三人を待つ
一人教会に残ったシエラは、ふっと口元の笑顔が消え何か考えるように視線を落とした。
「……ごめんなさい。嘘をついてしまって」
ぽつりと雫のようにそう零した。
(――それでも、確かめずにはいられなかったのです)
扉を背に振り返ると、シエラは数歩進んで礼拝堂全体を見渡した。
皮のブーツでとんとん、と床を叩くとシルクの白いスカートの裾が揺らめく。床は土足で入る場所のため、毎日朝と夕方に掃き掃除をしている。その使い込まれた木床は、しっとりとした深い光沢を湛えていた。
シエラは裾が床につかないよう手で押さえながら膝を折ると、じっと床を見つめた。そのまま木目に沿って視線を動かすと、瞳を閉じて思案する。そしてまたゆっくりと立ち上がると、今度は周囲を見回しながら、礼拝堂の中を歩いた。時折、長椅子に手をついては背もたれから、荷物置き、椅子の足までじっくりと見ていた。
それから白い石造りの壁を見上げると、天井近くには屋根を支えるようにして木の梁が組まれていた。彼女の碧い瞳はその一本一本をなぞっていく。
一通り教会の中を調べあげた後、シエラは近くの長椅子に腰をおろした。
再び視線を落とすと、しばらく思考の海へと潜っていった。彼女の中で捉えた事実と、これまでの記憶、そしてレイとハルカの言葉が混ざり合っていく。
風と光。
ハルカにしか認識できない精霊という存在。その精霊が語ったとされる記憶『星環』。
レイの手が触れたことで浮かんだという文字と祭壇。そこで見つかった刻印。
「まさか」とつぶやき、一つの答えにたどりついた。
「この教会そのものが『星刻』だった、ということなのでしょうか……」
改めて床や壁に目をやる。木目に合わせて薄っすらと何か模様が刻まれていた。果たしてそれが、初めから見えるものだったのか、見えるようになったのか。それは今のシエラには判断できない。
「二人の言っていた『星環』が、かつての人ならざるものとの記憶であるなら、『星刻』はそのための――」
考えを巡らせていくにつれ、シエラの声は徐々に小さくなっていく。そして自分の出しかけた結論を反芻するように唇がかすかに震えていた。
それから何かを見つけたかのように立ち上がると、今度は柱をぺたぺたと触った。シエラは指先の感覚に違和感を覚えた。
この教会に赴任してきてからは、シエラの代わりにエリオが掃除をしたがることが多かった。それでも、シエラは毎日窓を拭き、床を掃いていた。
(私も、それにエリオだって、これを見落とすかしら……)
瞳を伏せると、再び確かめるように『星刻』と呼ばれる模様に目を凝らした。
「これは……」
シエラが息を呑む。
レイとハルカの話していた〝一度経験したあとは、それが再現されることはなかった〟という事実。
柱から手を離した。何かに手が届きそうになる予感が、シエラの鼓動を早めていった。わずかに高揚する心を抑えきれず、指先にふっと力が入り、唇の端が知らず知らずのうちに持ち上がっていた。
シエラは胸に手を当てると、自分を律するように深く息を吐いた。
(まだ、結論づけてはいけないですね)
「三人が帰ってくるのを待ちましょう」
そう呟くと書庫へ続く扉を開いた。




