幕間ーとある少女の記憶ー
「あなたとこの子だけが私の生きた証、私の愛する子。愛してるわ」
一番初めの記憶は、お母さんからの愛に満ちた眼差しだった。
ぽかぽかとあったかい日差しの下、お母さんとお母さんが作った土人形のエメトに抱きしめられて過ごした日々。
私の大切な記憶は、これだけだ。
私には、お父さんはいなかった。
お母さんにどうして? と尋ねても、笑って誤魔化すだけで、答えてくれない。
けれど、私がその質問をするたびに、決まって怖い顔で空を見上げるから、いつのまにか私はお母さんに聞かないようになった。
私には、お友達はいなかった。
魔導を知らないみんなからは、「父無し子」と言われていじめられた。
私はしゃべるのが苦手だったから、「やめてよ」と返すことができなかった。
魔導を知ってるみんなからは、「泥人形」と言われていじめられた。
私はみんなと比べて魔導を使うのが下手だったから、何をされても答えることができなかった。
私の大切なものは、一緒にいてくれるお母さんと、エメトだけだった。
それなのに。
この世界は、私からお母さんを奪った。
覚えているのは、目の前に倒れて動かなくなったお母さん。
覚えているのは、私を抱いて必死に逃げ続けるエメト。
覚えているのは、ぐちゃぐちゃに歪んだ笑みを浮かべて私達を追い掛けてくる男達。
覚えているのは、私の前でバラバラに壊されたエメトの残骸。
ここからの記憶は曖昧だ。
私に残されたのは、お母さんがずっと力を注ぎ続けていた、エメトの魔導結晶だけ。
私をいつも迎え入れてくれた家も。
私にいつも温かいご飯を作ってくれたお母さんも。
私を抱きしめて守ってくれたエメトも。
全部、全部、亡くなってしまった。
あれから、どれだけの日々が経っただろう。
あれから、どれだけ代わりを求めてきただろう。
「おいで、エメト」
小さな声で、彼を呼ぶ。
今の彼は、本当に小さい。核になっている魔導結晶には不釣り合いなほどに小さい。お母さんと一緒にいた時の、半分くらいしかないんじゃないだろうか。
けれど、それでいいの。
私を抱きしめることができれば、それでいい。
それだけで、安心できるから。
それだけで、私は私でいられるから。
「もう少しだよ、エメト」
呟くと、エメトは小さく首をかしげる。
その仕草が記憶の中のお母さんに本当に似ていて、私は思わずくすくすと笑ってしまう。
「もう少しで、二人だけになるからね」
そう言って、彼の少しザラザラな頭を撫でる。
そうするとエメトは喜ぶから。
もう少し。
あと、本当にもう少しだ。
エメトと二人っきりになれるまで。
エメト以外のいらない人間がいなくなるまで。
だから。
「それまで、もう少し我慢してね」
そう言って、私も微笑む。
誰もいなくなった世界で、私とエメトが幸せに暮らし続ける。
そんなことを夢見ながら。




