第1章 手を伸ばす者-1
チリチリとした気配に全身の肌が粟立つのを感じる。
眼前の少女が放つ殺意に、自分の体がわずかに震えていた。
これまで何度も手合わせをしているにも関わらず、相手の放つ気配には未だ慣れることができずにいる。
だが、少女はそんなこちらの事情など気にすることなく微笑んだ。
「そら、そんなに固まっておるとこちらから行くぞ!」
カラカラと笑うような声と共に、その足が踊るように地を蹴った。
瞬間、その体が一気にこちらへと飛び込んでくる。
魔導を一切使っていないにも関わらず、弾丸のように舞い込んできたその体に、どうにか反応して琉衣夜は体を動かした。
「させ、ねぇよ!」
右腕を腹の辺りへ迫りくる攻撃目掛けて振り下ろし、敵の木刀を迎撃する。
へし折るつもりで叩きつけたにも関わらず、激突の瞬間わずかに着弾点を逸らされて中心を攻撃できないまま終わった。
振り下ろした勢いを殺した相手は体が固まっている。そこを目掛けて左の拳を振るった。
「一発食らっとけ」
「させんよ、間抜け」
ニンマリと微笑んだ相手、“東方不敗”源静はしゅるりとその体を捻り、こちらの拳を躱す。
そのまま舞うように体を一回転させ、勢いをつけたままさらに横薙ぎに木刀が振り払われた。
後方からの横一文字を、拳を振るったまま体勢を前に崩して手をつく。勢いをそのまま利用して、後ろへと足を蹴り上げた。
「おっと、やはり油断ならんのぉ」
声は少し離れたところから届いてくる。一歩か二歩後退したらしい。
残した足を軸にして、するりと声の方向へと視線を戻す。
「そりゃ、何度もしごかれてるからな。このくらいは出来るようにもなるさ」
「ははぁ、良き相手を育てたものよ。ただの訓練でここまで楽しいのは久方ぶりぞ」
ケラケラと笑う静。
その表情は互いに防具すらつけていないにも関わらず、本当に楽しそうに微笑んでいて。
それに対し、琉衣夜は唇の端を吊り上げるに留まる。
“黒”を使えるならさておき、何の補強も無しに戦えば相変わらず負けているのはこちらだ。
こちらもそれなりに鍛えているにも関わらず、この少女はこちらの速度をただの肉体で上回っていく。
意地にかけて、そうそう何度も負けていられない。
「残りは、あと五分ほどか。さあ、心ゆくまで戦り合おうぞ」
「それはこっちのセリフだ!」
だん、と地を蹴り、今度は琉衣夜の方が前に出る。
瞬間、ごぎぃ!! という音が鳴り響いた。




