であることを確認してから、玄関を閉めて小さく息を吐いた。
バタン、と扉が閉まり、家の中が暗黒と静寂に包まれる。
だが、決して無音という訳ではない。外で風が吹く音は微かに聞こえるし、虫か何かが這う音も聞こえてくる。
ボンヤリとした視界に、ほんの僅かに届く雑音。
ようは、ホラーなんかでお決まりのテンプレ廃屋という訳だ。
(る、琉衣夜に一緒に来てもらえば良かった……!)
今更になって激しくそう思う。声には出さないものの、内心では全力で震えていた。
元々瑠奈は、ホラーもスプラッタもサスペンスも嫌いだ。現実世界でいくらでも血を見ているし、人を傷付けもした。死の恐怖に怯えた事なんて一度じゃきかないし、誰かの策略にはめられたことだってある。
だからこそだろう、彼女はこれまでそう言った傾向の作品に食指を伸ばさなかった。それよりも、恋愛や友情を描いた本の方が好きだった。
実際には存在しないとわかっていても、せめて想像の中では幸せな世界を見ていたかったから。
ところが、彼女は本当に救いがあることを知ってしまった。
神も天使も恐れずに差し出された手を取って、幸せになってしまった。
すると、これまで興味がなかっただけの分野が、触れることさえ怖くなってしまったのだ。
触れていれば、自分がこれまでどれほど異常な世界に住んでいたのか、否応にも知らされてしまうから。
“大天使”なんて規格外の存在を身に宿しているのだ。いつかまたあちらの世界に戻らなくてはならないことも知っている。でも、だからといって、たった一週間で乗り切れる訳がない。
(で、でもでも、私が自分で行くって決めたんだから……!)
恐る恐る一歩を踏み出す。
そうだ、今日ここに来たのは命令でも任務でもなく、彼女の意志なのだから。
湧き上がってくる恐怖を必死に押さえ込みながら、なけなしの勇気を振り絞って瑠奈は歩き出した。
土間を上がり、ひび割れたガラスの入っている引き戸を開く。キィ、と小さな鳴き声がしたから、ネズミでもいるのかもしれない。
「光よ、中を照らして」
命じると、光量が僅かに増した。中は経年のせいか、ひどくボロボロだ。かつて使われていたのだろうちゃぶ台はカビに覆われ、座布団は虫食いで見るも無惨な状態になっている。
きっと、ここでかつては家族が集まって食事をしていたのだろう。その面影が微かに残っているせいか、余計にひどく見えてしまう。
小さく息を吐きながら、瑠奈は辺りを見回す。
噂の幽霊とやらは、どこにいるのだろうか。正直、今この瞬間にでも帰りたい所だが、そういう訳にもいかない。この部屋からは台所とさらに奥の部屋へ行けるようなので、まずは近場からと台所の方へ足を向ける。
「……おねえちゃん、だれ?」
背後から声が響いたのは、その瞬間だった。
とっさに振り向くと、そこに立っているのは八才か九才くらいの少女。
だが、ちょっと待ってほしい。瑠奈の理性は、全力で警告を発していた。
部屋の老朽加減を見るに、ここでは明らかに数十年近く人が住んでいないはずだ。彼女が今いる部屋に存在している物の損傷具合を見ても、それはほぼ間違いない。
にもかかわらず、この少女はまるで今もこの家に住んでいるかのように現れた。
では、この少女が……。
「おねえちゃん、だぁれ? どろぼうさん?」
そう尋ねられて、瑠奈はとっさに嘘をつくことにした。
「ゴメンね、突然。お姉ちゃん、道に迷っちゃって。出来れば、道を聞けないかな〜ってきたんだけど」
自分でも通じるかどうか怪しいと思うような言葉を並べる。だが、幸い少女はそれを本当のことだと思ってくれたらしく、首を傾げながら言葉を紡いだ。
「おねえちゃん、ほうこうオンチなの?」
「あはは、そうみたい。お父さんかお母さんはいるかな?」
「ん〜、いまふたりともおでかけしちゃってる」
「そっかぁ……じゃあ、二人が帰ってくるまで、少しここにお邪魔させてもらっても良いかな?」
「ん、いいよ。こっちおいで」
思ったよりもアッサリと少女は頷いて、瑠奈を奥の部屋へと誘った。それに瑠奈もついていく。ちなみに、光球は他の人が来ても少しの間は瑠奈の姿がばれないようにと、一般人には見えないように別の魔導でプロテクトしている。
同業者なら気付かれてしまうだろうが、そもそもこんな場所に魔導師が来るとも考えづらいと推測してのことだ。
「あ、そうだ。おねえちゃん、いまなんじかわかる?」
「え? ええと、ちょっと待ってね……」
唐突にそんなことを聞かれ、面食らいながらもポケットから携帯をとりだして時間を確認する。
現在時刻は六時を少し過ぎた所。思った以上に中に入ってから時間が過ぎていたようだ。
「今は夕方の六時ね。どうかしたの?」
「ん〜、ううん。なんでもない」
一瞬何かを考える素振りをした少女だが、結局何も言わずに奥の部屋へとさっさと入っていってしまう。
少し気になりながらも、瑠奈も彼女と同じ部屋に入った。
奥の部屋は、子供部屋だったらしい。
机が三つあるから三人兄妹だったのだろうか。ボロボロになってはいるけれども、眺めてみた限りでは二人は男の子だったようだ。
「そこは、あんまりさわっちゃダメ」
手に取って見てみようとした瑠奈に、少女がそう言った。振り返ると、少女はほんの少し悲しそうに言ってくる。
「ふたりとも……ケイにいちゃんもタカにいちゃんも、じぶんのものをあんまりさわらないで、っていってたから」
「そっか……ゴメン」
謝ってから、少女の隣にかがみ込む。ん? とでも言うように首を傾げる彼女の姿を、じっと観察する。
やせ気味の頬に、ボロボロの服。首に描けた手縫いらしき頭巾と、上着と似たり寄ったりのもんぺ。
やはり、どう考えても現代の服装ではない。彼女がかつて習った、戦時中の服装にかなり近い。
「ねえ、おねえちゃんのおなまえなんていうの?」
「私? 私は瑠奈よ」
「ルナおねえちゃん?」
「そう。あなたは?」
「ミカ」
「ミカちゃん。良い名前ね」
そういってからミカの頭を撫でる。すると、ミカは「えへへぇ」と子供らしく微笑んだ。
撫でることが出来る。つまり、実体がある……らしい。らしい、とつくのは、瑠奈が自身の身に天使を宿しているせいか、彼女が霊体にも直接干渉可能なせいだ。
よって、触れただけではミカが実際に生きている人間なのか、それとも霊体として存在しているのかがわからない。
わかるのは、ミカという少女が彼女の前にいるということ、それだけだ。
……とは言え、この状況で生きた人間という可能性は絶望的なまでに低いのだが。
そんなことを考えながらミカの頭を撫でていると、不意に携帯が鳴った。
見てみれば、琉衣夜からのメールが届いている。単に調査の進捗を聞いてきているだけだが、文面からは心配しているらしき様子がありありとわかる。
まあ、今日これ以上ここに粘っていても大した進展は見込めないだろうから、引き上げるには良い頃合いだ。
噂の幽霊が実在し、コンタクトを取ることが出来ただけでも上々としておこう。
「あ、ミカちゃん。私、どうにか帰ることが出来そう」
「そうなの? おむかえきてくれるって?」
「うん、そうみたい。……あのさ、もし良かったら、また来ても良いかな?」
「え? う〜ん……まよわずにこれるのぉ?」
「が、頑張るよ」
「じゃ、いいよ。こんどはあそんでね!」
頷きながら無邪気に笑う彼女の笑顔がたまらなくかわいくて、瑠奈はもう一度ミカの頭を撫でた。そんなことをやってる間に、瑠奈はさっき上がったばかりの玄関に再び戻る。
「それじゃあ、またねミカちゃん」
「うん、またね。ぜったいにきてね!」
手を振りながらそういってくれる少女に、瑠奈も笑顔で返しながら、玄関を出る。
外は、知らぬ間に夕闇に沈もうとしていた。
一度大きく息を吸い、思いっきり吐き出す。思った以上に緊張していたようだ。その深呼吸を境に、ようやく頭が働き出す。
振り向けば、ボロボロの平屋は未だそこにある。
龍音や他の人にも見えている以上、これが魔導によって生み出された物である可能性は低い。だとするならば、やはりこの家そのものに取り憑いたのだろうか。
(……そういえば)
「よう。どうだった、噂の幽霊少女は?」
ふと何かを思い出しかけた所で、後ろから声がかけられた。
振り向けば、そこには琉衣夜が立っている。右腕には、彼の形質である“黒”が這い回っていた。
心配してくれていたのだろうか。いつからいたのかはわからないが、彼が今ここにいることだけでたまらなく嬉しく思えた。
「琉衣夜〜!」
思わず、感情のままに飛びついてしまった。予想していたのか、琉衣夜はそれを横に一歩動くだけで躱してしまう。
少なからず残念に思いながら、瑠奈は引っかかりを覚えた。
「あれ、何で幽霊が女の子だって知ってるの?」
その質問に、琉衣夜は苦笑しながら答える。
「やっぱり下調べもしないで行ったな。龍音に聞いたり、ネットで調べたら、普通にわかったぞ」
「え、そうなの?」
「そうなの。というか、情報を何よりも大事にする魔導師が、これから対峙する相手のことを一切調べてないって、お前はアホか?」
そんな風に言いながら、彼は瑠奈の頭をペシリと叩いた。いつもの突っ込みよりも、若干痛い。表情は普段とそれほど変わらないけれど、大分心配させてしまったらしい。
「……ゴメン」
小さくなってそう言うと、琉衣夜はいつもの笑みを浮かべて「いいさ」と言ってくれた。
「さて、今日のところは戻ろう。夕飯、出来てるぞ」
「ホント!? 帰る帰る!」
琉衣夜の一言で、瑠奈のテンションが最高潮にまで上がった。スキップでもしかねない勢いで歩き出す彼女にもう一つ苦笑を零し、彼は平屋へ目をやる。
「……両親を待つ子、か。さて、どうなる事やら……」




