瑛
練習試合。
1試合目は、梶が以前に所属していたチーム。
以前、律のサッカー教室生の時に対戦したことがある。
若い10番の選手を中心にしているチームだ。
決定力はあるんだけど、そのためのパス供給をしていた梶が今はこちらのチームにいる。
さっき、ちょっと聞こえてきちゃったんだけど・・・
「おっさん、あっちのチームに行ったんだな」
「俺、おっさんのパス、好きだったんだけど」
「大丈夫だよ。ボールは全部、お前に集めるのは変わらないから」
「あっちは、おっさん、おばさんチームだし」
おっさん。
梶、そう呼ばれてたんだ。
なんか、ちょっとむかついたけど、ちょっと笑っちゃった。
(あーこれって、律の作戦にハマっちゃうヤツだ)って。
それにあの10番、俺様かと思ったら、ちゃんと梶のいいとこ分かってたんだって。
でもね。悪いけど10番、梶はただのパサーじゃないからね。
君らが勝手にそう思ってただけで、君らの「おっさん」はただの「おっさん」じゃないことを思い知ることになるよ。
そう。
おばさんだってさ。
1対1じゃ負けるけど、チームプレイだからこそできることあるし、君らよりチーム練習してるからね。
私はというと、パントキックの練習後は、ひたすら動き出し、飛び出しからの浮き球をダイレクトシュートする練習。私にトラップはいらないらしい。
グラウンダーのボールもワンタッチでゴール前に出す練習をひたすらやった。
「ゴール前にパスを出す気になるな。常に全力シュート。人は見ない。ゴールだけ見てな」
これが律からの指令。
試合経験の少ない私には、気持ちいいくらいわかりやすい。
動きから見ても初心者の私は、相手チームにマークはされない。
ボールが動いてからでも間に合うと思われてる。
でも、私はトラップはしない。
それもゴール方向にしか蹴らない。
飛び出してダイレクトで蹴る。
(嘘だろ?)ってプレイしかしない。
それで私は、なんと本日1アシスト1ゴールしたのだ!
アシストはこんな感じ。
ものすごく単純なんだけど、10番に攻め込まれたボールを鈴が右を切って左に蹴らせた。それを航がインターセプト。縦に律を使うと思わせてDFを左に集めたところで、サイドチェンジして私にロングキックを蹴ってきた。
DFがそれを見てズレる。
私はそれをトラップせずにゴールへ蹴る。
(嘘だろ?)のプレイだけど、これ、何度も練習したヤツ。
でも、当たり損ねた。
律のすごいとこは、そこまで計算に入ってるってとこ。
その変な浮いた球をゴール前で競り合っていたのは、なんと律と山だったw
結局、律の頭がゴールを決めて、私に初のアシストがついた。
おー!
そっか。私がゴールしか狙ってないから空振りしない限り、ゴール近辺にボールはくる。そこを律と山は狙ってたんだ。
私はダイレクトしか蹴らないから、2人の飛び出すタイミングは速い。オフサイドラインギリギリからゴールに向かえる。
たとえ、シュートが決まらなくてもシュートのつもりで蹴らせたのは、強めのパスにもなるからだ。
LSBの航が私に右手を挙げ親指を立てて見せた。
嬉しい!
でも、私が狙うのはシュートだ。
そして待望の初ゴールはRMF仲のカットインからのパスだった。
仲は強めのグラウンダーのパスを落とす。
それは、練習の時から私と鈴にパスを出すときに限っていた。
その力を使ってキックをすることで、速く強く重いシュートになる。
振り切ったボールがゴールに向かう。
なんか、そこだけスローモーションだった。
ゴールネットが揺れた。
え?
入った?
「瑛ーーー!」
みんなが走ってくる。
入ったんだ。
私のシュート。
すっごいかっこよかった!
仲のおかげだ。
いや、私のできること、できないことを受け入れて練習を組んでくれた律のおかげ。そして、信じてくれた仲間のおかげだ。
結果5−0圧勝だ。
「おっさん、ひどいじゃん!コテンパンじゃん!」
「あんなにゴール決められるなら、うちでもやってくんなきゃ!」
終わってから梶さんが、相手チームにもみくちゃにされていた。
10番が言った。
「梶さん、大会終わったら必ず戻ってきてよ」
梶は笑っていたけど(無理だな)と思った。
だって。私だって律のサッカーの楽しさ知って中毒になってる。
3点もとった梶は、私より重症なはずだ。
「おばさん、ナイスゴール」
相手チームのゴールキーパーに言われた。
私は笑った。
「おばさんじゃないよ」
胸の番号を指さす。
「私は、瑛」




