第1章 手を伸ばす者-5
ひゅうひゅうと自分の口から吐息がこぼれていくのを感じる。
その吐息があまりにもか細く、自分は本当に生きているのだろうかとさえ疑うほどだった。
しかし、自分は未だ生きている。
その実感は腹部のあたりからもたらされていた。
「ぐ、ぎぃ……あっ」
ぎちぎちと歯をくいしばるも、声が溢れる。
腹に当てた右手の隙間からぽたり、ぽたりと真っ赤な液体が滴り落ちていた。
脇腹のあたりを丸々貫通した傷は、もちろん自然に塞がることはない。
自然治癒の範囲を大幅に超えている負傷は、刻一刻と彼の生命力を削り落としていく。
(まずは……これの、治療から……)
激痛と貧血から飛びそうになる意識を必死に留めつつ、目をつぶって深く息を吸い込む。
瞬間、全身を駆け巡る魔力が主人の意思にしたがって収束し、彼の命をつなぐべく動き始めた。
魔導を介さない純粋な魔力のみでは、大きな変化をもたらすことは難しい。
ただの鉄を精錬することで一振りの名刀へと鍛え上げるように、ただの魔力を式や言葉を介することでその魔力は明確な指向性を手に入れ、結果として強大な魔導へと変化する。
対して、一切の指向性を持たない魔力は霧散するのも非常に早い。
意味を持つことなく放出された魔力は世界の流れに同調し、あっさりとその存在を消失する。
だがしかし、少年はそんな世界の常識を根底から覆す。
膨大な魔力を一点に集中させ、治癒の方向性のみを持たせて一気に回復を開始する。
瞬間、傷跡が塞がり始め、失われた血が生み出され始めた。
無論体力が戻ってくるわけではないので、これだけで戦闘を再開することはできない。
しかし、これで少なくとも移動はできるようになった。
ほんの少しできた余裕で指先を動かし、魔導で服を修復しにかかる。
ひとまず、今日のところは引き下がらざるを得ないだろう。この状況で再度突入したとしても迎撃されるだろう。
(待ってろよ……必ず、必ず……っ!)
ぎりぎり、と歯を食いしばりながら、彼は再び歩き始める。
その足取りは重く、未だ彼の物語は終わりを見せない。




