美しき故郷
第48章
アイシン宰相は、揺れる船の中で、ミオとタクシンを抱きながら船の進行に注意を払っている。
「ミオ、大丈夫か?船なら、1日で、半分の距離を移動できる。だから、前回よりは、少し楽だ。しかし、その後は、2日は、馬車で走らなくてはならない」
「でも、今回は、ずっと、このように抱いて下さい。私は、タクシンと一緒で、あなたの腕の中が、一番好きです」
青い顔をしたミオを見つめ、アイシンは王都へ向かった時の事を考えていた。
あの時のミオの顔色は死人の様で、船酔いの今の顔の方がまたマシだと、
「ミオ、僕は、本当に川の整備を急ぎたいよ。一日でも早く、君が気軽に遠くへ行ける運河を作りたい。船の事はよくわからないが、やはり、人がもっと楽に旅が出来る事は、きっと、この国の為になる」
「旦那様、知っていますか?父は、外国に行った事があるみたいで、この国は、少し文化が遅れているみたいです」
「ああ、そうだろう。この国は、一度、破滅している。それからの復興に時間がかかり過ぎている。国を守る事だけで、今は、精一杯で、他国との交流を怠っている。その点は、本当に、残念だと心から思うよ」
「タクシンが大きくなった時には、私たちは、一緒に他国へ旅に出て行けるといいですね」
「ああ、その頃には、二人でのんびり過ごしたい」
「ええ、本当です。今は、お仕事が大変ですから、お体が心配です」
「ーーミオに心配されるとは・・、大丈夫、この夏休みで回復してみせるよ」
この頃、二人の心は一つになり、毎日が充実していて、ミオは心からアイシンと一生を過ごし、この国を去る決心をしていた。
「コメネルからもらった酔い止めを飲んで眠りなさい。大丈夫、目が覚めたら少し楽になっている。今回は、ずっと、側にいるよ」
相変わらず虚弱なミオは、眠ったままアイシンに抱かれ、ヴァイオレット家の用意していた馬車に乗り換えてそのままオリザナダ領へと、向かって走り始めた。
「タクシン、膝に乗るか?」
「お父様、僕は、そういうの、結構です。母上に、譲るようにジュリエールから言われています」
「でも、母上は、いつまでも君を、抱きしめていたいらしいから、その願いは、叶えてあげてくれ」
「父上、勿論、わかっています。我が家で一番大切なのは、母上です」
「しかし、この国で一番大切なのは、すでに、君だ」
「父上のはずです」
「イヤ、ジュリエールの期待は、君に移っている。よく学び、丈夫な体を作り、世の中の為になることを、いつも、考えて欲しい」
「父上、私はまだ、2歳です」
「ーーーそうだった。まだまだ子供だ。ダルマルとタクシンは、なぜか特別な子供に思えて仕方がない」
「ダルマル兄は、国には興味ありません。今は、船造りが一番の楽しみで、その前は、花火でした。その前は、薬草、石、美術品など、毎回、興味があるものが変わります」
「ああ。それでいい、子供の時は、色々な事に興味を持つことが大切だ」
「しかし、ジュリエールは、違います」
「彼女は、確かにそうだ、しかし、大人になってからジュリエールの教えは、きっと役に立つ」
「ーーーしかし、厳しいか?あまりにも辛かったら教えてくれ」
「確かに、厳しいです。でも、母上には、本当に優しく教えています。不思議です」
「うん、それは、やはり、この家は、ミオを中心に動いていると、流石のジュリエールでもわかっているのだろう・・」
アイシンとタクシンは、いつも眠っているミオの顔をみながら、話をする習慣がある。その習慣は、二人にとって大切なコミュニケーションで、二人とも、その時間を大切にしていた。
遂に、オリザナダ領に到着して、ミオは久しぶりにヴァイオレット家を丘の上から見た。
「ーーー旦那様、コレは、どうしたのでしょう?」
「ああ、凄い、このように変貌しているとは思わなかった。まるで、一つの町が、ここに引っ越してきたようだ」
流石のミオも、こんなに変わっているとは思っても見なかった。まるで、ヴァイオレット家を中心に城下町が発展していて、まるで異国のように発展している。
碁盤の目のように道が作られて、山には大きな風力発電の施設がある。たくさんの店も作られて、田畑の整備もされている。至る所に、水が沸き出ていて、暑い夏が涼しく感じられる。
道は、馬車の道と歩道が分けられて人々の安全が守られている。
「お父様、これは・・・」
「ああ、私の理想郷だ。この辺一帯は、すべてタクシン・ヴァイオレットの所有になっている。今度は、誰にも奪うことはできない。私とヴァイオレット男爵で、ミオとアイシン宰相の子供の名義にすることは、私がオリザナダ領を出るときに決めてきた」
「お義父様・・・」
「今は、まだ、ここまで川が来ていないが、ミオ達が気軽にここまで来れる様にする事が、今の、私の願いだ。タクシンが産まれて、直ぐに見せたかったが、2年もかかってしまった」
「この国は、まだまだ発展できるのに、権力争いで、そのキッカケが掴めない。その内、他国から攻められて、どうしようもなくなる。だが、いくら庶民のわたしがいくら言ってもダメだ」
「だから、形にして見せてみようと考えた。国王陛下をここに招くことはできないが、義理の息子のアイシン宰相を、我がタクシンの町にお招きできた事は、本当に意義があると思う」
「お義父様、なんと言っていいか、どうして、あなたの様な方が、なぜ、我が国の高層にいらっしゃらないのでしょう。ーーーー悲しくて、本当に泣けてきます。私より、貴方が、我が国には必要な方です。ありがとうございます」
アイシンは、赤い目をして、プラスムスに感謝していた。
「お爺様、僕は本当にあなたを尊敬します。世界一のお爺様です」
プラスムスは、愛しいタクシンを抱きしめる。
「タクシン、私もヴァイオレット男爵も、君が産まれてきてくれて、本当に感謝した。この町を作り始めてから、ずっと、君を待っていた。ミオは、体が弱く、心配もしたが、前に進むしか道は残っていなかった」
「僕は、絶対にお爺様たちを裏切りません。ホウライン兄と一緒に、お爺様の意思を必ず引き継いで、この町を大切にした行きたいです」
「うん。ありがとう、私は年を取っていく、ホウラインにいつまでも、寄り添うことが出来ない。その事だけが心配だ、こんな事を、孫に頼むのはお門違いだと、知っているか・・」
「ホウライン、来てごらん、この町は、儂が作った町だ。タクシンと共に、君たちに更に発展させて欲しい。できるか?」
ホウラインは、ダルマルを見て、
「父上、僕たちには、ダルマル兄が必要です。彼は、きっと、僕たちを助けてくれます」
「ああそうだ。ダルマルも必ず、必要になる。君たち3人が協力してくれたら、儂の夢はもっと大きくなる」
プラスムスは、その場にいる1番の年長者として、未来を託す子供たちと若者に道しるべを示した。
その事は、その場にいたミオの使用人達や、ヴァイオレット家の卓越した自警団の心にも響き、永遠に心に残った。
日が暮れ、丘の上から見た、町の灯りは明るく、このタクシンの町全体で、ミオたちの里帰りを歓迎している様に思えた。




