王都での買い物。
第4章
今日は初めての夜。
ミオはこれまで、どの世界に行っても夫は存在していない。王妃、王女、皇后等、すべて身分のある立場だったが、旦那様はいなかった。だから・・・今晩は、人生初めての初夜だ。
周りは意識して、気にしているのか、それとも、アイシン男爵が昨晩から寝ていないからか、又は、食堂がまだ出来ていないからか?夕食は寝室で食べる事になった。使用人の中には料理人もいる。
彼が作ったのかはわからないが、すべてミオが好きな物で、彩りも美しく、お酒もある。電気工事は明日になるのか不明だが、灯りはロウソクだけで、ロマンチックと言える。
食事中は会話をしていない。アイシン男爵は、ミオが食べる物を見ている。
「野菜は、食べられるようになったの?」
「ーーはい、3日も断食したので、今は何を食べても美味しいです」
「よかった。これからは体に気をつけて暮らして下さい。ご両親もとても心配していました」
「あのーー、旦那様は、この後、お風呂に入りますか?」
「ああ、流石に汚いからね。入りたいと思っている」
「・・・・・・」
食事が終わり、フィージアが片付けに来る。
窓を全開にあけて、深呼吸をして、アイシン男爵が出てくるのを待つ。アイシン男爵の入浴時間は物凄く早く、10分程度で終わり、心の中では、頭も体も3回位は洗って欲しかったと思ったが、その後、ミオも入浴をして、優しい香りを身にまとい、出てくると・・・。男爵はグッスリ眠っていた。
「それは、そうだ。長旅の後の徹夜の肉体労働・・・そうだね・・・・・・そうだ・・・・・憎らしい」
ミオは、少し憎たらしいと思いながら、もう一度、窓を全開にして冷たい風を入れる。
男爵が、布団の中に潜る仕草をしたのを見て、少し気持ちを落ち着かせ、アイマスクをして、一緒のベットでゆっくりと眠った。
次の朝、目を覚ました時には、すでにアイシン男爵の姿はなく、ただじっとフィージアが立っていた。
「おはようございます。奥様」
「おはよう。入浴は出来る?」
「はい、ご用意してあります」
ミオは、また、パッパッパっと、ネグリジェを脱ぎ、入浴をして、フィージアに頭を洗ってもらった。髪を整え、フィージアがすでに用意しているお茶を飲んでいると、トハルトがやって来た。
「おはようございます。奥様」
「ん?ーー今日は、皆さん、奥様なの?」
「はい、昨日、男爵に注意され、結婚なさったので、奥様とお呼びします」
ミオは、お茶を飲みながら、頷いた。
「アイシン男爵はどちらにお出でですか?」
「はい、昨日と同じように引き続き屋敷の中をすべて点検しています」
「そう、では、今日、わたくしは、買い物に行きたいのですが・・」
「はい、手配いたします。馬車は1台でよろしいでしょうか?」
「そうね・・2台、必要かしら?」
「かしこまりました」
朝食後に、出かける服装で、アイシン男爵を探し、
「旦那様、新生活に必要な物を買いに出かけてきます。使用人を5人程連れて行きます。よろしいですか?」
その場の職人たちは、これ以上、何が必要なのかと言う顔で、ミオを見て、そして、目をそらせた。
ミオの顔を見て、
「私も同行しよう」とアイシン男爵は話し、手と顔を洗い、上着を着替えただけで、ミオと一緒にミオの馬車に乗り込み、もう一台の馬車にはフィージア達が乗り、王都の高級店が並ぶ街に出かけて行った。
使用人二人には、フィージアの物、男爵の物を購入する事を命じ、ミオは気軽にお店を周り、すぐに使う商品を購入して行く。
次に入ったお店の店主が、「貴族様は、後で集金に参ります」と話し、ミオは、
「そう」と答える。
その後、トハルトは、店主と話し合い。内金を入れ、ヴァイオレット家の場所を教える。
そうすると、店員は50%の内金を要求して来たので、もう一度現金を渡す。
そのお店は、宝石と貴金属の高級店で、店内はミオと男爵一行と、もう一組貴族であろう一行が、優雅にお茶を飲みながら接客を受けている。
「ああ・・、彼女、見るからに悪役令嬢みたいだ」
「貧乏貴族は、大変ね。信用が無いと宝石も買えないみたいで・・・」と話している。
前のミオは、長い人生で一度も貧乏と言われた事がなく。顔つきが変わって行くのが、その場のすべての人には感じ取れた。
男爵が、すかさず、
「ミオ、この髪飾りをプレゼントするよ。僕たちは新婚で何か記念になる物を送りたかった。この髪飾りは君に似合うと思うけど?どうかな?」
アイシン男爵は、その高級な髪飾りをミオの髪につけ、鏡を見せて、手にキスをする。
その光景は、美男美女の幸せそうなカップルが記念品を選んでいる絵になって、輝いていた。
ミオは、アイシン男爵の意図をくみ取り、
「それでは、わたくしはご主人さまに、懐中時計をプレゼントします。そうだ、屋敷には時計が必要です。このお店のすべての掛け時計を購入しましょう」
男爵は、笑顔を保ちながら、
「全部は必要かね?トハルト?」と質問する。
トハルトは、こちらに投げないで下さいと言う振りも見ぜずに、
「一番、大きいサロン広場には、特注で注文された方がいいかと思われます」
ミオも、
「そうね。あの柱時計は、少し小さいわね。それでは、掛け時計も、屋敷が完成してから、相談して決めて下さい。今は、このケースすべてを頂いて、帰りましょう」
「はい、奥様」
その宝石店の空気は止まっているかのようで、ミオが足が痛い素振りをすると、カダイのいい使用人達は、ミオ専用の椅子を用意して、そこで、立って警護している。
やっと、時間が動き、ミオが、
「次のお店に行きましょう」と話しだすと、一斉に息を吐きだし、店を後にした。
その後、ミオの使用人は現金の山を積み上げ、支払いをして、後日、時計の事を、相談に来るようにと、店主に告げ、素早くミオの後をついて行った。
その場に残った貴族一行は、ただミオたちを見送るしかなくて、その公爵令嬢は、直ちに、あの素敵な貴族の身元を調べさせた。
「お嬢様、どうやら今回、オリザナダ領から王宮に呼ばれたアイシン・ヴァイオレット男爵のようです。お住まいは、王宮から一番遠い廃墟のような屋敷を、与えられています」
「男爵なの?田舎の男爵って、ひとケースの宝石を買える程のお金持ちでいらっしゃるの?それに、お優しくて、なんて素敵なお方でしょう?」
側にいる使用人は、
「今回、国王陛下の元、多くの青年貴族が王都に呼ばれています。それは隣国との争いが激しくなると予想して、国力を上げる為に、優秀な地方青年貴族が選ばれたと聞いています」
「あの方・・、戦争に行かされるの?」
「いいえ、本当の戦争になる可能性は低く、軍事力を高める意味で、呼ばれたと聞いています」
側のメイドが
「でも、あの男爵・・、随分浪費家の奥様をお持ちで、これからが大変ですね」
「おまけに、奥様のわがままにも耐え忍んでいらして、人望もおありです」
(うちのお嬢様の、非道な行いでも耐えられそうな人材だ! )
その後、ミオは、高級菓子店で、お菓子を買い占め、疲れたのか、馬車に乗って帰ると言い出した。
馬車の中で、
「ミオ、このように買い物をすることは、いい行いではない」
「旦那様、宝石店で、どれだけお買い物ができるかで、今後の生活は大きく変化します。あのお店にいたご令嬢は、多分、身分の高い、公爵か伯爵令嬢でしょう。きっと、今頃、わたくし達の事を調べています。そこから、どんどん、噂話が大きくなって、5日後にご登庁される時には、殆んどの人がヴァイオレット家のアイシン男爵を知っています。宣伝料としては安いものです」
アイシン男爵は、王都に来てからのミオの変化について行けていない。いつも不思議そうな顔をして、ミオを見ている。
(はい、はい、男爵、別人ですから、そろそろ慣れて下さいね。)




