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「私」と『わたし』の共同生活  作者: 木に生る猫


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宝物と引き続きの調査

 それから、リリスは自分の部屋に帰り、ルピアはベッドに寝転がって、にまにましながら〝それ〟を眺めていた。

 恐らくは、執事長か誰かが気を利かせて、ルピアがいつでも手紙を書けるようにと手配してくれた便箋。

 リリスには少し無理を言ってしまったが、それを使って二人で便箋にお絵描きをしたのだ。

 花に猫に、鳥やちょうちょ。

 そして、その中心に佇む二人の少女。

 ルピアもリリスも特別絵が上手なわけではないけれど、それはルピアにとって、公爵家の屋敷にあるどんな絵画よりも美しい宝物だった。


「……えへへ……あ、そうだ。よいしょ……」

『みつちゃん?』


 ルピアは何かを思い付いたのか、突然立ち上がってもう一枚便箋を取り出す。

 そして、さらさらと迷いなくペンを走らせた、お気に入りになった絵の傍に置いた。

 新しく取り出したもう一つの便箋には、ルピアやリリスよりもかなり小さめな少女が一人佇んでいる。


『……わたし?』

「うん。ねぇアルちゃん、ここにね……私を描いてほしいの。やってくれる?」

『うん……』


 アルテは頷くと、ルピアの身体を動かして絵を描き始めた。

 その絵は、ルピアやリリスに比べるととても子どもらしいもので、身体を返してもらってすぐに、ルピアは満面の笑顔になる。


『……うぅ。わたし、絵描いたことあんまりないから……上手にできなかった』

「それでこれなら、とっても上手だよ。ふふ……一日で宝物が二つも増えちゃった」

『……本当? わたしが描いたのも、宝物?』

「もちろんだよ! 宝物じゃないわけない。……ああ、でも……誰かに自慢はできないなぁ。これは誰? って聞かれたら、困っちゃうもんね。……ふぅ……見てるだけで、やる気出てくるなぁ。明日も頑張ろー!」


 ルピアはそう言うと、ニコニコしながら絵を抱き締めた。


 ◇


 翌日、ルピアはリリスとともに調査に乗り出していた。

 本当は、リリスには教室でフィレウスの足止めをしてほしかったのだが、断固拒否されてしまったので仕方がない。

 二人で行くのならフィレウスの心配も少しは和らぐだろうと、そのまま出てきたのだ。

 三人も必要ない、とは口酸っぱく伝えておいたので、恐らくは大丈夫のはずだ。


「あの、それで……どこに調査へ行くんですか?」

「今日は先輩の教室を見に行こうかと。もし魔法の影響なら……誰の仕業かはわかりませんが……少なくとも、魔法を掛けた人がどこを回ったのかはわかります」

「なるほど……あの、今日の授業が終わったら、お時間ありますか? 闇魔法に関する本を探してみようと思うのですが……もし良ければ、一緒に……」

「わあ! もちろんご一緒します! 誘っていただけて嬉しいです!」

「ルピアさん……」


 はしゃいだような笑顔を浮かべているルピアに、リリスはくすりと笑った。

 ルピアは少しずつ素の表情や言動を見せてくれるようになってくれていて、リリスはそれがとても嬉しかった。

 二人が仲良くなっているのを目の当たりにしたアルテも、とても嬉しくなる。


「それはいい考えだね。私も混ぜてほしいな」

「……え?」


 だから誰も、後ろから忍び寄るその影に気付くことができなかった。

 声を掛けられて、ルピアはギギギとぎこちない動きで振り返る。

 そこには、あくまでも笑顔のフィレウスがいた。

 だが目は一切笑っていなくて、ルピアはひゅっと息を詰まらせる。

 幼い頃から婚約者同士だった二人は、もちろん幼い頃からずっと、ある程度の関わりがあった。

 だから――だからルピアは、フィレウスに怒られたこともあるのだ。


「……お、怒ってますか……?」

「ふふ……そう見えるかい? ……今日の授業が終わったら、図書室で調べ物……だったね? 待っているから、必ず来るように。いいね」


 声音は穏やかに、だが有無を言わさぬ物言いで、フィレウスは告げた。

 ルピアが動揺して返事をせずにいると、フィレウスは軽く首を傾げて、そっと微笑む。


「……返事は?」

「は、はい……っ、い、行きます、ちゃんと行きます……」


 冷や汗を流しながらルピアが返事をすると、フィレウスは満足そうに微笑んで教室の方へ戻っていった。

 今は、調査のことを咎めるつもりはないらしい。

 ぷるぷる震えながらルピアはリリスと手を繋ぎ、ゆっくりと息を吐き出す。

 次に聞こえてきた声は、リリスではなくアルテだった。


『……ごめんなさい、みつちゃん。わたし……嬉しくて、気付けなかった。……それに、殺意とか、敵意とか、悪意とか、無かったし……。……ううん、これは言い訳。ごめんね……わたしが気付いていたら、バレなかったかも』


 しょんぼりしているアルテに、この場では何も言えなくて、ルピアは更に肩を落とした。

 そうしていると、ずっと困った表情をしていたリリスははっとして、そっとルピアの肩に手を添える。


「あの、大丈夫ですか? 随分……怯えていたように、見えたのですが……」

「……フィレウス様は……怒ると、とっっっっても、怖いんです……とても幼い頃のことなのに、今でも記憶に残っているほどです……うぅ……気が重い。でも、無視したらきっともっと……うぅぅ……」

「わ、私も一緒に行きますから、ねっ。ほら……時間は限られていますよ。気を取り直して、調査に行きませんか?」

「……はい……」


 まだ少し恐怖の残る表情で、ルピアはリリスに手を引かれて二年の教室へ向かった。

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