屋敷の惨状。
第3章
夕方、王都に入り、そこからラミベース国が用意してくれた屋敷に向かい、結局、その屋敷に到着したのは、夜の9時ごろになってしまった。
「かび臭くて・・、灯りもありませんね」一同の感想。
「これは酷いな・・・、ミオはどうする?馬車でもう一泊するか?」
「はい、本当はお風呂に入りたいと思っていましたが・・・、馬車に戻ります。旦那様はどうなさいますか?」
「私はこの屋敷を点検して、それから休むようにするよ。一人か二人、君の使用人を貸してもらえるか?」
「どうそ、彼らは、私達二人に仕える様に父から言われています。・・でも、父への報告は欠かさない人間だと思って下さい」
「うん、それは、わかっている。この家の惨状は、直ぐに、あの遠いオリザナダ領に届く事は知っているよ」
「そんなに酷いのですか?」
「想像以上だ」
「ふふふふ・・楽しみです。おやすみなさい」
アイシン男爵は、振り返りもしないミオの後ろ姿を見て、また少し微笑んでいた。
ミオは、フカフカの馬車の寝台に戻り、体力を回復する為にアイマスクを着け、ぐっすり眠った。
翌朝、使用人たちの働く音で目が覚め、髪を結い、身支度を整え、完璧な姿で馬車を降りると、庭園らしき場所には、すでにミオの為にテーブルと椅子が用意されていた。連れてきた女の子が、震えながらお茶を運んできた。
ミオは何も話さずに、そのお茶を手に取り、一口飲む。
「お茶は淹れたことがある?」
その子は頷く。
「そう、このお茶は後1分くらい長く浸してから淹れてくれる?」
また、頷く、
「それと、お風呂の用意をして」
すると、使用人の中では、父・プラスムスが一番信用しているトハルトが側に立ち答える。
「浴室は使える状態ではありません」
「???、浴室は1つしかないの?」
「いいえ、各部屋に、ありますが、どの部屋も使えません。この屋敷は土地はそれなりに広いですが、長年、空き家だった為に、すべて酷く傷んでいます」
「そう・・・」
「ーーーねぇ、エンは、生きていると思う?」
「え??」
「ううん、いいの、途中で行方不明になるなんて、おかしいと思わない?エンは、ずっと側に居てくれたのに・・・誰か知っている人間はいないの?」
「お嬢様は、結婚式の後から、具合が悪くなって、プラスムス様は、出発されるのを物凄く反対してました。でも、どうしてもと、お嬢様は、アイシン男爵と一緒に王都に向かわれると言い張って、その為に、プラスムス様は、特別高価な薬と珍しい果物を、エンに渡していました」
「そう、そこまでは、わたくしも覚えています。しかし、その後、3日も目が覚めませんでした。彼女・・私が死んだと思って、居なくなったのではないでしょうか?」
「実際、私たちも・・エンがいなくなる前まで、お嬢様の馬車を訪ねる事が出来ませんでした。突然、エンがいなくなり、仕方なくアイシン男爵に、お願いして、馬車を開けてもらいました」
「何か事件に巻き込まれたかも知れません。この事はお父様には報告したの?」
「はい、直ちに連絡しましたが、返事はまだ来ていません」
「そう、わかりました。調査結果を待ちましょう。あの食堂の件も頼みます。それと、浴室を昼までに何とかして下さい。どうにも汗臭くてたまらないわ」
「はい、全力で対処いたします」トハルトは深々と頭を下げた。
朝早くから?いいえ、昨日の晩からきっと彼らは動いていたに違いない。ミオが起きたら直ぐに騒ぎ出す事を、知っていたように、午前中には100人以上の職人たちが集められ、王都のヴァイオレット家の屋敷の改修が行われた。
その間、ミオと言えば、爪を磨いたり、足湯に入ったり、居眠りしたりして過ごしていた。
「お嬢様、お二人の寝室の浴槽が使える様になりました」
「そう?ご苦労様」
「それから、寝室の家具のことですが・・・」
「そうね・・・白系かベージュ系で一番いい物を運び入れて下さい。それから、この屋敷の全ても・・」
「一番いい物ですね」
「ええ、お願いします」
「はい、わかりました」
「でも、色は・・・白、茶、ベージュ、金等でお願いします。それと、あの子、呼んでくれる?」
「それから、お庭の方も手配して」
「はい、午後には、50人程で整備に当たらせます」
「そう・・・その前に、わたくしの荷物を寝室に運んでください」
「はい、今、取り掛かります」
「旦那様は、何をなさっていますか?」
「昨晩からずっと指示を出し、ご自分も修理工事に参加なさっています」
「・・・・ご自分も?」
「はい」
「変わった方ね・・・」
「・・・・・・」
それから、トハルトは、笛を吹き、残りの9人を一瞬で集め、彼らは、急いでミオの荷物を運び始めた。途中でテキパキと現場監督のように、指示を出しているアイシン男爵を見かけたが、そのまま寝室に向かい、一番小さい荷物を解き、浴室に入った。
寝室の中で、ただ一人女の子が黙ったまま立っていた。
「名前はある?」
「フィージアと言います」
「それでは、本来なら先輩とかが仕事を教えてくれるけど、その先輩がいないので、わたくしが教えます。これから入浴するから一緒に来て」
ミオは服をパッパッパと脱ぎ、浴槽に入った。ボディーソープのような物があり、シャンプーもあり、美容関係の物はなんでも揃っていた。
(流石! 金持ち! )
「体は自分で洗うから、髪だけ洗ってくれる?」
「は、はい・・・」
髪を洗うその手が、あまりにも小さいので、
「幾つ?」
「12です」
「ご両親は亡くなったの?」
「はい」
「ご兄弟は?」
「ーーーーーいません」
「これから、どうする?ここにいる?私があなたの両親と兄弟の事を聞いたのは、あなたが守りたい人がいる場合、必ず、わたくしを裏切って、毒を盛ったり、情報を流したりするからです。ここに居たいのなら、自分の中のすべてを、捨てる覚悟がないと、最後に、あなたが殺されるかもしれない、わかる?あの店にいた方が良かったと思う日が来るかもよ!だから、自分でしっかり考えて、わたくしに仕えるか、あの店に帰るか決めて下さい」
「はい」とフィージアは答え、一生懸命に頭を洗い、ビショビショになりながら流し、ミオの指示通りにタオルを巻き、肩を揉み、足を揉み、期待に応えた。
「残りのお湯で、お風呂に入って、頭を3回洗って、体は4回洗ってから出て来なさい。タオルは使っていいから・・・、わかった?」
「はい、ありがとうございます」
バルロープに身を包み、下着を探し出す。なんせ、ミオ様は自分の下着さえもどこにあるかわからない状況だった。
「彼女・・・美容以外なにもしない人間だったんだわ・・・、恨みによる犯行だったら、エンがいなくなる事で、十分、仕返しできたに違いない」
その後、頭を3回、体を4回洗ったフィージアもタオルを巻いて出て来て、そのままの格好で荷物の捜索を初めて、1時間後に、やっと下着を発見できた。
「フィージア、今は緊急事態だから、この小さめのパンツをあげる。それと、メイド服は、新しいのを購入するとして、今は、このドレスを着てなさい」と話し、服を渡した。
フィージアは躊躇っていたが、いつまでもタオルだけと言う事も出来ずに二人で、なんとか着替えを終えて、今度は、それから二人で髪を整えた。
しばらくすると、職人が床を直し、他の使用人達は、カーテンを付け、家具を運び入れ、散らかった荷物を片付け始め、彼らは、フィージアに、色々と指示を出し、ミオはゆっくりと食事をして、お茶を飲み、記憶の整理をしていた。
そこは、ミオを中心に半径1mの空間、触れてはいけない場所。しかし、周りは、仕事をせかされ、フィージアさえ抱えきれない程の仕事を与えられていた。
「そう言えば・・・結婚式が終わって直ぐに旅立ったと言う事は・・・今晩は、初夜なの?」




