旅立ち
第62章
「それでは、この事は、どのように致しましょうか?」
「ええ、わたくしが、直接、アンユンに手紙を書きます。そうすれば、彼も目が覚めるでしょう」
「はい、きっと、震えあがると思います・・・」
「それで、ミオ様は、あの親子をどのように言っているのですか?」
「ーーーー、はい、将来、マユを不幸にすると・・・・」
その後、ジュリエールとタクシンの間で、長い沈黙があり、ジュリエールは、
「わかりました」とだけ、答えた。
それからの数年間は、周辺諸国も驚くほどにラミベース国は発展を遂げ、今では、ハブ国と呼ばれるようになった。
「お母様、ハブ国とは、どのような意味ですか?」
「そうね・・、この国が中心となり、色々な物が流通したり、法律や関税が決まったりして、この国だけではなく、近隣の国にとっても無くてはならない国に成長したと言う事かしら・・?」
マユが産まれて10年が過ぎようとしている。
この日、タクシンの町の近くで、大きな港が開港した。
国が栄え始めた頃、ミオの周りは、沢山の結婚ラッシュが起こった。使用人達もすべて伴侶をもらい。フィージアもお嫁にだした。数年前には、ダルマルとミルクも結婚して、二人は、この港近くに、新居を建て、メイド達も一緒に、子育てできるコミュニティーを作った。
意外だったのはマロンで、マロンは、数字にめっぽう強くなり、外務を担当しているホウラインと喧嘩しながらこの国の財務を支えている。
その日、珍しくタクシンの町に、タクシンも訪ねて来た。
「母上、父上のお墓参りはすみましたか?」
「ええ、いつもの様に、お墓の側に併設された椅子に座り、お茶を飲み、アイシンと話しながら、半日が過ぎてしまいました」
タクシンは、すでに、涙を流し、ミオの手を取り、膝をつき、懇願する。
「母上、逝かないで下さい。後、もう少しだけ・・僕たちと一緒に・・・・」
「タクシン・ヴァイオレット、わたくしが助言できるすべてを、あなたや周りのみんなに伝えました。もう、大丈夫です。本当は、あなたとマユが、どのような人と結婚するのを見届けたいと、ずっと、思っていましたが、それは、次の物語の中で、出会う事ができると思っています」
「・・・早く、父上に会いたいのですね」
「はい、毎日、考えています。年を取り過ぎて、少し太った小鳥の美人を、彼は覚えてくれているのか、少し不安にもなりました」
ミオは、横になれる椅子に体を移し、タクシンにジュリエールを呼ぶように告げる。
「母上・・・」
「お願い、ジュリエールに話があるの・・・、大丈夫、まだ、少し時間があります」
もうすぐ80歳になるジュリエールは、泣いているタクシンの顔を見た瞬間にすべてを察したように、背筋を伸ばし、いつもの様に凛々しく、ミオの前に立った。
「ジュリエール・・・、わたくしは、もうすぐ逝きます。二人の子供達の事を、一番信頼しているあなたに委ねます。タクシンは、心配ないでしょうけど・・、マユは、まだ10歳で・・・年ごろになって、誰かに騙されたりしたら、・・・・心配です」
気丈なジュリエールも、涙を流しながら、
「ミオ様、あの親子は、わたくしの監視下にあります。心配はいりません。ナツの様に失敗しないと、あなたに誓う事ができます」
「ありがとう。ジュリエール。それから、先王は、本当にあなたを愛していました。今のこの国の繁栄は、あなたがもたらしたものです。だから、来世で、先王に巡り合った時には、少しだけ、優しくして上げて下さいね」
「ミオ様、それは違います。この国は、ミオ様の、お優しいお考えで溢れています。アイシンが、ミオ様に、残された愛そのものです。お願いです、どうか・・・このまま・・・」
ジュリエールが、話し終わらない内に、ミオはこの世を去って行った。
優しい光の中、タクシンとジュリエールは、その場で立ちすくみ、長い時間泣いていた。
ミオ・ヴァイオレット、37歳、永眠。それは、あまりにも突然の事だった。
その後、ラミベース国が、どのようになったかは知る事が出来ないが、ミオは、結局、この国を残した。
「主、アイシンが旅立って10年、私は、あの国を残しました。これで良かったのですね?」
「うん、長い間、ご苦労だった。少し休んでから出発するか?」
「いいえ、早く、彼を探して、彼に会いたいです。タクシンの影は・・?」
「ああ、彼も、ミオに同行する為に、待っている」
「母上、」
ミオの前に現われた影は、当時のままの6歳くらいの男の子で、ミオは思わず抱きしめた。
「タクシン・・」
「母上、実は、僕は体は小さなですが、主の下で、色々な国に出向き、訓練を受けました。これからは、母上のお力になり、ご一緒に、父上を探すお手伝いができると思います」
「それって、体は子供で、中身は大人って、ことかしら・・?」
「本物のタクシンに、合わせてある。小さいが、ラミベース国で別れたタクシンと同じと言う事だ」
「・・・・・・」
「主、私達は、ギブアンドテイクです。わかりますよね。わたくしの意味が・・・」
「ーータクシン、ごめんね。このような事になるなんて・・・」
「母上、父上が僕たちを助ける為に、命をかけた瞬間から、僕は、母上と考えは同じです。ただ、もう一度、父上に会いたい。それだけです。さぁ、行きましょう。父上は、僕たちを必ず待っています」
◇◇◇◇◇◇
その後、ミオとタクシンは、タクシンのいる国に辿り着いた。
「母上、これは一体、どのような事でしょうか?」
二人が降り立った国は、真冬で、高台にはお城があり、ミオ達は、高台のずっと下にある小さな屋敷で暮らしていた。
「目の前には、湖がありますが、このように寒い冬には、あまり目にしたくない光景ですね」
「それにしても、この家、随分と貧しい感じがします。まさか、また庶民なのでしょうか?」
「・・・・・・」
二人は、ストーブに薪を入れ、小さな屋敷を見渡してみる。タクシンは、暖炉の上の写真を指差し、母上、父上の写真があります。どうやら父上は、この国では、国王のようですね」
「ああ・・・、どうして、父上の身分は国王で、わたくしは、今回も庶民なのでしょう?どうやって、庶民が国王陛下と知り合えばいいのでしょう!! 」
「しかし、二人は、もうすでに知り合っていると思われます。だって、僕が存在しているのですから・・。まさか、ーー母上、・・浮気?」
「タクシン、小さい体で、大人の発想はヤメて下さい。わたくしがその様な事をする訳がありません」
「絶対にあなたは、アイシンの息子です」
「とにかく、この親子の死因を調べましょう」
タクシンはすぐに、
「母上、多分、毒殺です。テーブルに証拠が残っています」
「・・・・・・」
「二人で、しばらくこの国について調べましょう。しばらくすると、二人の記憶が入ってきます。それまでに、この屋敷を少し見回って、食事にしましょう。幸い、食料は豊富です」
「しかし、メイドと料理長がいません。ーー母上は料理が出来るのですか?」
「ええ、勿論です。簡単な物は、わたくしでも出来ます。しかし、主には、今回も、庶民だと、早めに、言って欲しかった。今度は、悪役令嬢や万能メイドなど、色々な役を考えていましたのに・・・・残念です」
ミオは、残されていたパンを焼き、卵とハムを焼き、ストックされていたお茶も頂き、タクシンと一緒に、初めての食事をした。
「・・・母上、野菜はどうするのですか?」
「・・・・・・」
「しばらくは、野菜は無しでも大丈夫です」
「そんな・・・」




