ご褒美です
河原へ差し込む日差しは、朝の穏やかな風が幻だったかのように強く照りつけていた。作業をする人の額に汗が浮かぶ中、黄色い腕章をした屈強なカレンの伯父はその生命力に満ちた声で休憩の合図を出した。カレンはその合図より前にテントの間を、大きなタンクをもって行き来していた。
「あれ、もしかしてレイちゃん寝てる?」
「ん、起きてるよ」
カレンは炎天下の中走り回っていたと思えないほど涼しい顔をして、レイを覗き込んだ。
「委員長あんなに重そうなものもって走り回ってすごいね。何運んでいたの」
「ここに着いたとき、ご褒美の話ししたでしょ。じゃん」
自分で効果音をつけながら自分の後ろに隠していたタンクを見せた。それを近くの会議テーブルに置くと三人分の紙コップに中身を注いでいく。二人はとぷんと揺れる蜂蜜色の液体を見つめた。
「これがご褒美です」
自慢げに胸をはるカレンは自分のカップを掲げる。
「ほら二人も」
カレンに促されるまま二人もカップを近づけた。カレンは子どものような笑顔を見せて「乾杯」と晴れやかな声をあげた。
三人が飲み物で喉を潤すと、ぱっと空気が華やいだ。
「わ!おいしい!」
「でしょう。これ、さっき話してた『Patisserie Etoile』で試作中の自家製レモネード。チーズケーキに合うようにするんだって。こういうのも地味だけど、良いご褒美じゃない」
「へえ……酸っぱいのに、甘くてまろやか。最高だよ」
レモネードを飲み干すと、カレンはすっきりとした顔をして話し始めた。
「いやあ、でも本当に二人が来てくれて助かったよ。突然昨日、参加する予定だった二人が飛んじゃったからさ」
「え、とんだ?」
「そんな大学生のバイトじゃあるまいし……」
二人のぎょっとした顔を見て、カレンはけらけらと笑う。
「どいういう突っ込みよ、それ。でも、本当にありがとう。おじさんもすごい喜んでたよ。みんなこういう活動ってあんまり興味ないみたいで」
「そうなんだ」
「私は結構好きだよ!こうやってきれいになっていくの見ると気持ちいいし!」
ハルカはすぐに頷いた。その笑顔にカレンは呆気に取られて、手をたたいて笑う。
「あはは、ほんと面白いね。声かけてよかった。ほら、二人っていつも一緒にいるでしょ。この間も授業サボってたし。悪い子たちじゃないのは分かってたんだけど、どう関わったもんかって思っててさ。でも話してみたら全然……勇気出してよかったよ」
屈託のない笑顔を見せるカレンに、レイは苦笑した。
「で、二人はいつも何してるの」
ハルカはレイを見た。レイは少し考えてから肩をすくめると、決まっていた台詞のようにすらすらと説明する。
「この辺りの町並みって結構古いところもあるから、歴史のありそうな場所とか廃墟っぽいところ探してるんだ」
「へえ、レイちゃんはともかく、ハルカちゃんもそういうの興味あるんだ。意外かも」
本音が漏れてしまったようで、ぱっと口に手を当てると「悪い意味じゃなくてね」と慌てて訂正した。
「まあ、ハルカの歴史の受け方見てたら、誰だってそう思うよね」
レイはハルカに視線を流すと、にやりと笑う。さすがのハルカも、抵抗の言葉をあげることなく撃沈した。曖昧に笑うカレンは、何かを思い出したかのようにスマホの写真フォルダを開いて見せる。
「じゃあ、もしかして、こういう場所に興味あるかな」
写真に映っている場所は、河原より更に雑草が伸び切った中に、古いレンガ造りの建物が建っていた。
「ここ、何?」
ハルカは身を乗り出して画面を見ると、眉を寄せ難しい顔をする。
「昔の駅なんだって。私のおじいちゃんのおじいちゃんが、ここで駅長をしてたの。すごい思い入れがあったみたいで、使わなくなるってなった時に、この土地ごと買い上げちゃったらしいんだ。おじさんに頼んだら入れると思うんだけど……行ってみる?」
「え!?いいの?」
「いいのいいの。何もないとこだけど案内するよ。二人と仲良くなれた記念ってことで」
そう言うと、彼女の伯父のもとへ駆けていった。その背中を見送りながら、ハルカがぽつりと呟く。
「なんか委員長って、しっかりしてるのに意外とお茶目だよね。ギャップだ」
「うん、わかる。嫌味なく本心語ってくれるとこ良いよね」
「あ、レイの浮気者」
「先に言ったのそっちじゃん」
ふいとそっぽを向いて返すレイだったが、その口元は少しだけ上がっていた。




