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アイシン・ヴァイオレット

第57章

 アイシンは、どのようにそのバルコニーに辿り着いたかは、覚えていない。森の離宮に入り、階段を、1歩、1歩、登り、ドアを開け、目にしたのは、傷ついて汚れているミオとタクシンだった。


 「ミオ、タクシン、すまない。私のせいだ。ミオの話を聞いていれば・・・、こんなことに、ならなかったのに・・。すまない」


 ナツ皇子に、拳銃を向けられていながらも、1歩ずつ、二人に近づくアイシンをミオは止めたい。


 「旦那様、お願いです。止まって下さい。そこで止まって下さい。私の話を聞いて、私は、あなたのミオではありません。私は、この国を滅亡させるか、存続させるかを決める為に転生している人間です。アイシン、私の話を聞いて下さい。これは本当です。本当の事だから・・お願い!」


 「あなたは、私の力を信じて、ここまでたどり着きました。だから、お願いします。もう一度だけ、私を信じて下さい。私は、一生、死にません。死ぬことはないのです。この国で死んでも、必ず、違う世界に転生するのです。それが私に課せられた使命・・。だから、私が殺されてもあなたは悔やむ事はありません。止まって!! 」


「ーー私自身が、死んでも悲しくありません。でも、あなたとタクシンが死んでしまったら生きてはいけません。お願いします。私の命をナツ皇子に与えて下さい。私は、あなたを忘れるだけで、死なないのですから・・、これは、本当です。あなた、聞いて下さい。お願い! 」


 「アイシン!!! 私はあなたが、今、考えている事がわかります。お願い! 止めて! お願いします。私は死んでも本当に大丈夫ですから・・・ヤメて!! あなたとタクシンの命は、この国には必要です。私は、一度、死んでいます。プラスムス家のミオではありません!! 」


 アイシンには、ミオの言葉が届いていない。ナツだけを見ている。ミオとタクシンを助ける! それだけだ!


 「アイシン! あなたが選ぶ命は、あなたとタクシンの命です」


 チャンスは一度だけ、ナツ皇子が銃口を向けた相手は、ミオだった。しかし、アイシンは、ミオとタクシンを抱き上げ、バルコニーの下にいるトナカリ達に託した。


 互いの銃声は、鳴り響き、ナツ皇子とアイシン宰相はその場に倒れ、駆け付けたパンネルにもアイシン・ヴァイオレットを救う事は出来なかった。


 流れる血の中で、アイシンは、最後に「ミオ・・・・」と呟いた。


 「アイシン・・・、どうして、私を・・・イヤ~~~~!! 」



 王都の街は、プラスムスと友好を結んでいる国々から沢山の援軍が乗り込み、1週間後に鎮圧された。


 あの日、バルコニーから投げ出されたミオは、既に2週間以上、目を覚ましていない。


 パンネルによると、あまりにもショックが大きく、生きる力がなくなったようだと、診断された。


 あの場にいたタクシンもショックは大きく、口を開く事はなく、ただ、ずっとミオの側に寄り添っていた。


 焼け野原のようになったラミベース国は、ひっそりとして、まるでミオの神判を待っているかのように思える。


 ミオは、あれからずっと、闇の中に入っていた。


 この闇は、ミオ達には認められている制度で、転生人だろうが、人だろうが、あまりにも過酷で辛い事がある時は、闇の中に隠れる事が許されている。


 自分で、国を一つ、消滅させてしまう決断をした後は、どうして誰もが、その闇に入り、心の回復を求める。


 ミオも、今回、愛するアイシンを失い、どうしても、現実に戻って行く気にはなれずにいた。


 暗い闇の中で、一人で泣いていると、珍しく主が訪ねて来た。

 「ミオ、ご苦労だった。・・すまない・・・」


 ミオは、目を見開き、主に飛びかかった。


 「どうして、どうして、今回、私に、アイシン・ヴァイオレットと結婚させたのですか?なのに・・、どうして、彼が不幸にも・・私たちを置いて・・、どうして・・・」


 「ミオ・・、すまない。これは私が勝手に決めた事だ。今回は、ミオ・プラスムスの力さえあれば、あの国は、大丈夫だと考えた」


 「どうして・・・?もしかして、あなたは、あの国に行った事があるのですか?」


 「・・・・・・」


 「ーーー先王ですか?」


 「ああ、そうだ。本来なら消滅すべき国だった。愚かな争いで国民を巻き添えに、継承者争いを繰り広げる。ラミベース国は、滅亡の道を選んでいた」


 「なら、どうして、復活させたのですか?」


 「ーーー愛する人がいて、その人のお腹には、子供が宿っていた。儂は、何千年も生きているが、誰一人愛した人はいない。彼女だけだ・・。旅発つ間際に、彼女のお腹には子供がいる事がわかった」


 「ジュリエール・・・・」


 「そうだ、彼女の願いは、この国の再生だった。すでに一度、没落していた彼女だが、下働きから這い上がり、余命いくばくも無い、先王の世話を任される程になっていた。彼女は熱心に、介護をしてくれて、先王(儂)の世話をしてくれた」


 彼女の凄い所は、ユーリアは自分の娘なのに、決して名乗らずに見守り、私に、この国の未来の話をして、王室の為、お国の為に、真剣に働いている。・・・だから、彼女を助けたかった。


 「彼女の望み通りに、儂は、今の国王に継承権を与え、彼女の産んだユーリアを許嫁に指名した。そして、壊れ果てた王宮は、たくさんの人々が亡くなり、鎮魂の為に祈りを捧げ、誰にも荒らされない様にして、この国を去った。本当は、もう一度、私も転生して彼女の側に居たかったが、それは許されないことだ。ミオ、ーーー知っての通り、私は、多忙だ」


 「しかし、どんなに多忙でも、忘れられない。それは、本当にジュリエールを愛した事、彼女が妊娠した事、生まれて来た子供、そして、子孫・・・。だからいつも、ラミベース国を気にしながら生きて来た」


 「現国王に3人の皇子が誕生して、彼女なら、きっと上手くやれると、信じていたが、一抹の不安もぬぐい切れなかった。だから、ミオを送り込んだ。私の孫は、必ず、君を幸せにしてくれと信じていた」


 「すまない。今回、儂の考えが甘かった。ミオを傷つけ、ジュリエールやエレナミを泣かした」


 「主、主は、今回、ラミベース国を、どのようにするおつもりですか?」


 「私の願いは、ずっと、変わらない。ジュリエールがこの国で、納得のいく人生を送った後、普通の人間は、ずっと後に、もう一度、産まれてくる。その時、その時を、彼女と過ごす事だ。私たちは転生人で、これから何度も、彼女との人生を生きる事が出来る」


 「だから、愛する彼女には、最初に産まれたこの国で、彼女が幸せな人生を送ってくれるのを見届けてから、次の人生に向かって欲しいと、思っていた」


 「では、アイシンはどうなるのですか?私達家族は一番、幸せな中にいたのに・・・。アイシンは、私たちの為に、・・私を助ける為に死んだのですよ。アイシンは、ジュリエールとは違う・・・・。素晴らしい人生を終えていない!! 」


 「うん、だから、ミオとアイシンには特例を与える」


 「アイシンも、必ず、産まれてくる。ミオとタクシンは、その時、必ず、彼を見つけられる。しかし、アイシンには、ラミベース国の記憶はない。もしも、いつか、彼が、ラミベース国を思い出し、君たちを思い出したら、その時は、ミオは転生人ではなくなり、一生、一緒に生きられ、生涯を閉じる。どうだろうか・・・」


 「・・・・・・」


 「ーーー主、怪しいです。アイシンが、いくらあなたの孫だと言っても、このような条件を提示するはずがありません。あなたは、そのような人格者ではありません!」


 「・・・・・・」


 「・・・・わかった。ミオ、お前の今の能力で、未来を占って欲しい」


 「ーーー私には、息子が2人、娘が一人誕生して、一人は国王、一人は宰相、一人は王妃・・?」


 「どういう事ですか?もしかして、お腹の中に双子が・・・?私のお腹にはアイシンの子供がいるのですか?」


 「イヤ、・・お腹の中には女の子が一人・・・・・・」


 「主、あなた、タクシンを・・・・」


 「タクシンは、この国には必要な人材だ。今後、彼がラミベース国を収め、子孫を残し繁栄させ、ジュリエールを安心させて、彼女を、送りだす役目がある。だから・・・」


 「ミオ・プラスムスの能力は、本当に素晴らしい能力で、伝承されるべきなのだ。その能力は、今のタクシンにも、受け継がれる。だから、きっと、今後のラミベース国は、安泰だ」


 「ミオ、アイシンを探す旅は、長くて辛い旅になる。一人ではくじける時もあるだろう・・」


 「だから、タクシンを転生人にするのですか?」


 「ああ、タクシンの影を連れて行きたい。どうだろうか?ミオのこの国での寿命はそんなに長くはない。昔から病弱で、今回のダメージも大きく、これから子供も産む。その後、数年は、子供達の為に生きられるが、また、転生して、アイシンを探す時、タクシンも一緒にいられる」


 「だから・・・、儂に、タクシンの影を預けないか?」


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