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梶(かじ)

「キャプテン翼」がみんな好きだった。

だから、サッカー始めたっていうよくあるパターンの私。

この時代はそりゃあみんな翼くんになりたくて、みんなイナヅマシュートを目指してたんですよ。みんな、自分にとっての岬くんは必須でした。

翼くんがゲームを作る人、岬くんがそれを理解してつなぐ人。

自分で突破もできるし、パスもシュートもできる、つまり自分を中心に攻撃そのものを作れる選手の翼くんに対し、翼くんの考えていることを察して、翼が次に欲しい場所へ先に動けること、パスを出せることができるのが岬くん。


何が言いたいかって言うと、私はいつだって岬くんだったんです。

誰かに見つけられて、「使える」「俺に出せ」「理解しろ」ってね。そんなこと言われなくったって、悲しいかな理解できちゃうんですよ。性格の悪い翼くんばかりと出会ってきました。残念ながら、マンガの翼くんと岬くんのような関係が結べる選手に出会えなかったな。


学生時代も私はいつだって顧問の先生に「岬くん」に指名されてました。

嫌じゃないですよ。それができればレギュラーは取れたし、私以外には岬くんにはなれないと思ってたし。それで勝てるなら嬉しいし。


ただね。あー私は翼くんじゃないんだ。


そう思うと、ちょっとだけね。

楽しいはずのサッカーに陰りがさすんです。


草サッカーのチームでもそうでした。

翼くんはどこにでもいて、僕は都合のいい岬くんになるんです。

こんな言い方、私も性格、相当ひねくれてますよねw

で、今回スカウトを受けて大会要員として新しいチームに来てみたら、岬くんにもなれなかった。


鈴はセンスがいい。

テクはないけど、私がやってきた岬くん役をやってくれる。ただ、パスコースを作るための動きが遅い。ロングキックが短い。

ただ・・・

律の戦略は、それ、ありきなんですよ。


「梶をスカウトしたいって言ったのは、鈴なんだよ」

律は説明してくれました。

「鈴はね。梶を『翼くん見つけた』って言ってたw俺は、梶は岬くんだろって言ったのよ。でもさ。『私と組んだら、翼くんだよ』ってね。あーなるほどねって思った」

?鈴と組む?

「そうそう。多分、梶はプレイヤーの理解が早いし、ピッチでコントロールできる。鈴から出るパスを自由自在に動かして欲しい」

それって岬くんじゃない?

「左FWには俺がいるから、出してくれればシュートまたはクロスで瑛がどーん!直接、瑛でどーん!もあり」

やっぱり、岬くんじゃないですか・・・

「でもね。最優先は、梶のミドルシュートね。山さん使って、当ててシュートもあり。俺からも瑛からもパス出せるポジション取れるでしょ?ドリブルもいいし。鈴は梶のイナズマシュートが見えたんだってさ、あの試合でw」

私は、シュートしてないんだけど・・・

「同じことでしょ?人を狙って蹴るのもゴール狙って蹴るのも。球質も距離もコントロールも2列目の武器になるって言うのよ」

「そんなこと、言われたことないです」

「鈴ってね。すっごいサッカーオタクだから見る目はあるのよ。WEリーグにうちの女子チームから移籍した蒼、パパの娘ね。高1の時に鈴がスカウトしたんだよ。あいつ、県リーグの得点王2人育ててるからw」

「すごい人に、私、見つけもらったんですね」

「そう。だからね。梶の最優先はゴール。全体は鈴が見て指示を出すから、遠慮なく自分の見える景色で判断して欲しいんだ」

「でも、私がパス出した方が確実な場面なら?」

「出せばいいじゃん」

「……え?」

「梶が決めればいいのよ。打ちたきゃ打つ。瑛が見えたら出す。山さん使いたきゃ使う。ドリブルで行けると思ったら行く。時に翼くん、時々岬くんでいいじゃん」


律はホワイトボードの私のマグネットを指で弾いた。

「俺が欲しいのは、俺の言うことを理解する梶じゃない。梶が見えてるものを、俺らに見せてくれる梶」

……なんだ、それ。

そんなこと、言われたことない。


「さあ、翼を与える。羽ばたきたまえ!」


40歳で、翼くんになれた・・・


鈴に聞いた。


「なんで、私がシュートできると思ったんですか?」

「え?だって、あのパス、すごかったから」

「パスですよ?」

「うん。だから」

話が通じない。

「あの距離から、走ってる10番の足元にあれだけ強いボール蹴れるんでしょ?ゴール、動かないじゃん」

……そういうこと?

「それに、梶さん、ずっと周り見てた。だったらゴールも見えるでしょ?」

なんだ、この人。


初めての練習。

鈴からボールが来た。

前を見る。

瑛が走ってる。

山さんもいる。

左には律。

三本、パスコースが見えた。

いつもの私なら、迷わない。

一番確率の高いところへ出す。

でも。

ゴールも見えた。

――梶の最優先はゴール。

右足を振った。

「うぉっ!」

ボールはゴールの上を越えていった。

「おーい!翼くーん!イナズマシュート、宇宙まで飛んでったぞー!」

律が笑ってる。

うるさい。

でも、私も笑ってた。

外したのに。

パスを出した時より、ずっと悔しい。

もう一回、打ちたい。

ああ。

これが、翼くんか。

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