レディ・ミルク
第60章
ミルクとメイド達、護衛団は、出産間近のミオを訪れた。
ミルクは、救出されてから初めてヴァイオレット家を訪問し、ミオとの面会になる。
ミオは、大きなお腹を抱えて、ジュリエールとフィージアに付き添われて暖かいサロンに登場した。
最近は、雨が続き、憂鬱な毎日だったが、ミルクが訪ねた日は、晴天に恵まれていた。
ミオが、現れた時には、ミルクと大勢のメイド達はすでに頭を下げて、泣いていた。
ミオは、そんなミルクに近づき、抱きしめて椅子に腰かける様に催促した。
「初めて屋敷内にご案内するのに、お別れのご挨拶では、寂しいですね。お元気でしたか?」
「はい、お気遣い、ありがとうございます。ーーミオ様には、わたくしの為に・・・、アイシン宰相を・・・。わたくし、・・どのように、ミオ様に謝ったらいいのか・・ずっと、考えていました。本当に、申し訳ございませんでした。ーーーうううう・・」
「ミルク様・・、アイシンは、ミルク様の為に亡くなったのではありません。そして、わたくしやタクシンの為でもなく、ラミベース国の為に命を捧げたのでしょう。私たちを置いて、少し早く、彼は、彼の運命を受け入れたのです」
「ミオ様・・・」
「だから、これからわたくし達は、彼が望んだ国を再生・復興させる為に、生きて行くのはどうでしょうか?わたくしも、これからは知恵を出し、この国の為にできる事をすべて行いたいと思っています。沢山、食べて、健康になって、子供を産み、育てて、父を助け、この国の人々を愛します」
「そして、今度、わたくしが彼に出会った時に、あれから、ラミベース国のみんなが、一生懸命に生きて、この国は、素晴らしい国に生まれ変わって、永遠に続いています。と、報告するつもりです」
「それには、国民すべてが、豊かになって、安全に毎日を過ごせる日常を取り戻したいです。それは、アイシン・ヴァイオレットが求めたラミベース国の未来です。だから、ミルク様も、どうか元皇族として、これから、すべての国民の為に働いて下さい。お願いします」
ミルクは、少しふっくらしたミオを見て、彼女の決意の固さを感じる。
「ミオ様、わたくしは、タクシンの町に行っても、多くの事を学び、必ずこの国の為に働く事を誓います。今日は、本当にご挨拶出来た事に、感謝します」
「ミルク様、あちらに向かわれても、ご両親様を大切になさって下さい。再びお会いできる事を楽しみに待っています。それから、ヴァイオレット男爵とお母様の事も頼みます」
「はい、あちらでは、毎日、ヴァイオレット家を訪ねるつもりです。私ではお役に立ちませんが、皆さんが訪ねていらっしゃるまで、お慰めできたらいいと思っています。ミオ様、本当にありがとうございました。お体を大切に、元気な赤ちゃんが生まれる事を、毎日、お祈りしています」
ミルク達が、屋敷を出ると、ヴァイオレット家の敷地内では、相変わらず、大勢の人々が働いている。
ダルマルは、そっと、ミルクの側に寄り添い、敷地内を案内する役を務めている。
「プラスムス国王は、ここに立派な王宮を建設する事はないそうです。ミルク様がいらした王宮は、爆撃を受けて、今は、悲惨な状態ですが、王都の復興が済んで、ラミベース国に、余裕ができるまでは、プラスムス国王は、王宮を、あのままにしておくそうです」
「プラスムス国王は、本当に、ご立派な方だと感銘を受けます。ご自分よりも国民を大切になさっていて、さらにこの国の発展する事をお考えです」
ミルクは、頷き、ダルマルの話を真剣に聞いていた。
しばらく歩くと、ダルマルとミルクは、見慣れた池の近くにやって来た。
「ダルマル! 池は、大丈夫だったのですね」
「ええ、奇跡的に残っています。皆さんがいたテントや椅子は、ありませんが、池は無事でした。ミルク様・・・、少し、よろしいでしょうか?」
メイドや護衛は、気を利かせて、その場に留まり、ミルクとダルマルは初めて二人だけで、池の周りを歩く。
「この池は、ミオ様のお考えをモチーフにしてデザインしてあります。僕の少しばかりの考えですが、ミオ様には、特別な力があると、時には、思えるのです」
「特別な力ですか・・・・?」
「この池のデザインは、ヴァイオレット家とプラスムス家の紋章の融合でした。最初は、アイシン様とミオ様のお二人の愛の形だと僕も考えました」
「・・・・、わたくしも、そう思いました。ーーしかし、今は、まさにこの国の状況を表しています」
「だから、幼かった僕も、素直に、・・・・。この池に、当時の気持ちを残しました」
ダルマルが、ミルクと連れて立ち止まった場所は、決して、人目につかない場所で、誰にも見つからない所だった。そこは、池の一角になって、少しだけ細かく石が並べられていた。
「今日は、雨の翌日で、水は、いつもよりも多いですが、流れが速くて透明です。だから、はっきりと見えます。僕が指さす所を見て下さい」
「あの日、あの時、あの王宮で、僕たちが初めてした陣地取りゲームの目を再現してあります。・・この事は、僕の思い出の中に、一生、封印される予定でした。この池を制作していた頃、僕は、一生懸命に自分の気持ちを隠して暮らしていました」
「でも、ミルク様を救出に向かう時、アイシン様は、一番最初に僕を呼んでくださいました。今、思うと、アイシン様もミオ様も、物凄くお考えが深いお方です。そして、僕たちは、まだ、本当に子供でした。今も、全然、子供ですが、僕たちには、どのような大人になればいいのか、導いて下さった人達がいます。ミルク様、僕は、あの日、アイシン様が亡くなってから、ずっと、考えていました。僕に何ができるかを・・・」
「僕は、これからプラスムス国王を、タクシン様を助けて、この国を、いい国にしたいです。その為に、沢山、勉強して、沢山、働く事にしました」
「ダルマル・・・・。それは、わたくしと一緒です」
ミルクは、池を見ながら、涙が止まらなかった。そして、ダルマルは、ポケットから一枚の金貨を取り出して、
「この金貨は、アイシン様が、クミン国から凱旋された時、この池を見て、褒美に、僕に下さった金貨です。僕にとっては、一番の宝です」
「クミン国では、この金貨で、家が一軒、購入できると、その時は、話して下さいました。僕は、これから一生懸命に働いて、この国の為になる事をすると誓います。そして、沢山のお金を稼いで、ミルク様のお迎えできるような屋敷を、建てたいです」
「だから、この金貨をミルク様にお渡しします。待っていて下さいますか?」
ミルクは、ダルマルを見て、震えながらダルマルに抱き着いた。
「待ってます。どんなに時間がかかっても、大丈夫です。クミン国でも、小さい家でも、ダルマルとわたくしが一生懸命に働いて、アイシン様の恩に報いられると思えた時に、わたくしを迎えに来てください」
二人は、みんなに見えない様に抱き合い、キスをして、気持ちを確かめ合った。
ダルマルは、マロンと一緒に、ミルク王女を、馬車でタクシンの町まで送り届け、その後、多くの国への留学を許され、帰国する度に、タクシンの町に立ち寄り、ミルクと共に成長して行った。
ミルクは、ユーリア、エレナミと共に、国内に学校を建設する仕事を進め、ジュリエールの教えを元に、教育の大切さを国内に広げる事を仕事にしていた。




