二人で学びを
『……わた……っ、わたしの顔が見えた、って……?』
アルテは、動揺したように訊ねる。
突然ルピアが言い放った、アルテの顔が見えた気がする、なんて言葉。
やましいことなんて何もないはずなのに、何故だか動揺してしまって、アルテは自分を落ち着かせようとする。
「うん! すっごく可愛い、小さな女の子の顔!」
『かわいい……? ……えっと、まだ、それがわたしの顔なんてわからないし……』
「え〜? あ、これ絶対アルちゃんだって、直感的に感じたよ?」
『でも、みつちゃんは、わたしの顔見たことないから……気のせい、なのかも』
「……アルちゃん……私に、何か見られたくない理由がある?」
ルピアが質問すると、アルテはぴたりと言葉を止めた。
数十秒ほどの沈黙が降り、ルピアは話すことを促すことも、かと言って質問を撤回することもなく、ただただ黙ってアルテの言葉を待つ。
『…………怪我とかがあるわけじゃないよ。……でも……わたし、可愛げのある子どもじゃ、ないから……』
「えっ可愛かったよ!?」
『う……そんなの、初めて言われた……から、そんなことないと思う……』
「え〜、そうかなぁ? 綺麗で可愛いなーって思ったよ? ……いや、一瞬だったから、ちゃんと見れたわけじゃないけど……」
『……造形が整ってたとしても……わたし、笑わないから……』
「えぇ、そうかなぁ……?」
ルピアからすれば、アルテは大人しく静かではあるものの、笑うときは笑う子である。
全然笑わない子、なんて印象は全く無いので、ルピアとしては全く信じられなかった。
だがまぁ、本人が嫌がっているのに深掘りすることもないだろう、とルピアはそれ以上は何も言わないことに決めて、パンッと手を叩いて空気を変える。
「うん、わかった! これからまた見えるかはわかんないんだし、一先ずこの話は終わりにする!」
『……うん。ごめんね……』
「いいのいいの、気にしないで。アルちゃんはなんにも悪くないから。……えーっと、そうだなぁ……アルちゃんって、勉強はできるの? アルちゃんも授業を聞くわけだし……理解できないとつまんないよね」
『……たぶん、できる……と思う。師匠は、わたしのために、本とかたくさん買ってくれたから』
「優しいお師匠さんだったんだね。一応確認しておこっか……えーと、勉強用の本が……確かこの辺に……よいしょっ」
ルピアは本棚から分厚い本を取り出すと、机に置いてぺらぺらと適当に捲った。
適当にいくつかのページを見せて、ルピアは首を傾げる。
「どう? 理解できそう?」
『うん……大体、わかるよ。……それに、わからなかったらみつちゃんに聞くから……説明、してくれたら嬉しい』
「え、ええ……? 私、説明できるほど頭良くないよ……」
『うん。でも、師匠が言ってた……教えるっていうのは、教える側にとっても凄く良い学びになるって。みつちゃんは、勉強が苦手みたいだから……わたしが、機会を作ってみた』
「いらないよぉ、そんなの……」
悲しそうにルピアがそう言うと、アルテはくすくすと笑った。
内心でやっぱり笑わない子ではないよね、とは思いつつ、ルピアはそれについては何も言わず、本を撫でる。
「……むしろ、アルちゃんに教えてほしいな〜」
『うん……必要なら、わたしがわかるところなら教えるつもり。でも……わたし、自分一人で勉強するのは、不可能だから……必要ないと思う。……復習に役立つくらい……?』
「う〜……私、それなりには勉強できるつもりだけど……学園での公爵家の面子を背負うことになるから……うぅ……ある程度勉強できるだけじゃ、足りないの。お願いアルちゃん、勉強手伝って……なんならテストも手伝って……!」
『……ズルだから。テストは、答えは教えないし、間違いも指摘はしないよ』
「わーん、アルちゃんってばひどいぃ……」
冗談めかしてルピアはそう言い、くすりと笑った。
ルピアは公爵令嬢として好成績を取る必要があるが、ズルをしても何も得られはしない。
そんなことをしても何も伴わず、授業に置いていかれるだけだろう。
「……あの、勉強はほんとに……手伝ってくれると嬉しいな……」
『うん。それは手伝う。……わたしより、みつちゃんの方が頭がいいかもしれないけど……』
「それならそれで、私が教えるだけ! 教えることも、いい学びになるんでしょ? それなら、アルちゃんが私の説明を聞いてくれればいいよ! 理解できるように頑張って説明すれば、大丈夫! ……自信は無いけど!」
『わたし、応援する。頑張って、みつちゃん』
薄く微笑む美しい幼い少女の姿を幻視しながら、ルピアは元気よく頷いた。




