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覚えていない結婚式

第6章

 エンは直ぐにミオの後を追い、残されたエレナミ夫人とアイシン男爵は、ため息をつき、そのまま無言で食事を続けた。


 最初に、話を始めたのはアイシン男爵で、「お母様は、どう思われていますか?」


 「ーーーわたくしは、当事者ではありませんが、彼女の父上が下さった薬や果物は、相当、珍しい物だと言う事はわかります。そして、プラスムス家からの援助がなくては、お父様は助からなかったでしょう。だから、彼女には感謝しかありません」


 「庶民の出身ですが、それなりの教育は受けている様で、後は、あなたが決める事です」


 「お母様も、私の判断に任せると言う事で、よろしいのでしょうか?」


 「はい、お父様には、わたくしが申しておきます」


 「ーーーーーー」


 エンは、ミオが閉じこもった部屋に入り、話しかける。

 「お嬢様、何かお飲みになりますか?」


 「要らない」

 

 「・・・・・・」


 そのままベットにダイブして、シクシクと泣いている。泣くのには理由があって、他人からみたら、わがままで泣いていると思えるが、ミオは、自分が何もできない事を、生まれて初めて実感していた。


 「このままでは、アイシン男爵に嫌われて、結婚できないワ。それに、明日の音楽と文学・・、きっと、難しいに決まっている。どうしましょう?」


 ベットで握り締めたハンカチは、アイシン男爵の物で、何度も涙を拭いて、鼻水もつけてしまった。


 「そうだ。ロマンス小説の中に・・・・、エン、このハンカチ、綺麗に洗って! 」


 「はい、お嬢様」


 「急いでね」


 しかし、次の日の音楽と文学の話は、意外に面白くて、ミオは目を輝かせてエレナミ夫人の話を聞いた。


 しかし、食事になると、下を向いて、黙ったまま、好きな果物を食べ、席を立って部屋に戻った。


 「・・・・・・」


 次の日、初めて、父親のヴァイオレット男爵に会った。


 ヴァイオレット男爵は、本当に大変な、ご病気なんだとミオは初めて思った。自分の父親がこのようにやつれて、ベットにいる事を想像したら、涙が出た。


 アイシン男爵が、

 「どうして、また、泣いているの?」


 ミオはアイシン男爵の顔を見て、

 「わたくしの父が、病気になって寝込むと思うと・・辛くて、お母様もアイシン男爵もお辛いと思いました」


 アイシン男爵は、ハンカチを渡そうとするが、

 「ごめん、今日は、ハンカチを持っていない」


 ミオは、小さなカバンからアイシン男爵のハンカチを取り出し、渡した。


 そのハンカチには、アイシンと刺繍がしてあったが、あまりにも酷い刺繍で、ミオが自分でしたことがわかった。指は、すべての指に絆創膏が貼ってあり、隠すように手を握っている。


 「君は、明日、帰りなさい」


 「え?」今度は、ミオの目からは大粒の涙が・・・。


 「結婚式までは、実家でご両親に甘えた方がいい。式は、僕が出発する前日でいいかな?両家だけの小さい式になると思うけど・・・・」


 真っ赤な顔のミオ・・・。「あわ、あわ・・・・」


 「父上、母上、彼女と結婚して、王都に赴く事にします。明日、正式にプラスムス家を訪ねて、お許しを頂いてきます。よろしいでしょうか?」


 ヴァイオレット現男爵は、小さく頷いて、許可をだした。


 エレナミ夫人は、

 「そうね、これ以上、我が家で過ごしたら、ミオさんが倒れてしまうでしょう」


 その時、ミオのお腹が『グ~~~~!』と、鳴り、その場にいた全員は思わず笑った。


 ミオは、恥ずかしさの為、急いで部屋に戻り、閉じこもった。ここに来てから、部屋でも、あまり間食が、出来ていなくて、胸がいっぱいと言う事を、初めて知った数日だった。



 その夜、エレナミ夫人とアイシン男爵は、テラスで話す。


 「あのハンカチ作戦は、彼女が好きなロマンス小説の定番なのよ。知っていたの?」


 「いいえ、でも、きっと、何もかもが、初めての経験で、ハンカチに刺繍をしたのも初めてでしょう」


 「はい、家を離れる事、刺繍することも、きっと初めてね。それなのに、私に胸を張って、ロマンス小説が好きですと、話して、そのまま実行する。わがままだけど、裏の無い素直な女の子よ。これからは、本当に大変でしょうけど、どの貴族の娘さんよりも、好感が持てました」


 「母上・・・、母上は、私が苦労するのを楽しんでいますね」


 「ふふふ・・・、でも、彼女、本当に、あなたの事が好きでよかったわ。人生は愛する気持ちです」


 アイシン男爵は、夜空を見上げ、明日、プラスムス家に出向くことを考えていた。


 「驚かすだろうから、連絡を入れておこう。喜ぶのか?悲しむのか?どっちだろう・・・?」


 その後、次の朝まで、ミオは部屋を出て来なくて、出発の時に喜びのあまり、エレナミ夫人に大きく手を振り、


 「結婚式の事は、父上と母上に任せて下さい」と他人事のようにキッパリ言い放った。


 「・・・・・・」


 アイシン男爵は、ミオの立派な馬車に乗り、男爵邸を出ると、すでに、ミオの使用人たちが待機していて、結局は、5台の馬車で、プラスムス家まで、道中を共にした。


 「君の護衛は、いつも同行しているの?」


 「はい、いつも、彼ら10人はいます。一度、誘拐されそうになった事があって、それから、学校もあまり行けませんでした。


 アイシン男爵は、真面目な顔で、


 「ーーそれは、大変だったね」


 「ええ、それから、お店で、品物を買った事は、あまりありません。欲しい物は、アチラからやってきます」


 「でも、これからは、自由です。王都での買いもは、きっと、楽しいでしょうね。楽しみです」


 「ーーーーーー」


 プラスムス家に着くと、すでに、ミオの両親は、外で帰りを待っていた。ミオが家を離れる事は、今まで一度もなく、毎日が、とても長く感じて、アイシン男爵は、この二人、すっかり、やつれて、今後は大丈夫なのかと思った。


 「お父様、お母様、ただ今! こちら、アイシン男爵です。とっても素敵な方でしょう」


「初めまして、アイシン・ヴァイオレットです」


 この時のプラスムス夫妻の複雑な表情は、一生、忘れられない。もしかして、大変な結婚だが、その分、面白い事も多いのではないかと、結婚式当日までは、思えた。


 結婚式当日。


 ミオは本当に体調がすぐれず、朝から機嫌が悪い。具合が悪いせいか、足がむくみ、選んで選び抜いた靴が入らない。


 「どうして・・・、ここ一番の時に、お気に入りの靴が入らないの!! 」


 周りの使用人たちは、察し始め、ミール夫人はミオをなだめる。


 「ミオ、違う靴でもいいのでは?今日は一日中、立って皆様にご挨拶するのですよ」


 「イヤ! 嫌よ!こ の靴が履けなければ、裸足の方がよっぽどいいわ。そうだ、ドレスはこんなに長いから、いっそ、裸足にします」


 「それなら、違う靴でも同じでしょう?」


 「嫌よ、絶対にイヤ! お庭に、カーペットを引いてもらって、私が歩く専用の道を作って貰えば大丈夫。お母様お願い! 」


 「ーーーお父様に、話してみます。・・ミオ、これが私たちが出来る最後の事だからね。これ以上のわがままは許しませんよ」


 「ありがとう。お母様。大好きよ」


 結婚式は、内輪だけで行う予定の、ヴァイオレット家の意向は、当日、打ち砕かれ、オリザナダ領の重要人物たちは、招待もしていないのに、どんどん押しかけて来た。


 今回、ヴァイオレット家の当主であるヴァイオレット現男爵は、ご病気の為に、少しだけ顔を見せ、残りの接待は、アイシン男爵とエレナミ夫人、プラスムスが担当する。


 一般の貴族の結婚式では、絶対に、庶民の人々は、駆け付けたりしないが、プラスムスは庶民出身で、今回の結婚式には、この周辺の人々、自分の関係者、通りがかりの人々すべてを招いて、ご馳走した。


 その中で、ミオ専用の道を作る。それも当日・・・・。


 しかし、ミオのわがままに答える部隊によって、順調にヴァイオレット家の庭には、レットカーペットが引かれ、料理はすべてミオが食べられる果物が主流で、野菜はない。それでも、珍しい果物が多く振る舞われ、お酒は浴びるほど用意され、色とりどりな素敵なガーデンパーティーと結婚式になっていた。


 芝生の上での式は順調に終え、振り返ると真っ赤な顔をしたミオは、椅子に座り、気を失いかけていた。アイシン男爵は、ミオを抱き上げ、具合が悪いと悟られないように、周りの人達に冷やかされながら、寝室のベットに寝かせ、ミオは、そのまま、エンとミール夫人に任せ、自分はその日、遅くまで、招待客に対応していた。




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