旧時代
その後、ルピアは寮にて、ベッドに腰掛けて頭を抱えていた。
「フィレウス様とリリスさんが過保護過ぎるぅ……自由に動けないよ……」
『……うん。二人の気持ちは理解できるけど、このままじゃ調査も進まない。……二人を味方に引き入れよう。それが、最善だと思う。……みつちゃんは……嫌?』
「嫌……っていうか。止められると思う。特にフィレウス様は……私に行動させずに、一人で調査に乗り出すんじゃないかな。……フィレウス様の方が、よっぽどそんなことしちゃいけない立場なのに……」
『じゃあ、リリスさんに王子様を誤魔化すのを手伝ってもらう。どう?』
「えっ。でも、事情を話したら同じことじゃない? 代わりに行こうとはしなくても、絶対止められちゃうよ……それじゃあ、何の解決にもならない……」
しょんぼりと肩を落として口にするルピアに、アルテは内心で苦笑いした。
そして、もしかしたら嫌がられるかも、とは思いつつ、提案を改めてきちんと説明する。
『必ずしも、全部を説明する必要はない。そうでしょ?』
「……それって……嘘をつくってこと? ううん、そうじゃなくても……リリスさんを騙すってこと、だよね」
『自分で調査をしたい、かつ協力を求めることもダメなら……一つの手段だと思う。嘘を吐くことも、暗殺者には必要なこと……みつちゃんができなくても、わたしはできるよ』
「……う〜。そうだよね、私……あれもダメ、これもダメって……そんなんで、どうにかできるわけないのに……」
『あっ……えっと、みつちゃんの言ってることがダメって言ってるわけじゃなくて……みつちゃんは、色んなことを考えた上で、自分だけで調査をしたいって考えてるんだって……わかってる。ちゃんとわかってるよ。ちがうの……』
我儘ばかり言っていた、と落ち込むルピアに、アルテは慌ててそう説明した。
落ち込んでいてアルテの言葉を聞きながら考え込むばかりだったルピアは、その最後の言葉があまりにも弱々しくて、ハッと肩を震わせる。
「あーあ〜……! 落ち込まないで、大丈夫、大丈夫だよ! アルちゃんにダメって言われたって思ったんじゃなくて、自分でそう思っただけなの。えっと……そうだね、うん……リリスさんには、話してみよう。止められちゃうかもしれないけど、それでも……全部、話してみる。……それでもいい?」
『あ……うん。もちろん。みつちゃんがそれを選んだのなら、わたしは全力でそれを応援する。……あっ、そうだ……みつちゃん、今日も授業に集中できてなかったよね。わたしが、教えてあげる……!』
「ふふ……ありがとう、アルちゃん。よろしくね。頑張ってはみたんだけどなぁ……」
ルピアは調査の方に意識を持っていかれつつも、授業に集中しようとはしていたらしい。
だがそれは上手くは行かなかったようで、申し訳なさそうにアルテの話に耳を傾ける。
『――それでね。次は……歴史。えっと……今日の授業は、記録に一切残ってない、千年くらい前の……旧時代って呼ばれてる時代のお話だったよ』
「あ、それなら知ってるよ! 小さい頃、暇で暇でしょうがなくて……適当に本を読んでたら、旧時代の話が載ってたんだ〜。面白くて集中して何時間も読んでたんだよね……えっと……確か、旧時代は……前文明とも呼ばれてて、一度文明が滅びた、あるいはそれに凄く近い状況に陥ったんじゃないか、って言われてるんだよね。実際、明確な記録はないけど……すっごく古びてるのに、昔じゃありえないような発展したものが見つかることはあるんだって。本で読んだだけだから、ほんとかどうかわかんないけど……」
『みつちゃん、詳しい……! 先生さんも、おんなじこと言ってたよ。すごい……!』
アルテが目をキラキラと輝かせているように感じて、ルピアはくすくすと堪えきれない笑みを零した。
素直なアルテは、ルピアの知識に純粋な賞賛を送ってくれている。
それが、とてもとてもとても嬉しい。
「……ふふ。アルちゃん、こんなちょっとした知識で褒めてくれるの?」
『ちょっとした……? そんなこと、ないよ。先生さんは、みつちゃんたちに勉強を教える凄く頭がいい人……でしょ? なら、そんな人と同じ知識を持ってるみつちゃんも、すごいよ』
「……」
ルピアはどうにも恥ずかしくなって、直接見られているわけでもないのにあちこちへと視線を彷徨わせ、アルテから目を逸らそうとした。
しかし、同じ肉体に宿っている以上は逃げることはできず、ルピアは膝を抱えて小さな声で言う。
「じゃっ、じゃあっ……先生と同じ言語を喋ってるアルちゃんも、凄いしっ……」
『みつちゃん、極端。……ん? ……だれか近付いてきてるみたい……』
「え? この部屋に? ……わかるの?」
『うん……目的地は、この部屋……この足音は……ああ』
アルテが安堵と納得が綯い交ぜになった声を零した時、コンコンとノックの音がした。
そしてすぐに扉の奥から、躊躇いがちに声が聞こえてくる。
「あの……ルピアさん、いらっしゃいますか? 私です、リリスです」
「……リリスさん?」
その名前に、ルピアはぱちぱちと目を瞬かせて扉の方へと向かうのだった。




