序章 剣鬼の産声
その瞳に狂気を宿し、
その腕に凶器を握り、
その体を狂鬼と成して、
それでも、心は人間だった。
◆
ソレは、敵に飢えていた。
腕を振り上げ、振り下ろす。
それだけで、目の前の生物が肉塊へと変わった。
「…………」
崩れ落ちた残骸にかける言葉はない。
すぐさま次の獲物を見据え、再び手の中の得物を構える。
音一つ立てずに肉薄し、獣は爪を振り上げた。
「…………」
声一つあげられないまま、狙われた敵は絶命する。
一息で駆け抜けた獣の背後で、辞世の句を告げる間も無くその体が崩れ落ちた。
「…………」
しかし、獣はそれにさえ興味を示さない。
その目はすでに次の標的へと移っている。その視線に魅入られた哀れな獲物は、逃げることも立ち向かうこともできないまま、その場で棒立ちになってしまう。
「…………」
言葉をかけることもなく、何かを言い残させることもなく。
ソレは一陣の風となって対象の全身をズタズタに引き裂いた。
「…………」
それにさえ、獣は興味を向けることはない。
背後で敵が倒れ臥すのは、承知の上。見る必要が無いほどに、それの脳内を駆け巡るイメージの通り標的は崩れ落ちる。
故に、獣は視線を前から逸らさない。
求めるは、更なる敵。
自らの心を奮い立たせ、遥かな高みへと導いてくれる相手。
それ以外は、不要なものだ。目をくれる価値もない。
「…………」
だから、ソレはさらに前を見据え。
静かに、しかし鋭い視線を投げかけながら、歩を進めていく。
その表情に、喜びはまるで見えない。
ただ、その歯を肉食獣のようにカチカチと鳴らしながら、次なる獲物を目指して突き進む。




