初出勤
第8章
王宮には、アイシン男爵のように腕の立つ貴族の若者が大勢呼ばれていた。
その中で、注目を集めたのは、当然だが、アイシン男爵で、とにかく見た目がものすごく麗しく尊い。
それでも、身に着けている物は、ヴァイオレット男爵から受け継いだ物が多く、服も手直しした正装を身に着けて、国王陛下との謁見の間に望んだ。
国王陛下からは、
「今日、ここに集まった君たち貴族は、これから、責任ある仕事へ就いてもらう事になる。全員、気持ちを強く持ち、国民の為に働いてくれ! 」と話があった。
その理由は、隣国との関係が悪化で、国境での小競り合いが頻繁にある。
その為に、国王陛下は軍部を強化し、争いの鎮静化を図りたい、勝手な思惑だった。
それには、王宮内で、頭脳を持った若者を育て、改革を考えている。
本来、この国には、優秀な人物はもっといるだろうが、やはり貴族出身者が、一番、使いやすいとも考えている。
もう一つの理由は、国王陛下には3人の皇子がいて、誰が一番、国王にふさわしいかと、探る意味も持っている。
国王は、側に立つ宰相に話す。
「3人の皇子が、彼らを、どのように使い、国を発展させていくのかを知りたい」
「はい、これからが、皇子達の腕の見せ所ですな。3人とも優秀でいらっしゃる。誰が、誰を選ぶのかも見どころです」
「そう言えば、君の娘さんが見たという、金持ちの男爵はどうだ?」
「はい、娘は、そのヴァイオレット男爵の嫡男のアイシン男爵に熱を上げていまして、しかし、彼は、すでに、王都に向かう前に結婚をしたと聞きます。どうなることでしょう?」
「そうか、彼は結婚したか、君の娘は、3人の皇子の嫁候補と思っていたが・・、皇子達よりもその妻持ちの男爵が、お気に入りとは、実に面白い。いい娘ではないか・・」
「何を考えているのか・・、わがままにも程があります。しかし、娘は知らないのです。彼の家は、困窮していて、どうやら商人の娘を娶ったと・・・」
「おお、そうか、それは、リキュルにもまだチャンスはあると言う事だな」
「どうでしょう。ひとり娘には幸せになって欲しいと願うばかりです」
その頃、アイシン男爵は、少し陽気なブーメン子爵に話しかけられていた。
「よろしく、これからの研修は、二人一組で行うらしい。同じ組だ」
「こちらこそよろしくお願いします。アイシン・ヴァイオレットです」
「ブーメン・センチュオンだ」
「君は・・」
「男爵です」
「僕は子爵だ。所で、今日は全員で、軍部の見学から始まると聞いているが、知っていたか?」
「いいえ、そうですか、初めて知りました」
「僕も初めて聞いた。どうやら、王宮では聞き耳を立てていないと、情報は入って来ないらしいな・・」
「ええ、それは、王都出身の者と、地方出身の者との差でしょうか?」
「僕は、セキセキ領の出身で右も左もわからないから大変だよ。与えられた屋敷は、王宮ヘは近いが、物凄く狭くて、汚い。ーーー今日も、帰りたくないくらいだ」
「だから、毎日、使用人たちに早く出世してくれと、拝まれている」
「ええ、私の屋敷も最初は、電気もなく、床も抜けていました。本当に、急いで招集された事がわかりますね」
二人はそんな話をしながら、軍部練習場へと向かう。
そこには、沢山の軍人が汗を流し、鍛錬していた。殆どの軍人は庶民出身で、戦地で手柄を立てて、家族を養う事を、目標に生きている。
今日は見学だけだと思っていたが、やはり、アイシン男爵は麗しく目立つ為か、ラミベース国、軍長に当たる、カレンジン軍長の目に留まり、呼ばれる。
「そこの二人、こちらに来て、運動してみないか?」
ブーメン子爵は、バリバリの運動系の性格らしく、大きな声で返事を返した。
「はい」
アイシン男爵は、頷き、無言のまま従者のトナカリから剣を受け取る。その剣は鞘からスーッと抜け、光り輝く眩しい剣で、びっくりする程、軽い。
「この剣は・・・」
「男爵、男爵の髪の毛1本でも失うと、私は、死ななければなりません。どうか、ケガをしないで下さい」トリカリは剣を渡しながら小声で話す。
「ふふ・・ああ、気をつける」
元々、剣の腕は超一流のアイシン男爵は、3人に囲まれながらも、秒速で練習生を倒して、ブーメン子爵もその後に続く。
「おおおお・・・、素晴らしい」
周りの貴族たちは、男前で、剣も凄腕の男爵を不快な思いで見ていた。
薄笑いの気持ち悪い貴族が、移動中に話しかける。
「お二人は、凄腕ですね。小さい頃から鍛えたのですか?」
「はい、私の父も軍人でしたので、幼い頃より、毎日の鍛錬は欠かしておりませんでした。しかし、最近は、結婚や引っ越しもあって、剣を握るのは久しぶりです」
ブーメン子爵が、大きい声で叫ぶ、
「アイシン男爵は、結婚しているのか?」
「はい、王都に来る前に、結婚してから来ました」
「おおおおお・・・!!! 」
周りは急に騒めきたち、その貴族は聞く。
「今度、それなら我が家を訪ねて欲しい。妻もきっと喜ぶよ。そこで、知り合いの王都の貴族を、紹介しよう」
「ありがとうございます。しかし、私の妻は商人の娘で、貴族の方々と交流できる身分ではありません。ですので、お茶会や、夜会なのも出席することはないでしょう」
「おおおおお・・・!!! 」
周りは一掃、盛り上がる。
「どうして、君ほどの人が、なんで、商人の娘なんかと結婚したんだ?奥方は絶世の美女なのか・・?」
「ーーー私達二人は身分が合っていると思います。彼女は、どうでしょう・・・?美人ですが、小鳥の様な人で、あまり食べません」
「小鳥・・・・??」
一緒にいる従者のトナカリは、ミオの事を天女のように思いながら仕えている。それなのに・・・
「庶民の小鳥・・・」
不機嫌そうなトナカリに、アイシン男爵は、
「普通の亭主は、自分の奥方を女神のようだとは、言わないものだよ」と教え、ミオに話さないように人差し指を立て、秘密にする合図を送った。
それから今回、国王陛下より集められた50人は、何故か、ピリピリ感が抜け、和気あいあいとした雰囲気になり、誰もが出世コースからいち早く抜けたアイシン男爵に同情した。
納得できないトナカリは、
「男爵、お嬢様は、どこに出しても恥ずかしくないご令嬢です。私は、プライムスご夫妻が、どんなに大切に、お嬢様をお育てになったかを知っています」
「ああ、私も知っているよ。だから、ミオを汚い貴族の集団に放り込む事は出来ない。傷つくのは彼女だから・・、それに、もう少し、王都や普通の生活にも慣れる事も必要だろう」
「ところで、あの剣、どうしたのだ?」
「はい、プラスムス様からの贈り物です。今日、お嬢様・・いいえ、奥様が占いで、この剣を持って行くようにと申していました」
「占い?」
「はい、お嬢様は、小さい頃よりお友達がいませんでしたが、石の裏表や、鳥が空を飛んだり、葉っぱや花などで、その日を占って遊んでいました」
「一番の占いの友達は、池の鯉などの魚たちでした。小さい頃に、誘拐されると、占いで出たと、プラスムス様に申されました。しかし、その日は、どうしてもお嬢様も同行して、外に出なければならない用事がありました。・・しかし、お嬢様が怯えて、泣き出し震えが止まらなかったので、プラスムス様は、考えてダミーを立てました」
「そして、ーーー本当に誘拐事件が起こったのですね?」
「はい、そうです。結局、ダミーの女の子も無事で済んだのですが、それ以来、外出は、めっきり減り、プラスムス様も、ミオ様を信用しているのか、ミオ様が、難色を示す商売には手を出していません」
「すごいね、彼女」
「はい、私達10人には、女神であり、天女のような方です」




