不思議な巡り合い
静かな部屋で、少女は目を覚ます。
なんだか、頭が痛い――少し、寝過ぎたようだ。
だが不思議なことに、少女にはベッドに入った記憶が無くて、一人首を傾げる。
「……私、いつ……から、寝てるんだっけ……?」
『わ、喋った……』
「えっ、なっ何!?」
知らない声が聞こえて、少女はきょろきょろと周囲を見回した。
少し幼い、静かな声だ。
怪しい人物ではなさそうだが、声の主の姿が見えず、少女は困惑する。
『あの、えっと……ね。説明させてほしい』
「う、うん……どうぞ」
『わたしも、よくわかってない……けど。今のわたしには身体が無くて、わたしはあなたの中に居るみたい。今のところ、離れる方法はわからない……ごめんなさい』
申し訳なさそうな声に、少女は少し考え込む仕草をした。
何やら摩訶不思議なことが起こっているが、相手は恐らく子ども。
きっと、こんな状況に不安がっているだろうと、少女はそっと胸に手を当てる。
「そっか。わかった……あなたは、私の中にいるんだね。安心して、不安だろうけど……私があなたと一緒にいるからね」
『……え。……怖がったりしない、の?』
「怖がらないよ。だって、あなたの気持ち、わかるから。共感できるって意味でもあるし……あなたが喋り出した瞬間、感じたの。不安がってるなぁ、って」
少女はそう言いながら、そっと自分の頭を撫でた。
直接触れることはできないから、せめてこの感触が伝わればと思って。
『……ありがとう……えっと、お姉さん』
少し恥ずかしそうに、だが嬉しそうにお礼を言う声に、少女は目を細めて笑った。
そんな中、部屋の扉がゆっくりと開く。
「……お、お嬢様……? 一体、どなたとお話を……?」
「えっ、あっ! ……その、窓の外に小鳥が留まっていたんです……! それだけです! 本当ですよ!」
少女は様子を見に来てくれた使用人に慌ててそう弁明し、目を逸らした。
◇
状況を整理すると――少女は、家の庭園で小石に躓いて転んでしまい、頭を打って気を失ってしまったのだそうだ。
そして、目覚めた頃には、既に見知らぬ人物が少女の内側にいた。
「――って感じかな。やっぱり、こうなっちゃった原因はわかりそうにない……よね?」
『……わからない。ごめんなさい……』
「ううん、謝らなくていいんだよ。あなたは悪くない。……あっ、そうだ! まだ自己紹介してなかったよね。私、ルピア・アルベリアって言うんだ! ルピアって呼んでほしいな!」
『……わたし……わたしは、アルテ……アルテ・フォルツ』
「アルテちゃん? 可愛い名前! んー……アルちゃんって呼ぼうかな!」
『……あだ名、初めて……嬉しい』
ふんわりとした声に、少女――ルピアは嬉しそうに笑った。
そして、あだ名を付けられたアルテは、少し黙ってから再び言う。
『……じゃあ……次は、わたしの番。どうしてこうなったのかは、わからないけど……切っ掛けは、わかる。……わたしが……死んだから』
「……え?」
困惑しているルピアに、アルテは少しの間黙り込んだ。
その先を話すのは、まだ少し、躊躇ってしまって。
『……わたし……』
「言いたくないなら、言わなくてもいいよ。びっくりしちゃったけど……私も同じ経験、してるから」
『同じ、経験?』
「うん。信じてもらえないかもしれないけど、私……元々、こことは違う世界に住んでたの。ここには魔法があって、私は貴族で……前世の私は、普通の学生だったんだ。伝わるかどうか、わかんないけど……車に轢かれそうな女の子を助けて……そのまま。……前の名前は、綾城光葉って言うの。好きな方で呼んで。あ、光葉の方が名前だよ!」
『……あなたは……みつは、で……ルピア?』
「ふふっ、そうだよ。……あ! もし私以外とも喋れるようになったら、誰にも話さないでね! 私とアルちゃんだけの秘密だからね!」
わたしたちの秘密、とアルテは小さく呟いて、再び黙り込んだ。
沈黙することの多いアルテにルピアが心配していると、アルテは再び話し始める。
『みつは……ルピアが話してくれたから……わたしも、教える。でも、もしかすると……ルピアは、わたしのことが……嫌になるかもしれない』
「そうかな? びっくりはするかもしれないけど……私、そう簡単には嫌にならない自信があるよ!」
『……うん……ありがとう。うれしい。でも、そう簡単には……でしょ。わたしは……わたしの事情は、それを越えてしまうかもしれない』
「……アルちゃん……私、真剣に聞くよ。あなたのこと、ちゃんと知りたいの。だから、話したいと思ってくれたなら、聞かせてほしいな」
まだ少し怖がっているように聞こえるアルテの声に、ルピアはそう言って励ました。
アルテは少し黙ってから、少し震える声で話し始める。
『……わたし……孤児、だったの。わたし……その時、赤ちゃんだったけど、そこを師匠……あ、ええと……伝説って言われるくらいの、凄い暗殺者に……拾われて。わたし……物心付いてから、ずっと……たぶん、八年くらい。ずっと、暗殺者としての、訓練を受けてた』
「……あ、暗殺者……」
『それで……わたしは……暗殺者としての技能を、たくさん身に付けたけど……それを実践する前に、師匠を狙う人たちに捕まって。……たくさん、酷いことをされて……そのまま…………』
「……っ、……大丈夫だよ、アルちゃん。アルちゃんに酷いことをした人は、ここにはいないよ。大丈夫、大丈夫……私が一緒にいるから」
『……ふぅ……大丈夫。ありがとう』
息を吐き出すような声を零して、平然とした声で言うアルテに、ルピアはほっと息を吐き出した。
アルテはそれを聞いて、不思議に思う。
暗殺者なんて、きっと大多数の人にとっては恐ろしい存在のはずだ。
だというのに、ルピアはそれを何も気にしていないように見える。
『……ルピア……わたしのこと、怖くない……の?』
「怖くないよ? だって、暗殺者ってかっこいいよ!」
『……で、でも、わたし……人を殺すために……』
「でも、アルちゃんはいい子だよ。私にはわかるもん。だから大丈夫、怖がったりしないよ。……アルちゃんは、私のことを気遣って自分の素性を隠そうとしてたくらいだし!」
『……ルピア……あなたは少し、おかしいと思う』
「えーっ、アルちゃんひどいよ!」
『でも、わたしは好き』
ストレートな言葉にルピアは頬を染め、嬉しそうに口元を緩めた。
――これが、二人の不思議な巡り合いで、生涯を共にする親友との、運命の出会いだった。




