鈴
とうちゃん、聞いてよ。
律ったらほんと、しょーもないんだから。
O40(オーバー40)の全国大会は、毎年、秋に行われる。
そこに出場するには、関東大会に出なきゃならない。
そして、関東大会に出るには、埼玉県予選を勝ち抜かなきゃならない。
さらに、埼玉は3リーグあって優勝して勝ち上がらなきゃならない。
3年かかる。
果てしない・・・
律、どうするつもり?
埼玉は西武台と三郷の2強がいて、にわかチームじゃ歯が立たないよ。
「ねぇ、鈴。俺、そんなの目指してないよ」
へ?これじゃないの?
「鈴、これに出ようとしてたの?そりゃ、シニアのチーム所属はするから出られるけど」
「全国、行かないの?」
「逆に聴くけど、行くの?」
「…無理だとは思う」
「うん。予選は参加してもいいけど。楽しさは失いたくないわけよ」
「だから、大会はここから参加。天然芝で1泊2日、温泉付き!」
「おー!!!」
「フレンドリー部門とチャレンジ部門があるんだけど、ここはチャレジで行こうと思う」
「いいね。本気で楽しもう」
「埼玉県予選もね。勝ち上がったら面白いけど、11人ギリギリは流石に厳しいよな」
「O40とは言え、選手層は厚いからね」
「この大会も秋だから、全国出られなかったチームが来るかもね。ひゃーワクワクする!」
なんでワクワクできんだろうねーこの人は。
「あとさーユニどうする?」
「そうだね。大会出るなら最低ホームとアウエイの2種は作らなきゃだな」
「ホームは水色かな」
「えー!赤じゃないんだ。鈴は赤って言うと思った」
「瑛さん、ジュビロだからねー遠慮してみた」
「いやいや。水色って意外と他のチームと被るのよ」
「そうなんだ。じゃ、赤白とか?昔のフェイエみたいな」
「あーシンジがいた頃のね。いいかもね」
「セカンドは黒とか」
「被りそうにないけど、暑くね?」
「じゃ、黒白」
「ファーストがお祝いで、セカンドが忌まわしい感じだなw」
「パンツとソックスはどっちも黒で、番号はゴールドがいいな」
「んーじゃ、とりあえず絵にしてみんなに相談してみよう」
…でさ。ずっと思ってたんだけど…
「うちのチーム。なんて名前なの?」
「あ…」
「考えてなかったの?」
「あはは…」
さすが、ばか律。
「明日、みんなにそれも相談しよう!」
「原案作ってなかったら、みんな、呆れるから。考えておいでよ。宿題ね」
「ほーい」
…期待できない。変なの考えてきそうだ…
次の日のミーティングは荒れに荒れた。
原因は戦術ではなくて、律の持ってきたチーム名だった。
①FC老眼…当然却下
②FCオジオバ…意外にも「ojioba」ならいいという意見もあった。
③FCdareno…落とし物みたい
④FC GODZILLA…強そうだけどね
⑤FC kitty…弱そうだよね
⑥FC mine…パッとしない
で、最後に出してきたのがこれだった。
「FC1999」
なーに出して来るんだよ、律。
「律、それさー」航が言いかけると
「世紀末ってこと?ノストラダムスの予言の年?」と瑛がおもしろそうに言った。
「数字って無いからいいかもね」賛成の声が上がる。
「いや、その年号は…」航が止めにかかる。
「律は忘れられないんだよねーりんくんとのサッカーが」と私が笑った。
みんなの頭の上に「?」が浮かぶ。
「鈴のダンナが亡くなった年なんだよ」航が短く言った。
「そ。俺たちにサッカーの楽しさを教えてくれたヤツが亡くなった年」
「なんで?どうして…その年をチーム名にするの?」瑛が顔を歪めた。
「俺のサッカーの原点があいつでさ。あいつが亡くなった時、俺、誓ったんだよね。あいつから教えてもらったサッカーの楽しみ方をみんなに繋げるって」
これ、お酒飲んでは律が泣きながら私に話すやつ。
「だから、俺のスタートでもあるんだよね」
ほーら泣き出した。え?航まで泣くの?やめてやめてって!
「スタートなら、チームのスタートで今年の年号でいいじゃん」と私が言うと
「いや。鈴がよかったら、それで行こうよ」
「俺たちが好きだったサッカーはそこからだったんだ…」
東高卒業生組も神妙な顔になる。そんな大袈裟な名前にしなくていいから!みんながそんなもん背負わなくていいって!
結局、FC1999になった…
なんだかなぁ。
とうちゃんが死んだ年を背負って、サッカーするって。
ちょっと重い。
でも、律にとって1999年は、とうちゃんを失った年じゃないんだろうな。
とうちゃんからもらったサッカーを、自分で繋ぎ始めた年なんだ。
それなら、まぁ、いいか。
それに今はもう、私だけの1999じゃない。
律がいて。
瑛がいて。
梶さんがいて。
パパたちがいて。
私がいる。
上手い人も、そうじゃない人も。
昔から蹴ってきた人も、最近始めた人も。
みんな、まだサッカーがしたい。
それだけで集まったチームだ。
FC1999。
うん。
悪くないかも。
とうちゃん。
私たち、まだまだサッカーやるよ。




