第3章 立ち塞がる者-6
花火を見届けたその翌日のこと。
琉衣夜と静は普段よりも少し遅く起きたこと以外は、特に変わらぬ一日を過ごしていた。
一つ違うことがあるとしたら、瑠奈もずっとそばにいることだろうか。
今朝は研究員とミランの手が空かないとかで、瑠奈ももう一日休みをもらったらしい。
昨日のお出かけと今日のお休みで瑠奈の起源はすこぶる良好らしく、終始ほんわりとした雰囲気を漂わせていた。
食後のコーヒーまで合わせて随分と楽しんでいるようだ。
その表情は、普段見かけることができないほどに緩みきっていた。
「……今日は随分とご機嫌だよな、本当に」
「そりゃあ、休みももらって美味しいものもたくさん食べられて……いい生活だよねぇ」
「おんし、昨日あれだけ食べたのにすごいの……」
「あら静、今日は随分と元気ないのね」
「……若干、まだ残っておって、な」
「そりゃあんだけ食べりゃそうなるだろうよ。俺の倍は食ってただろ」
料理の軽い重い関係なく食べていた上に、食べた量が量だ。
まだ残っていたとしてもおかしくはない。
というか、あれだけの量を食べてその程度で留まっている方が逆に恐ろしい。
「ま、後で動けば少しは楽になるだろ。準備しとけよ」
「ううむ、そうじゃの……。よろしく頼んだ」
「せっかくだし、私も相手しよっか? 二対一なら、まあ大丈夫でしょ」
「珍しいな。お前が模擬戦に自分から乗ってくるなんて」
「たまには良いかなー、って。いつもはやだけど」
「まあ、俺は別にどちらでも良いさ。静が動けるかどうかだな」
「む、うむ……。可能な限り万全な状態でできるようにしておくかの」
「そこでノーと言わないあたりが戦闘狂よね」
そんなことを言いながら、彼らはその日一日を過ごす。
場所こそ違えど、雰囲気は普段と変わりない。
食事をし、談笑をし、模擬訓練をし、各々の時間を過ごして就寝する。
海外旅行なのに外に出ていない点を除けば、まあそれなりな夏休みの過ごし方と言えるだろう。
だが、そんな日の夕方のこと。
「え、今から実験?」
「ええ、一つ思いついたことがありましてね。おそらく一時間程度で終わると思うのですが」
「ええ……明日じゃダメなの?」
「出来れば今からがありがたいですねぇ。その結果を経て明日の実験を決めたいと考えていますので」
「ええ……」
突然のミランからの要請に、瑠奈の表情が渋く歪む。
一汗かいて、これからシャワーの後に夕食だと言うタイミングで切り出されたらそりゃあ嫌がるだろう。
と言うか、琉衣夜でも断る案件である。
「せめてシャワーの後でいい?」
「それなら構いませんよ。またいつもの部屋に来ていただければ」
「……わかった。でも、そう言う時は早めに言ってよね」
「ええ、次回から気をつけましょう」
「それじゃあ、また後で」
「よろしくお願いしますよ」
ニコニコと嬉しそうに笑うミランを残し、瑠奈は部屋への道のりに戻る。
そのテンションの下がり方は尋常ではなく、流石の琉衣夜もかわいそうになってきた。
「気を落とすなよ。待っててやるからさ」
「そうとも。おんしの方が終わるまで、料理をキープしておいてもらうようにするからの」
「……うん、そうしてくれると嬉しいな」
はふう、とため息をつきながら部屋に戻る瑠奈を必死で励まそうと言葉を投げかける二人。
それが少しでも伝わったのか、瑠奈は部屋の前でにっこりと微笑んだ。
静に「頼んだわ」と小声で頼み、小さく手を振る。
それに静は「任せろ」と言わんばかりに右目をウインクし、一緒に入っていった。
「……やれやれ、変なことにならなきゃ良いんだが」
面倒くさげな気配を感じて、ガシガシと頭をかく。
その予感が当たるかどうかは神のみぞ知るといったところだろう。
琉衣夜としては何も起こらないことをただ祈るばかりだった。




