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side by side

第一部、最終章です。

 カチャリ、という軽快な音と共に鍵が閉まる。ノブを回して、きちんと閉まっている事を確認する。

「心配性だねえ」

「うるさいな。一人暮らしが長いから、仕方ないだろ」

 からかうような声の主は、エレベーターの前に立っている。まだ真新しい青高の制服姿が似合う少女だった。

 もう一度、念のために鍵が閉まっている事を確かめてから振り向くと、ちょうどエレベーターが来た。早く、早くと呼ぶ彼女にわかってるよ、と答えて乗り込む。

 あれからもう五日が過ぎた。

 二人の魔導師との激戦、大天使との死闘、二度目の契約など、恐ろしいほどにハードな一日であったにもかかわらず、琉衣夜も瑠奈も特に入院しなければならないような傷は無く、家で安静にしているように、と医者に言われただけだった。

 しかし、『黒』を酷使しすぎたせいか、雨に打たれすぎたせいか、その翌日に琉衣夜は四十度近い高熱を出してぶっ倒れてしまった。

 瑠奈曰く、度の過ぎた対天使の術式や形質の使用で、体力を全て絞り出してしまったのではないか、との事だった。

 そんなこんなで、ようやっと琉衣夜の熱も下がり、調子を取り戻してきたので、今日から再び登校である。

 瑠奈の方も司や美咲が手を回したのか、青高に正式に入学する事になっていた。ある意味では、今日が正式な初登校である。

 編入のための最後の細々とした手続きがあるらしいので、いつかと同じように二人は早めに家を出ている。やはり、通学の時間とは少しずれているので同じ高校の生徒は見あたらない。

 二人でくだらない話をしながら、通学路をゆっくり歩いていく。

「ねぇ、琉衣夜〜」

「ん〜?」

「ううん、なんでもな〜い」

「オイコラ、ケンカ売ってんのか」

 横の瑠奈に鬱陶しそうな視線を送ると、彼女はきゃー怖ーい、とふざけた口調で言う。本当に楽しそうに、幸せそうに。その顔を見るだけで、琉衣夜の表情もいつの間にか和らいでいた。

「おやおや、琉衣夜さん。な〜ににやけていらっしゃるんですか〜? もしかして、この瑠奈ちゃんの魅力にやられちゃったかな〜ん?」

 そうふざけて言ってくるが、琉衣夜はまじめな顔で切り返す。

「もし、そうだ、って言ったら、どうするよ?」

「ふえ!?」

 予想外の返しだったのか、瑠奈が吹き出す。思いっきり吹き出したのか、少し咳き込んでいた。大丈夫か、と背中をさすってやると、顔を真っ赤にしてこちらの顔を見上げてくる。

「る、琉衣夜、それ本気?」

「本気だ、って言ったら?」

「……ッ! うにゃぁあああああああ!!」

 さらに顔を真っ赤にして、瑠奈が唐突に叫ぶ。耳が一瞬何も聞こえなくなり、三半規管が狂ったのか身体がふらつく。

「ああっ! ゴメン、琉衣夜!」

 言って身体を支えてくれたが、思った以上に酷い。まだ耳鳴りが少ししている。

「お前な、自分で聞いといてそれはどうなんだよ」

「だって、だって……!」

 うっすらと潤んだ瞳で睨まれる。その顔から昔から持つかわいらしさに、若干ながらも女性の美しさも感じられて、琉衣夜は一瞬何も言えなくなってしまった。

「?どうしたの琉衣夜」

 怪訝そうに顔を覗き込まれる。その顔を見ながら、琉衣夜は知らぬ間に口を開いていた。

「瑠奈」

 何? というように茶色の瞳が、こちらの瞳を捉える。

「俺さ、…………」

 伝えたい事が、波になって発される。

 だが、その波が相手の耳に届いたかどうかはわからなかった。すばらしいタイミングで、二人の近くをトラックが派手な排気音と共に通っていったからだ。

「もう、タイミング悪いなぁ。ゴメン琉衣夜、もう一回言ってもらって良い?」

 トラックをムッとした表情で見送って、言ってくる。対して琉衣夜は、どこかすっきりとしたようにフッと笑うと、

「いや、何でもねえよ」

 そう言ってまた歩き出した。

「ええ!? 気になるじゃん、言ってよ!」

「やなこった。ほら、遅くなったらまた先生に怒られるから急ぐぞ」

 スピードを上げる。置いていかれそうになった瑠奈も、慌てて走り出しながら叫んでいた。

「ええ〜、何でよ言っても良いじゃん!? って言うか、速いよ〜!!」

 だが、琉衣夜は必死に聞こえないフリをした。というか、彼にはそれに答えられるだけの余裕がなかった。

(あんな事もう一回言えとか、無理だっつの! 恥ずかしすぎて、死ぬ!)

 顔が異様なほどの熱を持っている。走っている事もあるだろうが、これはそれは原因の熱ではない。これが収まるまでは、瑠奈に顔は見せたくない。

 暑さを振り払うべく、さらに琉衣夜は加速する。

「ちょっと、本当に速い、速いって! 待ってってば〜!!」

 それを後ろから瑠奈が必死に追いかける。文句を言いながらも、楽しそうに。

 太陽が薄い雲を抜けて、地上に光を届け始めた。もうすぐ暑くなり始めるだろう。

 それを見上げ、琉衣夜は小さく呟いた。

「面倒臭ぇな、全く」

ここまで読んでくれた皆さん本当にありがとうございます!

ここで一応、「side by side」は終了となりますが、もしかすると続きを書くかもしれないので、そのときはまたよろしくお願いします。


また、「side by side」でなくとも、新作はどんどんアップしていく予定なので読んでくれたらとても嬉しいです!


それではまた近いうちにお会いしましょう(ぺこり)

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