吉報は寝てから来る。
第9章
その日、町に出かけたミオは、王都での食文化を見る為に、市場に出かけた。
同行したのは、シェフのマカフィとフィージア、その他3名、遠くの2名も影のように、ミオの一行を見守る。
「お嬢様、何か食べたい物は見つかりましたか?」
「いいえ・・・。特にありません。しかし、王都の食材は、オリザナダ領とは違いますか?」
「はい、量は豊富ですが、プラスムス様は、他国からも仕入れていますので、これと言って、珍しい食材はありません」
「これから夏に向かいますが、何か蓄えて置くべき食材はありますか?」
「保存が必要ですか?」
「ええ・・・、」
トハルト家令がミオに話す。
「お嬢様、屋敷の周りの土地はほどんど購入する予定ですが、池に、川の水を引き込む為に、土地を開拓します。その開拓予定の場所の林を残し、低温が維持でき、そこに保存の為の倉庫を立てる事は可能です」
「そう、夏でも、食料の保存ができるのなら、保存して下さい。わたくしはあまり食べませんが、旦那様にひもじい思いはさせたくありません」
「わかりました」
(相変わらずの素早い回答に、この男の優秀さがわかる。)
「あ! あちらの砂糖漬けのお店に寄ります」
ミオは今日は、真剣に街中を散策して、屋敷に戻って来た。
「王都は、特に欲しい物が見当たりませんね・・・」
同行していた使用人たちは、
(それは、そうだ。ミオ様は王都の物よりも珍しい品物を、いつもプラスムス様より頂いている。)と、心の中で思っていた。
夕方には、アイシン男爵が戻り、仕事から戻って来ても、屋敷の点検は欠かさず、トハルト家令から、屋敷の土地の拡張と、夏でも保存が効く倉庫の話を聞き、ミオに尋ねる。
「倉庫は、必要ですか?」
「ええ、後、栗の木があると嬉しいです」
アイシン男爵は、トナカリから占いの事を聞いていたので、何も言わずに快諾した。
夏前には、屋敷のフルリフォームが終了して、前回、訪れた宝石店からは、時計や宝飾品が届き、ドレスや宝石類も綺麗に並び、ミオのすべての物は、フィージアが責任を持って、管理するようになった。
プライムス夫妻やヴァイオレットの家からは、様子を伺う手紙が届くが、ミオと男爵は、以前と何も変わらない生活を送っていると、こちらの全員が返信しているので、安心しているようだった。
ミオは、ここ2ケ月、平凡で、穏やかな日々を送り、やっと新婚生活にも慣れて来た時に、王宮からの招待状が届いた。
それは、晩さん会への招待状だった。
王宮での晩さん会は、男女別の席が設けられ、フルコースを堪能した後に、優雅にダンスを楽しみ、その後、男性陣はお酒、女性陣はお茶を頂き、談笑する。
「ミオ、このパーティーは、夫婦そろってのお招きらしい、私たちは末端の席が用意されているだろうが、欠席する訳にはいかない」
昔のミオだったら、きっと、怖気づいて泣いていただろうが、最近のミオは食事も少しづつ取れる様になり、落ち着き、庭の散歩も欠かさない。少しづつここでの生活にも慣れてきたようだった。
「旦那様、わたくしはそのような場所に出席した事がありません。どういたしましょうか?」
「手紙で、ヴァイオレット家のお母様に、聞いてみますか?」
「しかし、晩さん会は、3日後だ。通例ならこのような招待状は1ケ月前には届いていてもおかしくないのに、何か不自然だ」
はい、はい、旦那様、それは、きっと、罠が仕掛けてあります。
私達?もしかしたらミオを再起不能にする罠が・・・。それは誰なのか??フフフフ・・、面白い、その挑発に乗って差し上げましょう。
「困りました。フィージアはまだ髪を上手く結えません。これから特訓して、教えなくては・・」
「え?・・・そこ?」
その場にいた人間は、ミオの心配が、そこにあるのかと思い、周りはなんと言葉をかけていいのかわからなかった。
真剣な顔のフィージアは、失敗は許されないと心に刻み、それから、二人での特訓が始まった。
最初に、フィージアの髪をカットして、整え、見本を見せる事にした。
日差しの中、ミオは、フィージアの髪を手早くカットして整え鏡をのぞかせる。その姿は、まるで姉妹の様で、男爵は、微笑ましく二人を見ていた。
そして、髪が出来上がったフィージアは、驚くほど可愛く変身した。
「おおおお・・フィージア、本当に女の子だったんだ」と一同、同じ感想を言う。
フィージアは、真っ赤な顔をして、何度もチラチラ鏡を見て、嬉しそうに下を向く。
それから、街で購入した馬の毛を石や切り株に貼り付け、フィージアの特訓が始まる。
その夜、アイシン男爵は、美しいミオの長い髪を、フィージアの練習通りに結って見た。
「どうだろう?」
「旦那様、これでは、晩さん会には行けません」
男爵は汗を拭い、
「ああ、これは、すごく難しい。女性は、毎日、このような事をして、髪を結い、ドレスを着て、大変だな」
「ええ、女性は大変です。でも、わたくしが失敗してしまうと、旦那様に恥をかかせてしまうのが心配です」
アイシン男爵は、この2ケ月で、ミオは本当に大人になって、落ち着いてきたと思う。食事も少しずつだけど、食べる様になって、今日の夜は、ワインを少しだけ飲んだ。
「ミオ」
そのままアイシン男爵は、ミオを後ろから抱きしめた。そう、ーーー二人は、まだ初夜を迎えていない。
手を繋いだり、抱き合う事もしてこなかった。夜は、二人とも慣れない生活で、疲れているのか、ぐっすりと眠っていた。
アイシン男爵は、少し震えるミオの髪にキスをして、そのまま熱い息を吐きながら話す。
「ミオは、結婚すると、男女は・・・」
「し、し、--知っています。母が、教えてくれました」
ミオは人生初の、初の、初体験になる為、ドキドキが止まらないで、大きく息をして、自分の鼻息が荒いのがわかって、死ぬほど恥ずかしかった。
(あ~~~すごく知っているけど・・。知らない!)
「だ、だ、ダンナ様、よろしくお願いします」
アイシン男爵は、ミオを自分に向け、落ち着くまで抱きしめて、キスをして、抱き上げ、ベットに連れて行った。
「ミオ、僕も経験がない、でも、二人は夫婦になって、一緒に生きて行く。だから、何があっても、すべてを、二人で乗り越えて行こう。ーーーわかる?」
「僕は君の夫で、君は僕の妻だ。誰に何を言われても、二人でいれば幸せだ」
「旦那様、私と結婚して下さり、ありがとうございます」
「こちこそ、僕の元に嫁いでくれて、ありがとう。これからも、ずっと、僕を信じて欲しい」
その日、初めて二人は結ばれた。それは本当に一生離れないと言う約束を男爵はミオにしたのだと、ミオは感じ、初夜は、これから始まる貴族社会の中で、二人で生きていく力にもなった。
次の日、男爵はミオを起こさないで、部屋を出て、ドアの向こうで待つフィージアに、朝食を運ぶように命じた。
フィージアは、不思議に思いながらも、厨房に行き、ミオの好きなスムージーと卵サンド、壺に入った見えないスープを運んだ。
フィージア以外の使用人たちは、何かを察したようで、トハルト家令は、フィージアに、より多くの注意を与え、最善を尽くすように指示を出した。
食堂で、いつも通りに新聞を読み、朝食をとるアイシン男爵に、トハルト家令が話しかける。
「男爵、よろしいでしょうか?」
「ああ、」
「いつ、ご報告、申し上げようと思っていたのですが・・・・」
「?」
アイシン男爵は新聞を置き、真っ直ぐにトハルト家令を見る。
「実は、ミール夫人が妊娠されました」
「そ・・・それは、めでたい! 義父はお喜びだろう! 」




