ナツ皇子
第54章
王都へ帰る道は、また、二手に分かれたが、今回は、持ち帰る荷物が少ないので、大勢の人間が船に乗って戻る事ができた。その中には、ミルク王女やメイドも含まれていた。
「ジュリエール、あなたは、本当にミルク王女には甘いです」
「ええ、エレナミ夫人にも同じことを言われました。さすがに私も年を取りました。彼女が、可愛くて仕方がありません」
「・・・・・・」
アイシンは鉄の女ジュリエールにも弱点があるのだと、この時、はっきりと思った。
ミルク王女は、王都に戻る時に、その大きな船を見て、嬉しそう乗船して行った。
「わぁ~~~! ダルマル、この船、素晴らしいわ・・。こんなに大きな船、始めて見ました」
「はい、この船は特別です。アイシン宰相がミオ様の為に、随分と時間をかけて、考え、職人全員で工夫して作ったんだ。僕も、この前、初めて乗ってみて、素晴らしいと思ったよ。この帰省が、終わったら、この船は、何度も川を往復して、沢山の町に沢山の品物を届けるだろう・・・」
「本当にそうなったらすごい事ね」
「必ずそうなるよ。それに、アイシン宰相は、僕たちが大人になって、この国の川の整備が進んで、王都や他の領土から、船を使って、遠くの外国にも行けるようにしたいと、申していた。それまでに、僕は、もっと立派な船を設計して、造船したいと思っている。それには、木の船では駄目だ。鉄で無いとね」
「その為には、もっと、もっと勉強が必要で、多くの研究者や職人も必要になる。生きている時間が、もっと欲しいよ。僕は、ずっと、生きて、色々な事をしてきたい」
「ダルマル・・・・」
「アイシン宰相、ミオ様、ジュリエール様は、本当に素晴らしい方々で、僕はこの国に産まれた事を誇りに思う」
「そして、この国を守っている国王陛下もご立派なお方だ」
「ええ、わたくしの父上は、立派なお方です。尊敬しています」
「ミルク王女も僕も、立派なお方に囲まれて成長出来て、こんなに幸せな事はありません。どうか、ミルク王女、この夏を忘れないで下さい。あなたは、ジュリエール様が見込んだ、この国に必要なお方です」
ミルク王女は、ダルマルが言いたい事は、本当はわかっている。二人の間には身分差が存在して、自分は王女で、ダルマルは、きっと一流の労働者になる。二人は、決して許される事はない。
だから、どんなにミルク王女がダルマルを探しても、彼は、遠くから微笑むだけ・・・。
ダルマルの剣の腕は、相変わらず下手くそで、王女を守る騎士にもなれない、官僚として、王宮に仕える気持ちもない。それを、ダルマルは望んでいないと、今、はっきりと言われた。
「ダルマル・・・、わたくし達が一緒に勉強できるのは、きっと、後数年でしょう。わたくしが社交界にデビューして、ヴァイオレット家のお教室に、通えなくなるまで、わたくしと一緒にいて下さい」
「はい、ミルク王女が立派なレディになるまで、一緒にいましょう。そして、いつか僕の作る船に乗って下さい」
「ええ、勿論です。その船にはわたくしの為の席が必要です」
「知っています。立派なお部屋とメイドの控え室もお作りします」
「・・・ハハハハハ・・」
二人は、笑いあっているが、後ろで聞いているメイド達は、下を向いて涙を地面に落としていた。
◇◇◇◇◇◇
二人の輝いていた夏が終わり、数年が過ぎ、この国一番の美しい王女、12歳で、社交界にデビューする。彼女をエスコートするのは、第2皇子のナツ皇子、場所はナツ離宮。
ナツ皇子が建設する離宮は、何度も国王陛下の妨害にあったが、この年、遂に完成を果たした。
今日は、国王陛下や王妃が欠席の中、その離宮での夜会が華々しく開かれる。
「お兄様・・・、今日は、素晴らしい日なのに、お父様もお母様も、アイシン宰相夫妻も欠席ですの?」
「父上たちは、この離宮をよく思っていない。アイシン夫妻は、相変わらず、お茶会も行わないし、夜会も出席した事は、数回だけ、恒例といえば、恒例だ。今日の夜会は、ミルクのデビューも兼ねているから、大勢の若者が押しかけてきている」
「本当なら、すでに婚約者がいて、ミルクをエスコートするのだろうけど、父上は、ミルク王女を溺愛しているからな・・。兄で、我慢してくれ」
「お兄様こそ、王妃を亡くしたばかりなのに・・・、わたくしの為に申し訳ありません」
1年前に、ナツ皇子の愛する妃は、病に倒れ、この世を去った。その時に、シキオール国王夫妻は、ナツ皇子に、ここの離宮の呪いを話して聞かせ、建設を思いとどまるように説得した。
「父上と母上は、僕があの場所に離宮を建設した為に、王妃が亡くなったと言いたいのですか?」
「あなた達は、本当に呆れるほどに、先王を信じている。嫌、ジュリエールの言われるままに、この国の政を行っている。自分たちが能無しだとは、思わないのですか?アイシン宰相の野望の方が、この国を滅ぼすとは、考えないのですか?」
「ーー僕は知っています。僕たちもジュリエールの孫です。母上と、エレナミ夫人は、父親違いのご姉妹です。ジュリエールは、先王に会うまでは、本当に、不幸、続きでした。愚かな最初の夫は、没落し、一家滅亡の罪を負い、彼女は、自分の娘を助ける為に、自分を殺し、労働者として、王宮に雇われました。そして、公爵家に養子に出された母上を立派な王妃に教育する為に、メイド長まで上り詰めて、その後は、先王の愛人になったのです。本当にすごい女性です」
「しかし、おかしいと思いませんか?あの時、先王は、すでに、90歳近くです。本当にエレナミ夫人は、先王の娘で、アイシン宰相は、先王の孫なのでしょうか?」
「ナツ皇子!! 」
「もしも、事実なら、ジュリエールは、国母となり、国民を導き、教育し、この王室に君臨しているはずです。そして、アイシン宰相は、国王の座に就いているはずです。彼女は、後ろめたいからこそ、表舞台には立たないで、父上たちを操っているのです。あなた達こそ、ジュリエールの呪いにかかっているのです!! 」
「ナツ・・・、どうしてそのように思うのですか?何時からそのように思うようになったのかを、自分で考えた事がありますか?」と、ユーリア王妃は、優しくたずねる。
「母上の質問の意味がわかりません。すでに、アンユン皇子は、オリザナダ領で囚われの身です。モクカツ皇子は、ご自分でこの国を捨てました。この国を継ぐ人間は、私以外は、既にいません。それなのに、どうして、私がすることを呪いだと、忌み嫌うのですか?」
「アイシン宰相は、父上の息子ですか?」
「ナツ皇子・・、わたくし達は、本当にキラリ妃が亡くなった事を、残念に思っているだけです。妃が亡くなってから・・・、あなたは本当に変わってしまいました」
国王陛下夫妻を睨み返すナツ皇子は、すでに、昔の頭のいい、爽やかなナツ皇子ではなく、ただ、深い悲しみに陥った人間にしか、二人には見えていない。
「母上、キラリの事を言う事はヤメて下さい。彼女は、今でも僕の中で生きていて、僕がすることを応援してくれています。僕は、離宮を完成させて、その時、ミルク王女を社交界にデビューさせるつもりです。あの年で、許嫁がいないのは、あまりにも可哀そうです。僕とキラリは、子供の頃から何をするのも一緒で、毎日が楽しくて仕方がありませんでした」
「僕は、ミルク王女には、公爵家辺りから自分で好きな人を選ばせたいです」




