↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
「私」と『わたし』の共同生活  作者: 木に生る猫


この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

PR
2/25

不思議な巡り合い

 静かな部屋で、少女は目を覚ます。

 なんだか、頭が痛い――少し、寝過ぎたようだ。

 だが不思議なことに、少女にはベッドに入った記憶が無くて、一人首を傾げる。


「……私、いつ……から、寝てるんだっけ……?」

『わ、喋った……』

「えっ、なっ何!?」


 知らない声が聞こえて、少女はきょろきょろと周囲を見回した。

 少し幼い、静かな声だ。

 怪しい人物ではなさそうだが、声の主の姿が見えず、少女は困惑する。


『あの、えっと……ね。説明させてほしい』

「う、うん……どうぞ」

『わたしも、よくわかってない……けど。今のわたしには身体が無くて、わたしはあなたの中に居るみたい。今のところ、離れる方法はわからない……ごめんなさい』


 申し訳なさそうな声に、少女は少し考え込む仕草をした。

 何やら摩訶不思議なことが起こっているが、相手は恐らく子ども。

 きっと、こんな状況に不安がっているだろうと、少女はそっと胸に手を当てる。


「そっか。わかった……あなたは、私の中にいるんだね。安心して、不安だろうけど……私があなたと一緒にいるからね」

『……え。……怖がったりしない、の?』

「怖がらないよ。だって、あなたの気持ち、わかるから。共感できるって意味でもあるし……あなたが喋り出した瞬間、感じたの。不安がってるなぁ、って」


 少女はそう言いながら、そっと自分の頭を撫でた。

 直接触れることはできないから、せめてこの感触が伝わればと思って。


『……ありがとう……えっと、お姉さん』


 少し恥ずかしそうに、だが嬉しそうにお礼を言う声に、少女は目を細めて笑った。

 そんな中、部屋の扉がゆっくりと開く。


「……お、お嬢様……? 一体、どなたとお話を……?」

「えっ、あっ! ……その、窓の外に小鳥が留まっていたんです……! それだけです! 本当ですよ!」


 少女は様子を見に来てくれた使用人に慌ててそう弁明し、目を逸らした。


◇


 状況を整理すると――少女は、家の庭園で小石に躓いて転んでしまい、頭を打って気を失ってしまったのだそうだ。

 そして、目覚めた頃には、既に見知らぬ人物が少女の内側にいた。


「――って感じかな。やっぱり、こうなっちゃった原因はわかりそうにない……よね?」

『……わからない。ごめんなさい……』

「ううん、謝らなくていいんだよ。あなたは悪くない。……あっ、そうだ! まだ自己紹介してなかったよね。私、ルピア・アルベリアって言うんだ! ルピアって呼んでほしいな!」

『……わたし……わたしは、アルテ……アルテ・フォルツ』

「アルテちゃん? 可愛い名前! んー……アルちゃんって呼ぼうかな!」

『……あだ名、初めて……嬉しい』


 ふんわりとした声に、少女――ルピアは嬉しそうに笑った。

 そして、あだ名を付けられたアルテは、少し黙ってから再び言う。


『……じゃあ……次は、わたしの番。どうしてこうなったのかは、わからないけど……切っ掛けは、わかる。……わたしが……死んだから』

「……え?」


 困惑しているルピアに、アルテは少しの間黙り込んだ。

 その先を話すのは、まだ少し、躊躇ってしまって。


『……わたし……』

「言いたくないなら、言わなくてもいいよ。びっくりしちゃったけど……私も同じ経験、してるから」

『同じ、経験?』

「うん。信じてもらえないかもしれないけど、私……元々、こことは違う世界に住んでたの。ここには魔法があって、私は貴族で……前世の私は、普通の学生だったんだ。伝わるかどうか、わかんないけど……車に轢かれそうな女の子を助けて……そのまま。……前の名前は、綾城(あやしろ)光葉(みつは)って言うの。好きな方で呼んで。あ、光葉の方が名前だよ!」

『……あなたは……みつは、で……ルピア?』

「ふふっ、そうだよ。……あ! もし私以外とも喋れるようになったら、誰にも話さないでね! 私とアルちゃんだけの秘密だからね!」


 わたしたちの秘密、とアルテは小さく呟いて、再び黙り込んだ。

 沈黙することの多いアルテにルピアが心配していると、アルテは再び話し始める。


『みつは……ルピアが話してくれたから……わたしも、教える。でも、もしかすると……ルピアは、わたしのことが……嫌になるかもしれない』

「そうかな? びっくりはするかもしれないけど……私、そう簡単には嫌にならない自信があるよ!」

『……うん……ありがとう。うれしい。でも、そう簡単には……でしょ。わたしは……わたしの事情は、それを越えてしまうかもしれない』

「……アルちゃん……私、真剣に聞くよ。あなたのこと、ちゃんと知りたいの。だから、話したいと思ってくれたなら、聞かせてほしいな」


 まだ少し怖がっているように聞こえるアルテの声に、ルピアはそう言って励ました。

 アルテは少し黙ってから、少し震える声で話し始める。


『……わたし……孤児、だったの。わたし……その時、赤ちゃんだったけど、そこを師匠……あ、ええと……伝説って言われるくらいの、凄い暗殺者に……拾われて。わたし……物心付いてから、ずっと……たぶん、八年くらい。ずっと、暗殺者としての、訓練を受けてた』

「……あ、暗殺者……」

『それで……わたしは……暗殺者としての技能を、たくさん身に付けたけど……それを実践する前に、師匠を狙う人たちに捕まって。……たくさん、酷いことをされて……そのまま…………』

「……っ、……大丈夫だよ、アルちゃん。アルちゃんに酷いことをした人は、ここにはいないよ。大丈夫、大丈夫……私が一緒にいるから」

『……ふぅ……大丈夫。ありがとう』


 息を吐き出すような声を零して、平然とした声で言うアルテに、ルピアはほっと息を吐き出した。

 アルテはそれを聞いて、不思議に思う。

 暗殺者なんて、きっと大多数の人にとっては恐ろしい存在のはずだ。

 だというのに、ルピアはそれを何も気にしていないように見える。


『……ルピア……わたしのこと、怖くない……の?』

「怖くないよ? だって、暗殺者ってかっこいいよ!」

『……で、でも、わたし……人を殺すために……』

「でも、アルちゃんはいい子だよ。私にはわかるもん。だから大丈夫、怖がったりしないよ。……アルちゃんは、私のことを気遣って自分の素性を隠そうとしてたくらいだし!」

『……ルピア……あなたは少し、おかしいと思う』

「えーっ、アルちゃんひどいよ!」

『でも、わたしは好き』


 ストレートな言葉にルピアは頬を染め、嬉しそうに口元を緩めた。


 ――これが、二人の不思議な巡り合いで、生涯を共にする親友との、運命の出会いだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。