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お話があります

 革靴が石畳を叩く音が心地よく響いた。落ち着いた商店街の軒先には、大きな葉をつけた植物や、愛らしい小さな花が並んでいる。

 二人はたった数日ぶりの商店街を懐かしそうに眺めながら歩いていた。


「やっぱりこの商店街、雰囲気良いよね」


 そういうと、ハルカは焼き立てのパンの香りを肺いっぱいに吸う。


「うん。そこのパティスリーもかなり種類多そうだよ」


 レイが指さすと、淡い色のガーランドを下げた白いケーキ屋に目を向ける。ハルカは自分の好きなラズベリーのタルトがあることを確認すると、目を輝かせて喜んだ。


「絶対行こうよ!めっちゃ美味しそう〜」


 そんな調子で二人は十字路を曲がり、一つ裏の通りに入る。どちらともなく会話を中断し、通りの先を見つめた。

 メイン通りから離れていくにつれ、徐々に自然が増えていき、街の様子も閑散としていく。たった数十メートルの違いでも人通りの少なさは明らかだ。

 そんな中に教会はひっそりと建っていた。


「なんかちょっと、どきどきするかも」


 先に口を開いたのはハルカだった。


「うん。信じてもらえるか、変なやつだと思われるか……」


 レイが呟くと同時に、教会の門をくぐる。敷地に足を踏み入れた途端、ハルカは足を止め、教会を見上げる。


「……やめとく?」


 不安の影をわずかに落としたハルカを見つめ、レイは尋ねる。

 その声にはっとして、大きく首を横にふった。


「ううん!言ってみよ。当たって砕けろだよ。お〜!」


「砕けちゃだめでしょ…」


 独り言のように呟く。


「入らないのか」


「いや、だからそろそろ行こうと思って――」


 レイはごく自然に背後の声に応えようと振り返る。


「うわっ、エリオさん」


 背後に立っていた人物の姿が目に入った瞬間、反射的に半歩下がってしまった。気まずさの混じった沈黙の中、声の主――エリオは固まっている二人をどこか可笑しそうに、あるいは呆れたように見つめている。


「うわ、とはなんだ。女子高生。いつまでもそんな所に立たれては、迷惑なんだが」


「相変わらず辛辣〜」


 腕を組んだまま呆れたように眉をひそめるエリオと、そんな彼の圧をサラリと受け流すハルカ。その肝の座り様には我に返ったレイも思わず苦笑いを見せた。

 エリオは二人の間を割って通り、教会の方へ歩く。


「くだらないことを言っていないで、入ったらどうだ」


 教会の重厚な扉の前に立つと、エリオは無造作に顎を上げ、視線だけで促した。二人は目を合わせるとくすりと笑って、促されるまま教会の中に入った。


 礼拝堂の中はいつにも増して静かに思えた。三人が歩くと、ぎいと軋む床がやけに大きく聞こえてくる。


「シエラさんはいないんですか?」


 中を見回しながらハルカは尋ねる。エリオは「少し待っていろ」とだけ残して、一度奥の部屋に入る。少しすると、奥の部屋からエリオがティーセットを大きなお盆に乗せて出てきた。

 その姿を見て二人が目を丸くしているのも意に介さず、彼はさっさと書庫へ降りる階段の方へ歩きだした。手招き一つしない素っ気ない足取りだが、二人がついてくるとわかると少し歩調を緩めているようだった。


「あ、開けますね」


「女子高生の割に気が利くじゃないか」


「はあ?」


 そんな軽口を叩きながら、今日はレイとハルカを先頭に階段を降りる。今度はハルカがわずかに緊張した面持ちで大きな扉を開ける。

 一歩中に入れば、古い本とインクの香りがたちこめる書庫に、シエラは立っていた。


「あら、お二人とも、いらっしゃい」


 天使のような微笑み。そう思わせる立ち振る舞いに二人の緊張は静かにほぐれていく。エリオは手際よくテーブルの上にポットを並べる。


「まあ、エリオ。とっても気が気が利きますね」


 ぱあ、と天使のような微笑みから満面の笑みに変わり、シエラはいつもより少し急いだ様子でテーブルまで歩いた。同じ「気が利く」でも言う人が変わればこんなにも感じ方が変わるのか、と喉まで出かかった言葉をぐっと飲み込んだ。自分たちに冷笑混じりの指示しか出さない男はまるで執事のような顔をして控えている。その変わり身の早さにレイは言葉を失う。


「先日お二人が訪ねてこられた日のハーブにしましょうか」


 シエラは並べられたハーブの中から、乾燥した葉を数種類選びとっていた。


「さあ、お掛けになって。昨日お二人がいらっしゃらなかったから、気を悪くされたかしらなんて思ってしまって」


 シエラは少し不安そうにそう言うと、指先でつまむとほろほろと崩れてしまいそうなハーブを丁寧にティーポットの中に落としていく。


「ですから、シエラ様には何の非もありませんとあれほど……お前ら!シエラ様はご傷心なのだ!分かっているな!」


「エリオ」


「はい」


 柔和な笑顔の見せながらエリオを制すると、お湯を淹れたティーポットの蓋を静かに閉め、二人に向き直った。


「それで、今日も調べ物を?」


 突然向けられた視線にどきまぎしながら二人は意を決して口を開いた。


「いえ、今日は二人にお話があって来ました」


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