表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
31/35

この週末、お時間はありますか

 レイとハルカが打ち明けた後、書庫に再び沈黙が流れた。話を一通り聞いた二人の表情はすっと引き締まったように見える。

 シエラはそっと口元へ手を添える。そして小さく息とともに言葉を飲み込んでいるようだった。彼女の瞳には驚きが浮かんでいたが、それ以上に「やはり」という色が見え隠れしている。エリオは眉を寄せると、静かに目を閉じる。

 レイは、そんな二人を少し不安げに見つめていた。

 やがて、シエラは顔を上げると口を開く。


「この週末、お時間はありますか」


「え?」


 突然の提案に二人は目を見開く。もっと何か真実に近づくような言葉が出てくると期待しているところがあったのだ。


「ごめんなさい。今のお話を聞いて、私たちが答えられることはありません」


 お力になれずすみません、とシエラは頭を下げる。


「ですが、お手伝いできることはあるかもしれません」


 シエラはエリオの方へ視線を促す。


「この週末、教会と植物園の調査をいたしましょう」


「ええ!?」


 春のような笑顔とともに発せられた言葉を聞いて、三人は打ち合わせをしたかのように揃って声を上げた。自分たちと同様に声を上げたエリオの方を見ると、きまりの悪そうな様子で鼻を鳴らした。


「さあ、週末が楽しみですね。そうだわ、休憩のときにいただくお菓子を用意しておきましょう」


 シエラはハーブティーを優雅に一口飲むと、遠足前の子どものような弾んだ声で言った。


「シエラ様……それでは本来の趣旨とズレてしまうのではないでしょうか」


「あら、そうかしら。きっと、たくさん考え事をするはずです。甘い物は必須なのではありませんか」


 さも当然のことのように反論するシエラ。その意思の固さにエリオは諦めた様子で苦い顔をしていた。

 

「あ、そのお菓子私たちが用意します!」


 ハルカが勢いよく手を挙げる。「でも……」と申し訳なさそうなシエラを押し切るようにハルカは自信に満ちた顔をしてみせた。そして、「ね?」とレイの方を見てウインクをした。


「ええと、そう!いつもこうして色々と振る舞っていただいていますし、調べ物をお手伝いまでしてもらって……甘えっぱなしだと逆に落ち着かないというか……」


「二人もこう言っていますし、今回は任せてみてはいかがでしょうか」


 その一言が決め手となり、困ったような表情を見せていたシエラは、ふと小さく口を開けたのを境に、少し気恥ずかしそうにした。そして小さく「私の悪い癖ですね」と呟くと再び明るい笑顔を浮かべた。


「お心遣いありがとうございます。では、お二人におまかせしますね」


「はい!任せてください!」


 ハルカは胸を張って宣言した。レイは視界の端でほっと胸をなでおろしている様子のエリオを捉えた。疑問符を浮かべるレイの思考をシエラの柔らかな声が遮った。


「では、週末――明後日は礼拝がありませんので、お昼前から集まることにいたしましょう」


「次の日が礼拝だから、そんなに長くは付き合えんぞ」


 エリオはぴしゃりと言い放った。


「こら、エリオ。ごめんなさいね、じっくり調査したいところなんですが、エリオの言う事も最もなので……」


 申し訳なさそうに眉を下げるシエラに、ハルカは慌てて答える。


「いえ!全然。むしろお忙しいのにありがとうございます!」


「ふふ。それは良いのです。今から楽しみですね」



***



「ハルカ、もしかして行きに見つけたあの店のお菓子持っていきたいんでしょ」


 週末の約束を取り付け、教会を後にした二人は夕暮れの空を背に歩いていた。


「さすがレイ〜!私のアイコンタクトを察してくれたんだね」


「まあね。でも本当に美味しいかわかんないのにいいの?」


 レイが言い終わる前に「その言葉を待ってました」と言わんばかりの、したり顔を見せる。


「レイ、約束の日は明後日だよ?」


「ああ、たしかに。じゃあ明日の寄り道は決まりだね」


 そう言うと、スマホを取り出しお店の情報を打ち込んで二人分の席の予約をする。スマホをポケットにしまうと、表情を変えずに親指を立てた。相変わらずの手際の良さに、ハルカは思わず感嘆の息を漏らした。


「さっすが!ありがとうレイ。これで明日一日、授業乗り切れる〜〜」


 ハルカはレイの腕に飛びつくと、しみじみと頷きながら言う。


「だね、明日テストだし。歴史は苦手なんだよね」


「うぇ!?テストぉ?」


 レイはため息まじりに言うと、今度は腕から飛び跳ねて離れる。駅が見えてきたことを確認すると、スマホを出してつぶやいた。


「ああ、あの日ハルカ、授業聞いてなかったもんね」


「やばい〜〜……終わった」


 ハルカは明日の自分を想像し、絶望しながら駅に入る。すると、ハルカのスマホに通知が鳴る。画面を見つめたまま固まるハルカに、レイが顔を覗き込む。


「追試になったら、放課後居残りかもしれないから、頑張ろ?ね?」


「うう……」と、絶望から一転し泣きそうな顔を見せるハルカ。手元のスマホに入った通知の送り主は、もちろんレイだった。画面にはテスト範囲と出題されそうなポイントが短くまとめられている。


「いつの間にこんなに……」


「明日おいしいケーキ食べようね」


「頑張ります……!」


 目を細めるレイに、ハルカは気合を入れ直して何度も頷いた。 


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ