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二人だけの通学路

 駅構内のクレープ屋。「CINNAMON SUGER LIMIT」

 具をたっぷり入れる流行から逆をいくシンプルなクレープスタイルが人気を博し、開店するやいなや、駅構内に行列をつくったことでちょっとした話題を生んだ。


 そんな店内に女子高生の影が二つ。

 ミルクティーベージュの髪の毛先をピンク色に染めた方は、定番メニューのシュガーバタークレープをぱくりと一口おいしそうに頬張る。

 向かいに座る、黒髪をウルフカットにした方は、これまた定番のシナモンバタークレープにかじりつく。

 一口食べた途端、二人の目がぱっちりと合った。それから二、三度瞬きをする。

 こらえきれなくなったのか、シュガーバタークレープをゆっくり嚥下すると、


「お〜いしい〜! レイも一口食べてみなよ」


 そう言って、自分のクレープを差し出す。

 レイと呼ばれた女子高生は、自分ともう一方のクレープを見比べた。


「ハルカ…あんたわかってないね。断然こっちのほうがおいしいから。ほら、わからせてあげる」


 わずかに口角をあげ、得意げにレイはシナモンクレープをハルカに向けた。

 はからずもお互いがお互いのクレープを差し出す形となり、ハルカが「じゃあ交換こね」と提案した。


「はいはい」


 それぞれの持っていたクレープを交換して、一口。


「こっちもおいしい!」「これうま…」


 二人は目を合わせてお腹を抱えて大笑いした。


 

 カラン、と扉についたベルが鳴る。

 レイとハルカはひとしきり笑いあったあと、お互いのクレープをぺろりと平らげ、店を後にした。


「おいしかったね〜。次来たら絶対シナモンの方頼む」

「いいね、いつ来ようか? 私もシュガーバター食べたい」


 お店をあとにすると、駅構内には人がごった返していた。


「なになに?」


「あちゃ〜、事故ってるね。どうする?」


「お兄に連絡入れとく」


 そういうとハルカは少し離れ端末をいじり、話し始めた。

 あまり近くで聞いていては悪いかと思い、ハルカから少し離れると、レイはあたりの様子を確認する。電光掲示板には赤と黄色で警告や注意文が流れている。それを目で追いながらため息をついた。

 しばらくすると小走りでハルカが戻ってきた。


「ごめんごめん。お兄ってば心配性すぎ〜。迎えに行こうか?って、赤ちゃんじゃないってのに」


 端末を恨めしそうに見ながらハルカはつぶやく。


「いいお兄さんじゃん。…でもお兄さんの提案、もしかしたら乗ったほうが良かったかも」


 レイは近くの駅員が拡声器を使って話し始めるところを指さした。


「え〜。ただいま発生しました事故の調査が大変難航しておりまして…」


「え…」


 ハルカが冷や汗を垂らし、レイを見つめる。

 レイは視線を返し、肩をすくめた。

 駅員の説明によると、この事故の原因が判明せず、調査が難航しているとのことだった。そのせいで、復旧までかなり時間を要するという旨が駅構内に伝えられた。


「ちょっと動き始めるまで時間かかるみたいだね」


「ちょっとどころじゃないんじゃない…?」


 二人は顔を見合わせる。


「ねえレイ、まだお腹すいてる?」


「ふふ。ハルカ、実はね、私も今同じこと聞こうかなって思ってたんだ。」


 にやりとレイが笑うと、ハルカは端末を操作した。


「じゃあ、新たなお店探しに行こうよ!」


「あんた、お兄さんになんか送ったでしょ」


「大丈夫大丈夫! 私たちは今から『甘い物学習塾』に行くんだから!」


 端末を持ったまま腰に手をあて、大きく胸をはり、ハルカは豪語する。


「全く、怒られても知らないからね」


 レイは呆れ半分に、こういうハルカの自由なところに羨望を抱いていることを感じた。

 二人は、混乱が伝播する駅構内を抜ける。

 大通りを外れると街頭のまばらな道に出た。

 月灯りと僅かな街頭に照らされながら肩を並べ二人は歩いていた。




 

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