美しき故郷②
第49章
タクシンの町といっても、ヴァイオレット家の私有地を広げた町並みで、ヴァイオレット家は、ここに、広大な敷地を持っていて、唯、その敷地内に、たくさんの使用人を住まわせている設定になっている。
ミオは、目が覚めてから、ずっと、緊張している。
初めてヴァイオレット家を訪ねたのは、ミオではない。あれから色々経験しているとしても、ヴァイオレット男爵との面会は、緊張感を持っている。
「ミオ、着いたよ。僕たちの家だ」
沢山の森林に囲まれ、その道を抜けると、町が現れ、そこで暮らす市民たちは、夜遅い帰宅でも、アイシン宰相とミオ、プラスムス夫妻、そして子供たちを待っていた。
「アイシン宰相、奥様、プラスムス様・・・タクシン様、お帰りなさい。お待ちしてました」
彼らは住民であり、使用人。主人を迎える事は、当然の事だが、それにしても大勢の人々が、待っていてくれて事に、ミオ達は、本当に驚いていた。そして、見覚えのある屋敷を見る。
ヴァイオレット男爵は、本当に欲のない人なのだろう。この屋敷は、相変わらず変わっていない。
「お帰りなさい。疲れたでしょう。どうぞ、入って下さい」
「タクシン、お爺様とおばあ様にご挨拶して下さい」
「お爺様、おばあ様、タクシン・ヴァイオレットです。初めまして、よろしくお願いします」
「タクシン、よく来ました。ずっと、待ってました。ようやく会えました。ありがとう、良かったです。本当に会いたかったです」
タクシンは、流石にヴァイオレット男爵の前では、緊張しているのがわかる。
「タクシン、この町はどうだった?」
「はい、まだ、少ししか見ていませんが、今まで見た事もない町だと思います」
「うん、いい答えだ。ゆっくり、この町の様子を見て、人々がどのように生活して行くか、勉強するといい。タクシン、期待している」
「はい、お爺様」
「ミオさんも、ありがとう。良く頑張って、タクシンを産んでくれました」
「お父様、タクシンを連れて来るのが遅くなりました。一日でも早く、連れて来たかったのですが、私の体調がなかなか戻らなくて、本当にすいません」
「今回、訪ねてくれた事で十分だよ。君の体調が一番大切なのは、ここにいる人達は、全員知っている。だから、ここにいる間、なるべく沢山食べて、ゆっくり過ごして欲しい」
「お父様、ありがとうございます」
「疲れたでしょう。今日は、このままおやすみなさい」
「ありがとうございます」
「母上、相変わらず、この屋敷には、使用人はいないのですか?」
「ええ、しかし、通いで大勢の人が来てくれます。それに、夜は二人で過ごす事に慣れました」
「母上・・・・」
その夜は、旅の疲れで、ミオは少し熱を出したが、それでも昼過ぎには起き上がり、屋敷の皆を安心させた。
「お母様、本当に大丈夫ですか?」
「大丈夫、お爺様たちにご挨拶に伺いましょう」
ミオがタクシンに連れられて、見慣れたヴァイオレット家のサロンに姿を現した時に、エレナミ夫人は、近くにやって来て、ミオの手を取り、席に座らせてくれた。
「起きて来なくて良かったのに・・・。今、あなた達の屋敷に荷物を運び終わって、その後、迎えが来ます。さぁ、座って、食事は取れる?」
「はい、ありがとうございます。頂きます」
エレナミ夫人は、タクシンが産まれるまで、ミオの近くにいる事は出来ずに、安定期に入った頃には、帰省していたので、ミオが普通に食事をしているのを初めて見た。
「ミオさん、随分と食べられるようになったのね」
「はい、タクシンを産んでから授乳を始めてから。どんどん、お腹が空いてしまい、毎日、母乳を出す為には、食べなくてはならなくて・・・、本当に大変でした」
「そう、それは良かったです。では、タクシンに感謝しなくては、男爵といつもあなたの心配をしていました。息子の事よりも、お嫁さんの心配ばかりしていると、二人で笑っていたのよ」
「お母様・・・。申し訳ありません」
「娘を持つと、きっとこのように心配なのでしょうけど、娘には、いい婿がすでにいて、心配する事もないのですね?」
「はい、旦那様には、本当によくしていただいてます。私みたいな者を大切にして下さり、感謝しかありません」
「ミオさん、それは違う。わたくし達も、いつもあなたに感謝しています。でも、私達はすでに家族になって、互いを思いやるのは当然なの。だから、そのように言う事はしないで下さいね」
「はい、お母様・・」
タクシンは、ずっと側で、二人に寄り添い、
「お母様、食事をしたら、コメネルの薬を飲んで下さい。薬を飲んだのを見届けたら、僕は、少し外に出かけます」
「ホウラインとダルマルは、既にでかけているの?タクシンも一緒に出掛けていいのよ」
「ダメです。父上から頼まれました。母上が食事をして、薬を飲んで、ベットに入るまでは、外には出られません」
「・・・それは、随分、重要な任務を引き受けたのね?」
「はい、おばあ様」
「ハハハハハ・・・・」
ホウラインとダルマルは、タクシンを待たずに、新しい屋敷や街並みの見学を始めた。
ここは私邸内でどこに行っても安全ではあるが、一応、彼らには、大勢の自警団が付いている。
「ダルマル兄、どこに行くのですか?」
「うん、昨日の道は覚えている?」
「いいえ、覚えていないです。午後からはジュリエールの授業だから、予習しておこうと思って、そうしないと、彼女の質問には、答えられない」
「??????」
「ホウライン様は、この町に来てみてどうでしょうか?」
「うん、王都とは全然違うと思う」
「はい、きっと、今日、聞かれるのはこの町の事で、ジュリエール様は、既に、この町が計画されている時から関わっているに違いないので、彼女の頭の中には、この町のすべてが入っていると、思われます」
「そんなの、ズルいよ」
「ホウライン様、それは、教師として当然です。ズルいとは言えません。だから、僕たちは、この町を隅から隅まで、勉強しなくてはいけないのです。探検と思えば、楽しいでしょう」
「タクシンは、どうするの?」
「勿論、後で合流します。彼は、きっと、昨日の夜から自分の頭の中で、この町の地図を完成されているでしょう。後は、書き込むだけだと思います」
「僕の方がお兄さんだけど、どうしてもタクシンの方が、頭が良く感じる」
「ホウライン様、ジュリエールは、ついてこれない子供には、質問をしません。大丈夫です。彼女はあなたを認めています」
「・・・・だから、マロンには何も聞かないの?」
「ーーーーーー」
「でも、ミルク王女には、たまに聞いているよね?」
「ーーーーーー」
「この1ケ月で、この町のすべてを覚えて帰る事が、きっと、ジュリエールの狙いで、今後の僕たちには、確実に役に立つでしょう」
「でも、ダルマル兄は、何か違う事を研究したいのでしょう?」
「それは、まだ、見つかっていません。ここでしかない物を、探して行きたいです」
「うん、僕も、何かを見つけて帰りたい」
その後、タクシンと合流した3人は、昼食も食べずに、町を散策して、屋敷に戻って来たのは夕方になっていた。手には、珍しい虫を沢山捕まえて来ていて、ヴァイオレット男爵は、嬉しそうに3人を見ていた。
ヴァイオレット男爵が、あまりにも幸せそうなので、その日の授業は行われずに、明日からすべての学習が始まる事になった。
エレナミ夫人は、
「あなた、よろしいのですか?3人に武道の指導する事を、楽しみにしていたのに、大切な1日を逃してしまいました」
「ああ、アイシンには、厳しく接してきたが、孫は、まったく違うと確信したよ。実は、儂も、子供の頃は、良く虫を取って遊んだものだ。アイシンは、小さい時からジュリエール様によって、英才教育が施され、儂が教えるのは武道だけだったが、どうやらタクシンは、儂に似たらしい・・」




