第3章 立ち塞がる者-3
「んで、許可は取れたわけだし今日一日は丸々休みってか」
「ふふん、やっとまとまった時間が取れたんだから、今日はたっぷり付き合ってもらうわよ」
「良いけど、大した案内はできないからな」
「良いよー、その分おごってもらうけどね」
「それは気にすんな。こっち来る時、多めに替えてあるから」
「へへ、やったね」
随分とルンルン気分の瑠奈を隣に、琉衣夜はやれやれと頭を振りながら答える。
しっぽがついていたら、間違いなく左右にブンブンと振り回されていたことだろう。
あまりにもわかりやすい少女の反応を、琉衣夜は苦い表情を浮かべるも内心は微笑ましい気分で見つめていた。
最近は研究の補助とはいえ、随分と退屈な日々を過ごしていたらしい。
なにせミランが引っ張り出してくる研究用生物との模擬戦闘を繰り返すばかりで、それ以外に変わったこともないらしい。
研究のためと律儀に付き合っていたらしいが、それでも色々と溜まっていたらしく最近は随分と静へ愚痴をこぼしていたようだ。
そんな所に、昨日の二人外出バレである。
何かが切れたらしい瑠奈に一時間ほどボロボロこぼれてくる愚痴を聞いた上で、あれだけ詰め寄られれば折れる他ないだろう。
「とりあえず美味しいもの食べたいよな。食堂の飯も悪くないけど、なんつうか給食と同じ感じがするんだよな……」
「……給食?」
「食べたことないからわからんの」
「……そうだったな」
一定以前の記憶が存在しない瑠奈と、まずもって普通の学校生活を送っていないであろう静の二人に共感してもらえるわけもなく、一人で若干もやっとした気持ちを抱える琉衣夜。
いや、別に食堂のご飯もまずくはないのだ。
ただある程度パターンが決まっているのか似たような食事しか出てこないおまけに、別に特段美味しくもないことから即行で飽きる。
食堂の素材を勝手に使って調理することもはばかられるために、普段から自分の好きなように食事をコントロールしていた琉衣夜としては、色々と不満が溜まるのである。
「ま、今日は夕方までは好きにして良いらしいし、とりあえず移動してから軽く食べようぜ。朝もあんまり食べれてないしさ」
「そうね。静も一緒に行くでしょ? 何か食べたいものある?」
「……構わんのか?」
「別に構わないわよ。一人だけ置いていかれたのが気に入らなかっただけで」
「……すまん」
「気にしないでってば。シュンとされた方がやりにくいわよ」
明らかに落ち込んだ表情を見せる静に、瑠奈は普段と変わらない様子でそう言い切り、個人的に調べていたらしきお店リストを見せる。
そこに並んでいるのはジェラートやパニーニなどわかりやすいイタリア料理のほか、イカスミパスタなんて変わり種も含まれていた。
……こいつは一日でこのリストの料理を食べ尽くすつもりだろうか。
「んで、どれから行きたいんだよ」
「全部」
「はいはい、そういうの良いから。一番はどれよ」
「ん? 何言ってるの、全部行くよ」
「……まじ?」
「マジ。静もいるし、大丈夫でしょ」
「……まあ、できなくはないだろうがの」
言い出した本人を前に、普段は全力で同意する静がドン引きしていた。
少なくとも琉衣夜は全ての店を回って一品ずつ食べただけでもオーバーフローすることが目に見えている。
「あの、本当に本気で言ってる?」
「本当の本気よ。私を一人置いていった罪、たっぷりとあがなうのね」
「……重すぎるだろ」
そう答える琉衣夜に、ニヤリと微笑む瑠奈。
その笑みからは普段全く見えない意地悪な部分がたっぷりと現れていて。
これまで一緒に生活をしていたはずなのに、まだ見ぬ側面を見たことに琉衣夜はひっそりと戦慄していた。
「さ、さっさと行きましょうか。あんまり出かけるのが遅くなって回る数が減っても楽しくないしね」
「ど、どうかお手柔らかに」
「んー、そうだなぁ。ま、現地でのリアクション次第ね」
「……あまり長く過ごしたわけでもないが、おんし意外と根に持つタイプじゃの」
「知らなかった? 次から気をつけてね」
クスリと微笑む瑠奈。
それだけを見れば、日向に咲く向日葵のような笑顔なのに。
その口から放たれるクスクス声に、二人は冷や汗を流すのだった。




