瑛(てる)
これ。私が希望してもいいのかな?
年齢はOKなんだけど、ガチの勝負だと足引っ張っちゃうし。
やっとサッカー教室で蹴れるようになってきた程度だしな。私レベルを募集してるわけじゃないよなー。
でも、
試合やってみたい。
せっかく、練習してるんだから。とは言っても、いきなり大会は無理だよね。
うーん。
「てるさん。興味あるの?」
サッカー教室オーナーの律さんだ。
「あります。でもねー。私、ど素人だから…」
「みんな最初はど素人よ」
「てるさんはさ、なんでサッカー習おうと思ったの?」
うーん。笑われるだろうなー
「Jリーグが始まった時、ワクワクしちゃったクチなんですよ」
「ほー。いいじゃないですか」
「ずっとジュビロ磐田のサポーターで、名波が好きだったんです」
「いい選手だよねー名波」
「あんなことしてみたい。と、今更思っちゃったんです。この歳でできるわけないのにw」
「はじめるのに遅すぎるなんてないですよ。要は始めるか始めないかです」
…今の言葉、何かが動いた気がした。
そうなんだ。時間と仕事に余裕ができて、このサッカー教室を見つけた時、ドキドキした。始めることは簡単だった。「でも、だって、どうせ」と、始めない理由を探した。自分で自分を引き留めた。
それは、頭で思い描くサッカーができる自分ではないこと。
あの名波のようなプレイは、どんなに頑張ってもできない。
無様で
かっこ悪い
おばさんの球蹴りだ。
「大事なのはてるさんがどうしたいかだよね?現にてるさん、ここに来て、サッカーを習い始めたじゃないですか。そしてできることが増えている」
「そうでしょうか?」
「うん。てるさんが実際に動いたことで、0は必ず1になる。動かなきゃそのままだよね」
…そっか。動かなきゃ何も起こらない。
「てるさんと同じ始め方の生徒さんいるから紹介しようか?」
え?この歳でサッカー始めたってこと?
「ウチのスタッフだけど、会ってみる?多分、見たことあるよ」
「会いたいです!」
「ちなみに彼女もその試合に出るよ」
彼女?女性なんだ!
「りーん!」
ピッチに向かって律さんが叫んだ。
走ってくる女性は同年代だ。
ボールを抱えて、練習をしてた?
「鈴、紹介するよ。入部希望者!」
え?入部?
「わー!ありがとう!一緒に頑張ろう!」
「私・・・まだ」
「てる、動かなかったら、はじまらないよ」
「てるさん、私もサッカー始めたの、遅かったよ」
「え?」
「今も下手だよ。でも、試合出るよ」
「……怖くないですか?」
「怖いよ。でも、やりたいんだもん」
「てるさん、私は今も迷いながらサッカーしてるよ。でもね。結局、やりたいが勝る。やらなかったら、時は過ぎていくよね。今は戻らない」
そうだ。やりたかったサッカーを始めて思ったのは、
今まで何を躊躇っていたのだろうと言うこと。
1日でも若かったら、もう1日早く始めていたらと、何度思ったことだろう。
1番下手くそなのは今の私。
でも、
1番やる気があって、1番若いのも今の私。
やるなら今なんだ。
「私、やりたいです。やらせてください」
「やった!てるさん!よろしく!私のことは『りん』って呼んで」
「ってことで、チームメイトの『りつ』だ。よろしく。てる」
「律さん、チームメイトなんですか?」
「そうだよ。だから今後は『りつ』でいいよ」
「または『ばか律』」
「ばかはいらない!」
あー!扉が開いた!
チームサッカーができるんだ。
りつ。りん。
こうして学生時代みたいに下の名前で呼び合ってボールを蹴るんだ。
チームで戦術とか、つなぐとか、考えながら。
名波にはなれない。
でも、あの日憧れたサッカーへの第1歩だ。
遥か遠いゴールへの1歩だけどね。
目の前の課題はたくさんあるけど、今はワクワクが止まらない。
りつ、りん。
これからよろしく。
私はここからスタートする。
明日に続く




