二人だけの通学路
駅構内のクレープ屋。「CINNAMON SUGER LIMIT」
具をたっぷり入れる流行から逆をいくシンプルなクレープスタイルが人気を博し、開店するやいなや、駅構内に行列をつくったことでちょっとした話題を生んだ。
そんな店内に女子高生の影が二つ。
ミルクティーベージュの髪の毛先をピンク色に染めた方は、定番メニューのシュガーバタークレープをぱくりと一口おいしそうに頬張る。
向かいに座る、黒髪をウルフカットにした方は、これまた定番のシナモンバタークレープにかじりつく。
一口食べた途端、二人の目がぱっちりと合った。それから二、三度瞬きをする。
こらえきれなくなったのか、シュガーバタークレープをゆっくり嚥下すると、
「お〜いしい〜! レイも一口食べてみなよ」
そう言って、自分のクレープを差し出す。
レイと呼ばれた女子高生は、自分ともう一方のクレープを見比べた。
「ハルカ…あんたわかってないね。断然こっちのほうがおいしいから。ほら、わからせてあげる」
わずかに口角をあげ、得意げにレイはシナモンクレープをハルカに向けた。
はからずもお互いがお互いのクレープを差し出す形となり、ハルカが「じゃあ交換こね」と提案した。
「はいはい」
それぞれの持っていたクレープを交換して、一口。
「こっちもおいしい!」「これうま…」
二人は目を合わせてお腹を抱えて大笑いした。
*
カラン、と扉についたベルが鳴る。
レイとハルカはひとしきり笑いあったあと、お互いのクレープをぺろりと平らげ、店を後にした。
「おいしかったね〜。次来たら絶対シナモンの方頼む」
「いいね、いつ来ようか? 私もシュガーバター食べたい」
お店をあとにすると、駅構内には人がごった返していた。
「なになに?」
「あちゃ〜、事故ってるね。どうする?」
「お兄に連絡入れとく」
そういうとハルカは少し離れ端末をいじり、話し始めた。
あまり近くで聞いていては悪いかと思い、ハルカから少し離れると、レイはあたりの様子を確認する。電光掲示板には赤と黄色で警告や注意文が流れている。それを目で追いながらため息をついた。
しばらくすると小走りでハルカが戻ってきた。
「ごめんごめん。お兄ってば心配性すぎ〜。迎えに行こうか?って、赤ちゃんじゃないってのに」
端末を恨めしそうに見ながらハルカはつぶやく。
「いいお兄さんじゃん。…でもお兄さんの提案、もしかしたら乗ったほうが良かったかも」
レイは近くの駅員が拡声器を使って話し始めるところを指さした。
「え〜。ただいま発生しました事故の調査が大変難航しておりまして…」
「え…」
ハルカが冷や汗を垂らし、レイを見つめる。
レイは視線を返し、肩をすくめた。
駅員の説明によると、この事故の原因が判明せず、調査が難航しているとのことだった。そのせいで、復旧までかなり時間を要するという旨が駅構内に伝えられた。
「ちょっと動き始めるまで時間かかるみたいだね」
「ちょっとどころじゃないんじゃない…?」
二人は顔を見合わせる。
「ねえレイ、まだお腹すいてる?」
「ふふ。ハルカ、実はね、私も今同じこと聞こうかなって思ってたんだ。」
にやりとレイが笑うと、ハルカは端末を操作した。
「じゃあ、新たなお店探しに行こうよ!」
「あんた、お兄さんになんか送ったでしょ」
「大丈夫大丈夫! 私たちは今から『甘い物学習塾』に行くんだから!」
端末を持ったまま腰に手をあて、大きく胸をはり、ハルカは豪語する。
「全く、怒られても知らないからね」
レイは呆れ半分に、こういうハルカの自由なところに羨望を抱いていることを感じた。
二人は、混乱が伝播する駅構内を抜ける。
大通りを外れると街頭のまばらな道に出た。
月灯りと僅かな街頭に照らされながら肩を並べ二人は歩いていた。




