タクシン・ヴァイオレット
第46章
その日の夜、アイシンは、ミオの小さい声を見逃さなかった。
「ミオ、ミオ、どうした?具合が悪いのか?」
「あなた・・・、なんだか、お腹が痛いように思えます」
「!!!!!! 落ち着いて、大丈夫だから、そのまま、ベットにいる事はできるか?」
「大丈夫です。まだ、朝にならないので、このまま、眠りましょう」
「いや、いや、少し待っててくれ、ジュリエール!! 」
ミオのお産が近づいて来て、フィージアとジュリエールは、廊下で、夜勤をしていた。
ジュリエールは高齢の為、アイシンは、何度も、断ったが、頑なに、夜勤を申し出ていた。
廊下のフィージアは、アイシンの呼ぶ声で、目を覚まし、裸足のまま、ジュリエールの部屋に向かい、フィージアの急いでいる足音を聞いた、使用人は、全員、起きて、すぐに、二人の寝室に向かって行った。
「ジュリエール様! 旦那様がお呼びです」
ジュリエールは、既に、起き上がり、髪も結ってあり、メイド服も着用して、準備万端でフィージアと共に、寝室にやって来た。ミオは、そのまま、眠りについたり、苦しそうな表情を表したりして、ジュリエールは、お産が始まった事を確信して、しばらくは、様子を見る事にした。
「旦那様、パンネルが来ました」
「どうやら、始まったみたいです。準備はよろしいでしょうか?」
「はい、産室の準備は、整っています」
ミオは、夜が明けると、本格的に痛み出し、ヴァイオレット家の人たちは、緊張に包まれた。
「お産までの時間が長いと、母体にもお子様にも負担がかかります。ミオ様は、お若いので、少し、寝室を歩いてみましょう」
ジュリエールに言われるまま、激痛の中、泣きながら歩いたり、休んだりして、ミール夫人は、落ち着いた時には、少しでも食べられる物を用意して、ミオを支えた。
そんな様子を、アイシンは見て、心配そうにウロウロしていた。
「お義父様、ミオは、大丈夫でしょうか?何かあったら・・・、」
「アイシン宰相、あなたが戦場に向かわれてた時に、ジュリエール様は、この屋敷の全員に、泣く事を禁止しました。縁起が悪く、あなたの為にならないと、だから、誰も泣きませんでした」
「あんなに弱々しいミオでさえ、人前では、気丈に振る舞い、ベットに入ってから泣いていたのでしょう。だから、私たちもミオを信じて待つしかないのです。大丈夫です。何か月も、私たちは準備しました。絶対に、元気な子供が誕生します」
アイシンは、ミオがこの数か月、どんなに心細かったかと思うと、心が潰れそうに後悔していた。
「お義父様、僕もミオを信じて、屋敷のみんなも信じます。大丈夫です。我が子は、立派に産まれる事を信じます」
数時間後に、産室に移されたミオは、夜中に、立派な男の子を出産した。
「旦那様、産まれました。元気な男の子です。おめでとうございます」
「おおおお! 産まれたか! 男の子。そうか・・そうか・・・、男の子か・・、男の子が産まれた」
クタクタになったジュリエールは、宝物を抱くように、真っ赤な赤ん坊を、アイシンの懐に置き、抱かせる。
「坊ちゃん、ご立派な後継ぎが、産まれました。おめでとうございます」
「ジュリエール、ご苦労様です。本当に、ありがとうございます。今まですべて僕にしてくれた事、すべてを、本当に感謝しています。ありがとう。これからも、きっと、迷惑をかけるだろうけど、なるべくなら、このまま、ミオや息子を助けて欲しい。勿論、ジュリエールの体が一番大切だが、今は、まだまだ、あなたに頼るしかない。すまない」
「坊ちゃん、私は、先王が、残されたこの国を守る事が、私の残された人生のすべてです。エレナミ様を守り、坊ちゃんを守り、この子を守る事が、この国を守る事になります。だから、この子が産まれて、この国が永遠に繁栄する未来に、感謝しかありません」
「本当にありがとうございました。坊ちゃんは、素晴らしい奥様を娶り、素晴らしい跡取りが誕生しました。こんなに嬉しい事は、本当にありません。ーーありがとう・・・・ございます」
「ジュリエール・・・」
アイシンと生まれたての跡継ぎ、ジュリエールは、泣きながら抱き合い、喜びを嚙みしめていた。
その時、トナカリ、ロック、ガムシャは、クミン国から持ち帰った花火を盛大に上げた。
ラミベース国では、花火を上げる習慣はあまりなく、モクカツ国の建国の記念に打ち上げたのを見て、3人は、興味を持ち、この日の為に、持ち帰る事にした。
ミオは、薄れゆく意識の中で、美しい花火を見て、お産が終わって、我が子が産まれた事を実感して、眠りについた。
次の日、王都の街は、大騒ぎになって、王宮には問い合わせが溢れた。
「国王陛下、昨日の夜の騒ぎは、何なのでしょうか?素晴らしく美しい物でしたが・・・?」
「ええ、ヴァイオレット邸の方角で上がっていました」
「ああ、どうやら、ヴァイオレット家では、嫡男が誕生したそうだ。お祝いの為に、花火と言う物をあげたらしい。クミン国からの贈り物と聞いている・・・」
「そうですか?遂に、アイシン宰相にも、嫡男が・・・、それは、本当にめでたいですね」
「ああ、私もそう思うよ。この国に沢山の子供が溢れ、国が繁栄して行くことが、私の願いだ」
次の日には、職人たちにも誕生が知らされ、大騒ぎになりそうだったが、既に、ジュリエールの顔が浮かび、今日からしばらくは、静かにすることが最重要だと理解して、畑仕事は、女性だけで行い、子供と男性は、外の長屋建設に向かい、とにかく、ヴァイオレット家の静寂を保つ事を、最大の目標において行動を始めた。
ジュリエールの教室は、しばらく、お休みになり、その趣旨は、王宮のミルク王女にも届けれた。
「ミオ様、赤ちゃんがお生まれになったのですか?」
「ええ、だから、1ケ月位、教室の講義は、お休みになります」
「ーーーダルマルを呼びますか?」
「いいえ、教室の講義が再開するまで、待ちます」
ユーリア王妃は、ミルク王女の返答が、あまりにも正しく、数回のジュリエールの講義の成果を感じた。
「お母様、どうしたのですか?」
「いいえ、また、講義が、再開されるのを、待ちましょう。ヴァイオレット家のご嫡男誕生のプレゼントは何がいいか?二人で考えましょうか?」
「はい、お母様」
アイシン・ヴァイオレット宰相の嫡男は、オリザナダ領の祖父によって、タクシン・ヴァイオレットと名前が付けられた。
タクシンの誕生は、すぐに、オリザナダ領の両親にも伝えられたが、ヴァイオレットの両親は、すぐにオリザナダ領を出発する事はなく、もう少し、タクシンが、大きくなった時に帰省する事を、望んだ。
「お父様たちに、タクシンを会わせる事が、出来ないのが、残念です」
「うん、父上たちにも、都合があるのだろう。タクシンが1、2歳くらいになったら、一度、あちらに戻ろう」
「ええ、王都に出てから、一度も、戻っていません。オリザナダ領が、懐かしいです」
「奥様、お乳の時間です」
ミオは、痩せているが、お乳は豊富に出て、ミール夫人もジュリエールも喜んだ。
「奥様、タクシン様に、お乳を与える為に、今まで以上にお食事を召し上がって下さい」
「え・・・、今も、結構、食べていますけど・・・。これ以上ですか?」
「はい、せめてダルマルくらいは、召し上がって頂かないければ、タクシン様は、お辛いでしょう・・・」
「ーーーーーー」
(授乳が終わったら、今度は、厳しいダイエットなのかしら・・・?不安だ・・・・。)




