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序章 剣鬼の産声


 その瞳に狂気を宿し、

 その腕に凶器を握り、

 その体を狂鬼と成して、


 それでも、心は人間だった。



 ソレは、敵に飢えていた。


 腕を振り上げ、振り下ろす。

 それだけで、目の前の生物が肉塊へと変わった。


「…………」


 崩れ落ちた残骸にかける言葉はない。

 すぐさま次の獲物を見据え、再び手の中の得物を構える。

 音一つ立てずに肉薄し、獣は爪を振り上げた。


「…………」


 声一つあげられないまま、狙われた敵は絶命する。

 一息で駆け抜けた獣の背後で、辞世の句を告げる間も無くその体が崩れ落ちた。


「…………」


 しかし、獣はそれにさえ興味を示さない。

 その目はすでに次の標的へと移っている。その視線に魅入られた哀れな獲物は、逃げることも立ち向かうこともできないまま、その場で棒立ちになってしまう。


「…………」


 言葉をかけることもなく、何かを言い残させることもなく。

 ソレは一陣の風となって対象の全身をズタズタに引き裂いた。


「…………」


 それにさえ、獣は興味を向けることはない。

 背後で敵が倒れ臥すのは、承知の上。見る必要が無いほどに、それの脳内を駆け巡るイメージの通り標的は崩れ落ちる。

 故に、獣は視線を前から逸らさない。


 求めるは、更なる敵。

 自らの心を奮い立たせ、遥かな高みへと導いてくれる相手。

 それ以外は、不要なものだ。目をくれる価値もない。


「…………」


 だから、ソレはさらに前を見据え。

 静かに、しかし鋭い視線を投げかけながら、歩を進めていく。

 その表情に、喜びはまるで見えない。

 ただ、その歯を肉食獣のようにカチカチと鳴らしながら、次なる獲物を目指して突き進む。


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