アイシン宰相
第44章
ジュリエールは、アイシン男爵が、宰相に任命されることを、事前に知っていたに違いない。
「奥様、トナカリから、アイシン男爵様が、宰相に任命されました。男爵様のご出世、おめでとうございます」
トハルト家令は、直立不動で、サロンでくつろいでいる皆の前で大声で、発表した。
「おおおおお~~~~」・・・それ以外の言葉を誰も発していない。
ホウラインが、
「宰相って、何?出世・・・?って、何?」
「アイシン男爵様は、これからアイシン宰相って、呼ばれます。物凄く出世しました。だから、今日は、お祝いです」
「ヤッター! 船に乗れる?」
「ーーー乗れます」
「おおおおお~~! 」
ミール夫人とホウラインが、外に出て行き、ミオとプラスムスは、その場に残った。
「本当に、男爵は、承知したのか?」
「どうでしょうか?しかし、議会でも承認され、旦那様も承諾したのでしょう・・。でも、ジュリエールは、教室の事で、今は、忙しいでしょうけど・・・・?」
「彼女は、既に、知っていたのでしょう。本当にすごい人です。この国は、彼女が動かしているとしか、思えません。だから、わたくし達は、今、お腹の子供の為に、全面的に、彼女に頼る事しか出来ません」
夜、アイシン宰相は、帰宅した。屋敷内には、積み上げられた贈り物が並び、今日一日のヴァイオレット家の凄さを物語っていた。
「これは・・・・」
トハルト家令は、少し困惑した顔でたずねる。
「はい、旦那様、こちらの贈り物は、如何なさいますか?」
「ジュリエール様がおっしゃるには、目録を作り、お礼のお手紙を作成して、返礼品を差し上げる。しかし、サインだけは、旦那様ご自身でお願いしますと、申されていました。今、奥様が、大変な時ですので、すべての事は、わたくし達で、対処いたします」
「ああ、本当に、すまない。今、新たな人手を増やすことが出来ない。いつも、君たちにはすまないと、思っている」
「ミオは?大丈夫なのか?」
「はい、大丈夫です。最初は、ご興味をお持ちになって、贈り物等を一緒に見ていましたが、お疲れになったご様子だったので、今は、お休みになっています」
「私にできる事は、すべて私が引き受ける。ミオには、元気な子供を産む事だけを考えて欲しい」
「はい、大丈夫です。ジュリエール様には、何か作戦があるようですから、すべて、彼女に任せましょう」
「・・・・・・」
数日後、ジュリエールの所に、王宮のメイド長が、ミルク王女がお越しになる為の準備で、数人のメイドを連れ、訪ねて来た。
「久しぶりです。メイド長、今日は、ミルク王女の為の視察ですか?」
「はい、それもありますが、今回、ミルク王女に同行するメイドを連れて来ました」
ジュリエールは、同行のメイド3人を見る。
「では、先ず、施設内をご案内します。わたくしが、案内役です。彼女たちの立ち位置は、イイイーサン、わかりますか?」
「はい、大丈夫です。教えてあります」
「では、行きましょう」
教室に到着して、メイド長と、3人のメイドは、びっくりしていた。
「・・・・素晴らしい、内装です。絵画、美術品、生け花、すべてが揃っています」
「王女の部屋は、こちらです。メイド達の控え室は、こちらになります」
「わたくしの授業に参加する意味を、彼女たちに教えてありますか?」
「はい、勿論です」
「それならいいですが、ミルク王女の為に、新しい家具を購入する予定ですが、今まで通りの家具屋を使用していますか?」
「はい、しかし、最近は、王宮では、新規に家具を購入する事はなくて・・・・」
「では、最後に購入した日にちと、銘柄を教えてください」
メイド長は、少し泣きながら、
「申し訳ございません。こちらにお訪ねする前に、色々な事を勉強してきましたが、答える事が出来ません」
「ええ、大丈夫です。それでは、あなたに、ミルク王女の意見を聞き、家具の購入すべてを任せます。出来ますか?」
「はい、勿論です」
「彼女たちは、どのようにしますか?」
「はい、国王陛下より、ミルク王女と共に、彼女たちも一緒にと、申しつけられています」
「今日は、見学だけでよろしいのでしょうか?」
「はい、今日から、毎日、ヴァイオレット邸に通い、ジュリエール様の指導を受ける様に、命じられています」
「ーーー字は、綺麗かしら?」
「はい、彼女たち以上の人はいません」
「そう、では、今、アイシン様は、宰相になられてお忙しい身です。ヴァイオレット家の使用人では、追いつきません、これも勉強だと思って、4人とも頑張って下さい」
「4人・・・・?」
「あら?イイイーサンは、王宮に戻る予定なのかしら?」
「いいえ、勿論、お手伝いいたします」
「フィージア、こちらに・・・。フィージアです。彼女には、この2年、つきっきりで指導しました。まだ、至らない所は沢山あります。王宮の習わしなども、指導したつもりですが、未経験な事も多いでしょう。その為、ミルク王女に失礼な事をする恐れもあります。彼女も一緒に、あなた達と一緒に仕事をさせて下さい」
メイド長は、ジュリエールの縮小版のようなフィージアを見て、ため息をついた。
(・・・このような小さなスパイを、押し付けるなんて・・・。)
「はい、フィージア、わたくし達と一緒に、働きましょう」
フィージアは、姿勢を維持したまま丁寧に、
「イイイーサンメイド長、皆様、ご指導、よろしく、お願いいたします」と、頭をさげた。
「ーーーーーー」(サイボーグ?)
王宮の国王陛下の部屋では、アイシン宰相と、トプステイン家の跡地について話し合いが持たれていた。
「トプステイン家の跡地について、アイシン宰相の意見はあるか?」
「先人の教えの通り、今度こそ、多くの死者を祭るモニュメントの様な物を建設するのは、どうでしょうか?」
「ーーーーーー」
「今回の出陣にあたり、多くの貴族たちが、亡くなりました。残された家族にとっても、その方がよろしいのではないでしょうか?」
国王陛下は、ため息をついた。
「・・どうして、君は、私の息子ではないのだろうか・・・?ふぅ・・、私もジュリエールも、息子たちには、先人の教えを説いてきた。しかし、彼らには、どうやってもそれが届かない」
「ナツ皇子が、離宮を建てたいと、申し出て来た」
「え?・・しかし・・」
「今回の、モクカツ国の建国にあたり、私が後ろから出助けした事を知っていて、自分も王宮から独立して、あの地に屋敷を構えたいと、申し出て来た」
「皇子達は知らないのでしょうか?あの地は、呪われた地で、あの地に心を奪われた者は、この国を滅ぼし、命も消えると、祖父は、言い残しました」
「教えていない。知っているのは、私と王妃、ジュリエールと君だけだ。エレナミ叔母も知らない」
「どうして、そのように・・?」
「ジュリエールが、小さい皇子達に興味を示さなかった後、保険の為に、知らせていないのだ」
「王妃様は、今、ーーどのようでしょうか?」
「泣いていたよ。しかし、彼女は、随分前から、覚悟は出来ている。本当に、素晴らしい女性だ」
「ジュリエールは、既に、君の屋敷に、ミルク王女のメイドを集めて教育を始めた。それが、王妃にとっては、救いになるだろう。3人の皇子を大切に思っているのも事実だが、どうしても、歴史は繰り返される。悲しい事だ」
「国王陛下・・・」




