捜索活動
第55章
ナツ離宮の建設中は、不幸が続いた。
一度目は、大雨の中、雷で撃たれ大きな火災が起き、自然に鎮火した。
次は、掘り起こした土砂の中からは、沢山の遺骨が発見され、その度に一時中断をよぎなくされた。
度重なる事故と火災、遂には、育たない植物が腐り、ガスを発生させて爆発まで起こったのだ。
そして、最大の不幸は、ナツ皇子の妻であるキラリ妃が、完成間近の離宮の中で、ご病気で亡くなっているのが発見された。
その事実を、どうしても受け入れられないナツ皇子は、ついに、すべての人達の宝を傍に置き、この国を手に入れる計画を、この夜、実行しようとしている。
国王陛下は、既に警戒を始めているが、まさか、ナツ皇子が、ミルク王女を人質に取り、反乱を起こすとは、思ってもみなかった。
「国王陛下、アイシン宰相が、お見えです」
飛び起きた国王陛下は、最悪の運命をすでに感じ取っていた。
「アイシンが・・?このような夜にか?」
ナツ皇子が離宮の完成パーティーを、開いている為に、ブーメン軍長達にも警戒を出し、万全を期しているにも関わらずに、アイシン宰相の突然の訪問に、国王陛下は、嫌な予感しかなった。
「国王陛下、お知らせしたい事があります」
「どうした?ナツは兵を起こしたか?」
「いいえ、王都では、起こさないと、わかりました」
「どういう事だ!」
「離宮には、地下通路があり、その通路をたどって行くと、王都の森に抜け出て行くことがわかりました」
「・・・・・・」
「ナツ皇子は、頭が良く、王都での戦いに勝ち目がない事を知っているのでしょう。森の向こうに罠を張り、その地で、戦いを開始するつもりかも知れません」
「ナツが、例え、その地での戦いを望んでも、・・・ミルクか?妹を、あんなに可愛がっていたのに、なぜだ・・?」
「はい、夜会の途中で、メイド達は、ミルク王女を見失ったもようです」
「そんな・・・。なぜだ・・?今日は、ミルクの為の夜会で・・・・」
「王妃には、まだ、言わないでくれ、何としてもミルク王女を救出する」
ブーメン子爵たちは、王都から森の向こうに移動したが、そこには、取り立てて、罠などの仕掛けを発見はする事は出来ずに、フェイクだと立証する為に時間がかかり、完全にナツ皇子とミルク王女を見失う失態を犯した。
アイシン宰相とブーメン子爵は、合流して、痕跡を探しながら、情報を共有して行った。
「アイシン宰相、もうすぐ夜が明けます」
「うん、一度、王宮に戻ろう」
王宮では、やはり、昨日の離宮での出来事は、隠すことが出来なくなり、ナツ皇子がミルク王女を誘拐して、姿を消した事は、公になっていた。
「ユーリア王妃、ーー王妃は・・・ご無事ですか?」
「うん、すまないが、昨晩の内に、ジュリエールに来てもらっている。今の状況は、彼女たちには、一番辛い状況になってしまっている。二人で乗り切ってもらいたい」
「しかし、ナツ皇子は・・・、何が目的なのでしょうか?ミルク王女の事は、誰よりも可愛がっておられました。それなのに・・・?なぜ・・王女を・・・?」
その後、眠れない数日が過ぎ、ミオは、屋敷に戻ったアイシン宰相に、告げる。
「ナツ皇子とミルク王子は、北の方に向かっていると思われます。しかし・・・そこは嫌な予感がして、あなたに行って欲しくありません。今回は、わたくしは、本当に、あなたに、行って欲しくありません」
「・・・ミオの占いを信じている私が行かないで、誰が行く?それは出来ない・・、すまない」アイシンはミオを抱きしめて、ミオを慰める事しかできなかった。
「ミオ・・・、本当にすまない。これが最後になる。だから、今回は、行かせて欲しい」
「ジュリエールは、今まで、身内を隠し、弱点がなかった。しかし、ミルク王女の事を、本当に可愛がっているのが、私でもわかった。離宮の完成の前に、ナツ王子は、国王陛下に、自分もジュリエールの孫だと言う事実を告げている。ーーー彼は、愛されない孫だと思っているに違いない。そのような事はないのに・・・。ジュリエールは、ナツ皇子が、この国を継ぐことを容認していた。だから、僕はサポート役を務めるつもりだった」
「ジュリエール自身も、誰の弱点にもなりたくなかったから、ずっと、身を潜めて暮らしていた。それが裏目に出た結果になった。彼女は、自分は弱点になった時には、潔くこの世を去るつもりだったのに、ミルク王女には、自分の娘たちに、できなかった事をしてあげたかったのかも知れない。本当の彼女は、普通の優しい祖母なのに・・・・」
アイシン宰相は、腕の服を掴んで離さないミオをなだめる様に、少しずつ真実を話して行く。そして、最後に、ミオの顔をしっかりと見て、
「回りくどく言っているが、ジュリエールは、僕の祖母でもあり、皇子達の祖母でもある。だから、僕は、ジュリエールの為にも、この国の為にも、どうしても無傷でミルク王女を助け出したい。行かせてくれないか?ミオ・・・」
ミオは、どうしてこのような不安が押し寄せてくるのか、わからないが、震えたまま、最後は頷いた。そして、アイシンは、ミオを強く抱きしめたまま、トハルトを呼び、
「ダルマルを呼んでくれ」と命令した。
ダルマルは、既に、青年に変わって行く過程で、身長もアイシンに近づいて、ここ数日で大人に近づき、驚くほど痩せた、
「ダルマル・・・、ミルク王女の行方は、どうしてもわからない。軍部は全国的に捜索活動を展開する事になった。しかし、私は、ミオの言う方向に捜索して行きたいと、考えている。ダルマルも行くか?」
「行きたいです。このままここで待つことは、僕にはできません」
大人に近づいてきたダルマルは、キッパリとそのように告げた。
「うん、では、行こう。なぜ、君を連れて行くのかは、ミルク王女を、今一番、助けたいのは、君だからだ。今は、そのような気持ちが一番大切で、手掛かりの無い状態での捜索を乗り切る為に、全力を出して捜索に当たる」
「はい」
アイシン宰相は、その夜、ミオを抱きしめ、なだめ、次の日の朝早くに、そっと、屋敷を出発して行った。見送ったのは、ヴァイオレット家に残された数人の使用人達と、タクシンだった。
「タクシン、母上は、今、やっと眠った。随分と反対されて、ずっと泣いている。しかし、私はやはり、ミルク王女を、・・・ナツ皇子も助けたいと思っている。だから、私がいない間・・、ミオの事を頼めるか?」
「はい、父上・・。しかし、絶対に、私たちの元に戻って来て下さるのですか?」
「勿論だ。戦争に向かうのではない。助けに行くだけだ。ーー今、お母様は、少しナーバスになっている。もしかしたら、食事が摂れないかも知れない。その時は・・・」
「わかっています。僕が、お母様に食べて、眠るように進言します。父上、僕に任せて下さい。必ず母上のお力になって、父上に心配をかけないと誓います」
「ありがとう。タクシン、母上を頼む。では、行って来る」
その朝、タクシンの心の中でも、不安がよぎっていた、ミオは、今まで、一度もタクシンの行動に反対を唱えた事はなく、いつも、弱々しいが、必ず見送り、どんな状況にも耐えてきている。
タクシンと同じように考える人は多く、プラスムスは、この後、すぐに動き始めた。
「トハルト家令、父上がいない間、このヴァイオレット邸内の警備は、強化した方がいいでしょう。それに、ジュリエールもいません。おばあ様にも、力を貸して頂かないと、本当に、母上は、食事ができないかも知れません。・・今から緊急事態だと思った方がいいでしょう。すべての準備に取り掛かりましょう」
「はい、坊ちゃん、私もそのように思っていました」




