夏が終わる。
第53章
アイシン宰相一行は、ダルマルと共に、クランの実家のモノノ家を訪ねる。クランが仕送りしているだけあって、家は、その地域では、一番いい家だと言われている。
「ここですね」
ダルマルが訪ねると、ブラムスはビックリして出て来た。
「ダルマル・・・、どうした?」
「お金は、渡せないのですが、母が悲しむので、祖母の為に、薬を持って来ました」
「うう・・、ありがとう」
「医師も同行していますので、診察して、調薬して、祖母を助けたいと思います」
「ゴホゴホ・・、ありがとうございます」
「伯父、あなたも、多分、病気に罹っています」
「え??」
ダルマルが、モノノ家に滞在している間に、アイシン達は、その町の状況を把握していた。
「病院はありますが、今は、道端にも患者が待っているような状況です」
「年齢は、やはり、老人が多いです」
「ミオ・・・・。君の言う通りだ」
「しかし、その病院を起点にして行くしかいない。先ずは、院長との面会の時間をとって来てくれ。他の人達は、ミオが言ったように、患者全員に手洗いと消毒を実行させていこう。
「はい」
その後、時間が取れた院長がアイシン宰相の元を訪れた。
アイシンは、今回の流行り病の事を、隠さずに院長に話し、院長は、立派な人格者で、アイシン宰相との協力を快諾してくれた。
「病院では、パンネルとコメネルが協力します。後は、衛生面の強化が必要です。それを徹底しないと、この病は、国中に広がってしまいます。病院を一度閉めてもらって、それから、職員全員に、厳しい教育があります。
「・・・・・・」
パンネルたちが、ダルマルと一緒に病院に来てから、病院は、一時的に閉鎖され、院内すべての清掃と消毒が行われ、その病院に勤めている人達は、その日から、自宅に帰る事を禁止された。
病院を中心に1km以内は、病人だけしか居なくなった。
その後、1軒、1軒、家の中を調べて、薬を渡し、町に出る事を禁止して、この町を完全に封鎖した。
封鎖にあたっては、暴動が起きる事も懸念されたが、王都からわざわざアイシン宰相が、ユーメデシア領の事を考えて訪ねてくれた事が、効力になり、住人たちは、協力して、病を押さえ込む事に成功していった。
2週間が過ぎて、一番重体だったダルマルの祖母が回復したのを見届けて、アイシン一行は、タクシンの町に戻り、1週間の隔離生活を送る事になった。
意外に、その1週間は、食事をする以外にはする事もなく、本当の休暇となった。
一方、ヴァイオレット男爵の部隊は、ブーメン軍長の部隊と合流し、残党を捕らえ、アンユン皇子と一緒に、ブーメン軍長が、王都まで護送する事になった。
ヴァイオレット男爵は、その時、ブーメン軍長に、国王陛下宛の手紙を託し、アンユン皇子の身柄をこのオリザナダ領で、引き受ける事を申し出ていた。
ミオ達が、このタクシンの町にやって来て、1ケ月以上が過ぎようとした頃には、すべての事が解決し、のんびりとした休暇は、終わりを告げようとしていた。
「母上、明日、父上に会えますか?」
「ええ、明日は、みんなが、この町に帰って来ます。お爺様たちもしばらくしたら帰還されるでしょう。やっと、何日かの休暇を取れますね。ーータクシンは寂しかった?」
「いいえ、母上ほどではありません。母上は、食事の量も少なくなってしまい、みんなに心配をかけています。今日の夜は、少し多めに召し上がって下さい。お願いします」
「はい、わかりました」
次の朝、アイシン一行は、タクシンの町に戻り、町の人たちの歓迎を受ける。
アイシンは、真っ先にミオとタクシンを抱きしめ、クランは、久しぶりにダルマルの顔を見て、嬉しそうにしていた。
ミオが、
「結局、ダルマルは、一度も病気に罹らずに、生還できたのですね」
「はい、アイシン宰相の提案で、治療と衛生の強化を一緒に行った為に、爆発的な流行を抑える事ができました」
「特に今回、病院の外で、診察と療養を行う事が良かったと思っている」
「それは・・?」
「ミオが換気が大切だと言っていたので、思い切って外で診察して、ベットも外に出した。薬も投与したが、果物を沢山食べさせて、汗と尿を排泄させて、熱を下げて行った。今は、夏で、汗は、どんどんかいて、水もどんどん飲ませて、それが良かったように思える」
「それで、ダルマルの祖母は・・?」
「ああ、元気になった。大丈夫だ。今、ダルマルは優秀で、ミルク王女と一緒に、勉強をしている身分も理解してくれて、今後は、デスタイン家には頼らずに、暮らして行く事を約束してくれたよ」
「それは、良かったです。クランもこれで一安心ですね」
数日後に、ヴァイオレット男爵たちも戻り、エレナミ夫人も、笑顔で夫を迎えた。
ダルマルとミルク王女は、やっと、通常通りに授業を受けられるようになったが、その時には、王都から、アイシン宰相に、戻って来てほしいと、国王陛下より命令が下った。
ミルク王女は、
「そんな・・・、まだ、休暇は始まったばかりです。もう、戻るのですか?」
ダルマルは、
「王女は、タクシンの町で、何をしていたのですか?」
「勉強です」
「え???・・・どうしたの・?」
ミルク王女は、ダルマルがタクシンの町を出てから、ずっと、本当に勉強をしていた。エレナミ夫人が持っている本を読み漁り、ジュリエールからは、王室の役目などの個別授業を受け、その後、タクシンやホウラインと、町の暮らしや公共の大切さ、それに今回は、衛生についての授業なども受けていた。それは、きっと、少しでもダルマルに近づく為でもあった。
ダルマルが戻り、行ったことのない遊戯施設にもいけると思っていたのに・・・・。
「まだ・・・、遊んでいません!! 」
見かねたアイシン宰相は、
「ミルク王女、大きなブランコなどがある場所に、これから、行ってみましょうか?」
「ミオや子供達も一緒に出掛けて、食事も持って、どうでしょうか?」
子供達全員は大喜びで、急いで支度を開始して、周りの人々も協力して、この夏の終わりに、やっと、遊びに出かける事ができた。
「ミオは、食べられる物を持って行くことが大切です」
「旦那様・・・、わたくしが一番の子供のように注意するのをヤメて下さい。タクシンも真似をします」
「ハハハハ・・・、タクシンは、良く出来た子供です。私の心配を無くしてくれます。しかし、これから出かけるのは、あなたの為ですよ。日中は暑くて、また、倒れてはいけません。夕方からなら安心です」
ミオは、知っている。アイシンは、常に、ミオを気遣い、大切にしてくれている。
愛されるのは、きっと、このようで、彼は、愛情を注ぐと言う事を、ご自分のご両親から学び、自然に身についているのだろう。ヴァイオレット男爵も、いつも、優しくエレナミ夫人を見つめ、エレナミ夫人も、常に、笑顔を向けている。
「あなた、私も、絶対に、ご両親の様に、ずっとあなたの側に居たいです」
「ああ、僕も、今、同じことを考えていた。ずっと、このまま、君と一緒に年を取りたいとね」
夕方から、用意したお祭りの様なイベントは、町中の人々を巻き込み、大きな宴と変化し、トナカリ達は、夜になって、また、大きな花火を上げ、この夏の休暇を締めくくった。
皆の瞳には、一生、忘れられない光が写り、ぐずっていたミルク王女は、まん丸の笑顔で空を見上げ、ダルマルは、ミルク王女のその顔を嬉しそうに覗いていた。
アイシンは、いつもの様に、軽々とミオを抱き、少しでも高い位置で、花火が見れるようにしていた。その様子は、何年たっても変わらずに、アイシンは、ミオを抱き上げる事を止めることはなかった。
「母上は、子供以上に、子供です」




