ミルク王女
第45章
宰相に就任してから、ヴァイオレット家の事務仕事は、ミルク王女のメイドが、毎日のように、出勤して来て、何とか終了した。その頃には、御殿の様な教室も完成して、今日は、ミルク王女が、初めてヴァイオレット家の教室に登校する事になった。
いつもの門では、ジュリエール、ダルマル、フィージアが、王女の到着を待っていた。
「いらっしゃいました」
実は、ミルク王女の外出は、多くない。
この国には、貴族学校と言う制度がなく、貴族たちは、家庭教師を呼び、子供たちに教育をしている。
今回、ミルク王女が特別に、ヴァイオレット家の教室に呼ばれた事は、王都の貴族の中では、トレンドを1位を獲得している。
この時、すでに、招きたい教師、No.1は、ジュリエールだった。
「ミルク王女、ようこそ、ヴァイオレット邸へ」
「今日は、よろしくお願いします」
ジュリエールは、ミルク王女のメイドと後ろの警護の人間を確認して、教室まで案内する。
「素晴らしい、教室ですね。それに沢山の子供たちが居ます」
「はい、今日は特別です。こちらは、プラスムス様のご子息のホウライン様で、こちらは、ダルマルの妹のマロンです。後は、職人たちの子供が、全員揃いミルク王女にご挨拶をさせて頂きます」
「こちらの5人は王都門の外で、テュテュルールと言うお店を、手伝っている5人です。彼らも今日は、お店を休み、授業に参加します」
「下は、1歳児から15歳までが学んでいます。最高年齢の彼は、もうすく卒業して、テュテュルールの経営を任せるつもりです」
子供達は、一斉に、ジュリエールの教えを守り、正式な挨拶をミルク王女にした。
その様子に、ミルク王女一行は、ジュリエールの厳しさを肌で感じ、身震いがした。
「それでは、皆さんも、ご挨拶が終わりましたら、授業に入りましょう」
この時、朝の8時、子供たちは、眠い目を擦りながらも、文句ひとつ言わずに、ジュリエールの経済学を聞いていた。ジュリエールは、必ず、国に必要な事を、最初に教える。
その話は、難しく、きっと、聞いてもわからないかも知れないが、彼らには、ここにしか居場所はなく、ここでしか、昼食が食べられない。子供心に、両親には迷惑をかけられない事の自覚があり、誰も、話さず、真剣に授業を聞く。
1時間が過ぎると、トイレ休憩があり、お茶なども飲めるが、絶対に、遅刻は出来ない。
次には、ダンスのレッスン、次は語学、手習いは、ミルク王女のメイドも指導に入る。
お昼前には、武道の練習が始まり、ミオの使用人によって、厳しい訓練が行われ、当然の事だが、ミルク王女もメイドも、ダルマル兄弟もフィージアさえも、この訓練には参加する。
昼食は、クラン達が、子供達の為に、畑で取れたものや、ヴァイオレット家で処理できない高級食材などが、使われていて、給食と言う形で振る舞われる。給仕は、自分たちで、当然の様にテーブルマナーもすでに指導済みで、大人しく全員が食事を取り、それでも、食後は、ニコニコしながら片し、食器の拭き方や洗い方、並べ方まで、ジュリエールの教えを守り、規則正しく、生活している。
「王女様、ご気分が優れない時は、自室でお食事ができますが・・・」
「いいえ・・・、ここの子供達の凄さに感心しています」
「ええ、わたくし達も、彼らの精神力の高さに驚いています」
「彼らは、午後も、このような授業を受けるのでしょうか?」
「小さい子供たちは、流石に、お昼寝に入ります。年上の男の子たちは、ミオ様の使用人たちに会計や財務などを習い、ダルマルは、今、薬草に興味があるので、常に、パンネルさん達について回っています。午後は、それぞれの興味がある事をして、過ごしている様です」
「今日の午後は、池の近くにあるテントの中で、ジュリエール様よりお話がありますが、王女は、行かれますか?」
「ええ、もちろんです」
ミルク王女は、まるで別世界を体験している様だと感じている。
「ミルク王女、僕が、ご案内いたします」と、やっと、ダルマルがミルク王女に話しかける。
ミルク王女は、微笑み、ダルマルに手を伸ばし、ダルマルは、ミルク王女をエスコートしながら、池に向かった。
「こちらが、僕が作った池です」
「スゴイ、綺麗です。スゴイ、本当にすごい、石を一つ、一つ、本当に並べたの?」
「はい、そうです」
「ジュリエール様が、お見えになりました」
「ミルク王女、如何でしたが?お疲れになりましたら、どうぞ、お休みください」
「ありがとう、大丈夫です」
ミオが、大きなお腹を抱えて、ミルク王女の所まで、挨拶にやって来る。
「ようこそ、おいで下さいました。ミルク王女のご訪問を名誉に思います」
「こちらこそ、お誘い下さりありがとうございます」
「今日は、初めての授業でお疲れでしょう。本来ならわたくしもご一緒したいのですが、今は、このような状態なので、申し訳ございません」
「宰相夫人も、授業を受ける事があるのですか?」
「はい、あの教室の最初の生徒は、わたくしとフィージアが最初の生徒でした」
「それから、ダルマルや子供達が加わり、テュテュルールの子供達、それからホウラインが、参加しています。武道や会計など、どんどん学ぶことが多くなりました」
「ダルマルの様に、芸術も学ぶのですか?」
「それは、わたくしの為の授業を、ダルマルが正確に覚えたのでしょう。わたくしよりも彼は、優秀です」
ミルク王女は、色々な事に興味を持ち、お茶を頂く事も忘れるほどに、楽しそうにミオと話をしていた。
「奥様、もうそろそろ、お部屋にお戻りください」
ミオは、席を立つ事をミルク王女に謝り、屋敷内に戻って行った。
「ミオ様は、もうすぐ赤ちゃんが生まれるですね」
「はい、そうです。ご出産があった場合は、しばらく教室はお休みになる事もあります。子供たちは、常にあの教室にいますが、わたくしが授業を出来ない時などは、ずっと、彼らで遊んでいます」
「遊んでいるのですか?」
「そうですよ。子供は遊ぶ事も必要です。しかし、王女様が授業に来る場合は、なるべく、わたくしが、授業をしたいと、考えています」
「今日は、午後、ダルマルと一緒にいる事は可能ですか?」
「はい、可能です。ダルマルは、予定がありますか?」
「はい、午後は、コメネルさんの調剤室に、行く予定です」
「では、ミルク王女も、連れて行ってあげて下さい」
「はい」
午後は、ダルマルと一緒に、コメネルの薬草を育てている部屋に、ジュリエールとミルク王女一行は、向かった。
そこでは、ジュリエールから、薬草の説明が、詳しくあり、ダルマルとマロン、ミルク王女は、真剣に聞いていた。それから、少し歩いて、道端の草や木の説明があり、生息している鳥や虫などもジュリエールは説明してくれた。
ミルク王女は、本当に楽しくて、色々な事に興味を持ち、興味を持った事柄に、迅速に説明してくれるジュリエールの事を、本当に好きになった。
その事を、国王陛下や王妃に、話していると、二人は、本当に嬉しそうな顔をして、ミルク王女を見ていた。ミルク王女は、その時の二人の顔を、大人になってからも、忘れる事が出来ない程、印象に残っていた。
「お父様もお母様も、本当に嬉しそうなのに、悲しいお顔をしていました。ーーどうしたのでしょう」
教室が完成して、数回、ミルク王女が登校された2週間後に、ミオのお産が始まった。




