行ってみたいの!
街頭の少ない商店街は、二人の影を濃くしていた。
エストレア高等学校の周辺は都市開発が進み、かつて空き地であった場所にあたらしい住宅地や商店が立ち並ぶようになった。
この商店街――アンジュ商店街もその一つだった。
立ち並ぶ店はどれも小物雑貨や、若い夫婦の営む軽食屋やカフェなどだ。
それでも学生の立ち寄るこのエリアの強みというべきか、新興地であるにも関わらず安定して経営している店がほとんどだった。
「そういえば、アンジュ商店街ってまた仰々しい名前だよね」
ハルカは店のショーウィンドウを物色しながら言う。
レイは、時折気まぐれに好みの雑貨やアクセサリーを見つけては立ち止まるハルカの後ろをついていく。
「ああ、なんか昔は『聖』なんてのもついてたらしいしね」
レイは、空に「聖」と書きながら言う。
「なにそれ〜。ちょっとこの辺には似合わなくない?」
「うん、ほら、聖っていうと、聖アンジェリーノ教会があるじゃん。それ経由なんじゃないの?」
「え?知らないんだけど」
二人の間に沈黙が落ちる。
しばらく考えた末に、レイが口を開く。
「ほんとに言ってる?この辺だとそれなりに大きい教会なはずなんだけど」
少々呆れ気味な様子のレイを横目に、ハルカは拍手をする。
「さっすがレイ勤勉だな〜」
「う〜わ、ダル…」
「冗談だって」
商店街の中心地から外れ出したことに気づき、一度歩みを止める。
レイが近くを見回し、一帯の地図が載っている掲示板を見つけると、二人はそこに駆け寄った。
ハルカは指で空を切りながら、今いる場所を探した。
「もしかして、今私たちここにいる?」
ハルカは掲示板を指差し、レイに尋ねる。
レイはわずかに目を動かすと、一度うなずき同じところに指を置いた。
「そう、今いるのはここ」
「よかった〜。じゃあさ、さっき行った『聖アンジェリーノ教会』ってもう少し奥に行ったところじゃない?」
ハルカとレイが指さす場所から、ハルカの指だけが動き出した。
レイの指さしている場所から数えると裏手を三本進み、右折したところにあった。
ハルカの瞳はそこを捉えて離さなかった。
「まあ、行ったことないけど、そうなんじゃない?」
じっと掲示板を見つめるハルカを横目に捉えつつ、レイは答える。
(また、あの目…。ハルカにだけ見えるなにか…)
「行ってみようよ!」
「え?」
「行ってみようよ!」
「いや、聞こえてるから」
ハルカに突っ込みをいれつつも、レイは続ける。
「でもさ、教会でしょ?仮に行ったとしても、もうしまってるんじゃないの?」
時計は近くに確認できないが、駅についた時点で、小学部の児童が帰る鐘の音が聞こえたはずだ。それからクレープを食べ、ここまで移動してきているのだから、それなりの時間が過ぎているはずだ。
「いやいやもしかしたら、なにかやってるかもしれないじゃん! ちなみに私の勘は、『だれか集まっている!』って言ってるよ!」
「勘ってさあ…」
レイは地図を見ながら、少し渋った様子を見せた。
このあたりは治安がいいとはいえ、二人は女子高生。何か合ってからでは遅いのではないか、という考えがあった。
「レイ…お願い! どうしても行ってみたいの」
手を合わせ深々を頭を下げるハルカに、レイは何も言葉を返すことができなかった。それになにより、ハルカの『勘』だというのなら、それはほぼ『当たる』ということだ。
レイはハルカの頬に手をやると、きゅっと力を込めた。
「ふぎゃ」
ハルカは口をすぼめたような顔になる。
「いいよ。ハルカが言うなら、きっとそうなんでしょ?」
そう言うと、ハルカが満面の笑みでレイに抱きついた。
あまりの勢いにレイは後ろに数歩よろけた。
「もう。ほんとにいつもびっくりさせる」
「えへへ、ごめんごめん」
ハルカはレイから離れると、頬をかく。
「ほら、ぼけっとしてると、どんどん暗くなってくよ」
「わっ待ってよ〜」
二人は歩き出した。
繁華街に背を向け、少しずつこの街の深いところに近づいていった。




