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王都一歩手前。

第2章

 王都の入る直前にどうにか目が覚めた。そこには凛々し顔で真剣に本を読んでいるアイシン男爵が見えた。


 「旦那様、お腹が空きました」


 アイシン男爵は、ミオが、揺れる馬車の中、辛くないように側で支えながら本を読んでいたが、本を置き。


 「王都門に入る前に店が並んでいると聞いている。そこで、何か食事を取る事にしよう」


 体が元の状態に、殆んど戻って来た感じがわかる。


 「はい、そうしましょう」


 ミオは、王都門を通る前に、並んでいる店を小窓から見て、その後、周りを点検しながら身支度を始めた。


 エンは、金目の物を持ち出していない。ミオの記憶の中にある、お金の隠し場所を見渡して確認したが、そのままにしてあった。


 「どういう事?ミオの大金よりも依頼主は、相当額をメイドに渡していたのか?それともミオ自身を恨み殺したのか?そこはわからない・・・。でも、代わりのメイドを探さなけらば、これから面倒だ」



 王都に向かう前夜、両親は、全財産を、ミオに渡したのではないかと思う程、お金を持たせた。


 今は、新緑の時季で、オリザナダ領から王都までは、3日程で、到着できるが、雨季や真冬など天候が悪い時は、王都までたどり着く事は、なかなか難しいと思われる。


 現金は、すべて、ミオの馬車に乗せてあるぬいぐるみの中に隠して置いた。


 ミオの記憶をたどれば、すべて出発前と同じ位置にある。そして、何よりも、汗にぬれた多額の現金も、腹回りに、ずっしりと感じられ、手持ちの小さいかばんの中には金と宝石、札束がぎっしり入っている。


 長年の貴族生活、これほどの現金を見たのは、何百年ぶりだろう・・・?大体、貴族はお金を持ち歩かない。


 お付きの者が払うか、信用払いが多いのだ。大丈夫なのか?プラスムス商会?倒産してなければいいけいど・・・。


 アイシン男爵は、馬車のドアを開け、手を伸ばして、ミオを支え、馬車を降りた。


 降りて、2度びっくり!ミオの豪華な馬車は全部で5台、そして、最後の召使用の馬車は、旦那様用の馬車だった。


 「こ、これでは・・確かに、恨みも買うはずだ」


 豪華な馬車には、嫁入り道具がびっしり、オマケにボディーガード兼使用人は10人にもなる。しかし、メイドはいない。


 記憶をたどると、ミオのメイドは小さい頃からのメイドで、そのメイドには確かに気を許していたらしく、最後に王都に同行させる時には、一応、了解も取っていた。


 「一体、どうして・・・姿を消した?」


 豪華絢爛の馬車から美男、美女の裕福な貴族が降りて来て、周りは騒めきたった。


 「綺麗・・」


 「素敵・・」などなど、聞こえて来たので、ガラスに映るミオを見てみると、本当に若くて美しい。

 (ナイスです。主! )と心の中で、ガッツポーズをしていた。しかし、痩せ過ぎだ!


 「あまりきれいなお店はないけど、我慢して下さいね」

 「はい、旦那様」


 またまた、不思議そうな顔をしてミオを見ている。それはそうだ! 別人なのだから・・・。


 12人にもなるそのご一行様は、気軽にキレイそうなお店にはいって、適当に注文して、食事を取った。男爵は、使用人達にも同じお店で食事を取るように命じた。


 この時のアイシン男爵の顔は、きっと忘れられない。

 「本当にこれを食べるの?」


 「ええ、病みあがりで、食欲がありませんが、体が要求している様です」


 その時、ミオが頼んだのは、普通のパンとスープと果物だけだった。結婚前は、あれも嫌、これも食べない。好き嫌いが多くて、ヴァイオレット家の食事には手をつけなかったミオが、粗末な食事を食べようとしている。アイシン男爵は、余程、お腹が空いていると思って、


 「ゆっくり、食べなさい。急いで食べると胃を傷つけるから」と言い。


 ミオは、頷いてゆっくりとスープを飲んだ。


 スープを2口程飲んていると、店の奥から物凄い音が聞こえて来た。一瞬、体が跳ね上がった。

 「ガチャ~~ン!! このやろう!また皿を割ったな」その後は、殴る音と女の子の悲しい鳴き声。


 ミオは、眉間に力が入り、店内の静けさを嫌った。


 そして、急に、そのまま立ち上がり、厨房の中に入っていった。


 そこには、12歳くらいの汚い服を着た女の子が、地べたで踏まれていた。


 「ご主人、何しているのですか?」


 「何って、躾だよ。仕事を教えているんだ。文句あるのか?」


 「あります。子供を踏みつける人間が作る物を、わたくしはうっかり食べてしまいました。どうしてくれますか?」


 店主は見るからに金持ちだとわかるミオを見て、「お、お、お前、貴族か?」


 「わたくしの旦那様は貴族です」


 その時、スマートを絵に描いたようなアイシン男爵が登場して、事を治める。


 「店主、あなたはこの子供の親ですか?」


 薄汚い格好の店主は、モジモジしながら答える。


 「貴族様は知らないだろうけど、この辺は孤児がいっぱいいる。こいつもその辺にいた孤児だ。どうしても働きたいと言うから、仕事をやって、店に置いてやっているんだ! 文句はあるか?」


 「賃金は、支払っていますか?」


 「賃金なんて・・・、飯を食わせるだけでも有難いと思って欲しいね」


 「うん、それは、素晴らしい事です。孤児に食事を与えているのですね。立派な行いです。どうぞ、これからもその慈悲深い行いを続けて下さい」


 「???えっ?どういう事だ」


 「そう言う事です。この辺に居る孤児に仕事を与え、食事や衣服の、面倒を見て下さい。私は、その制度が上手く回っているのか、王都からたまに視察に来ます」


 その店の店主は、真っ青な顔で腰が抜けたように座り込む。


 ミオは、その女の子を立たせて、顔を拭いて、


 「ご主人、その事業を起こすにはお金が必要ですね。ここにお金を置いておきます。この女の子は、ケガをしていますので、私が連れて行く事は出来ますか?」


 その食堂の主人は、初めて見る大金に驚き、「うん、うん」と頷いて、男爵とミオの次の指示を待つ。


 「先ずは、仕事が欲しい子供達に、お店を掃除してもらいましょう。そして、テーブルや椅子、壁の修理、食材の確保、食器もピカピカになるように拭いて下さい。そして、彼らに、店のお風呂も使わせて、身ぎれいにして、清潔な服を与え、この辺で、一番のお店になるように頑張って下さい。あなたのスープは美味しいです。大丈夫、儲かります」


 店主は、ミオが美味しいと話すと、嬉しそうに顔を上げ、ミオの後ろの強そうな召使を見て、また 頭を下げる。


 「旦那様、旦那様がわざわざ来なくても、私達が、毎日、点検に来ます」


 「そんな事、頼めるかね?」


 10人は、声を揃えて、大きな声で「はい! 」と答えた。


 「では、会計して、道を急ぎましょう」


 「おいくらですか?」


 店主は、ミオを見てアイシン男爵を見て、金額を言う。ミオは小さなバックから多めに支払い、

 「ご迷惑をおかけしましたので、今、このお店で食事をなさっている人達全員にご馳走します」


 店からは大きな歓声が上がり、12名の一行は、その店を後にした。店に入って、食事が運ばれてミオがスープを口にして数秒だろう・・・。出口に向かう時に、使用人たちのテーブルを見たアイシン男爵は、すべてキレイに食べつくされた食器を見た時に、プラスムス家の使用人達の凄さを実感した。


 「彼らは、このような騒ぎに慣れているのか?ふふふふ・・・恐るべしミオ・・・」


 アイシン男爵は、この出来事で、ミオに対する嫌悪感が少し薄れて行った。


 「ミオ、これからは、行動を起こす前に、僕に相談して下さい。僕たちは夫婦です、あなたを守る事も私の仕事だと思っています」


 ミオはそのハンサムなアイシン男爵の顔を見上げ、顔が赤くなる。


 「はい」と返事をした時に、周りの使用人達の頭の上に、?????がいっぱい見えた。


 ピンク色漂う新婚であろう一行が店を出た後、その店には数十人の庶民と、小綺麗な服装を着た3人組は、ミオがご馳走した食事を食べていた。


 「ふふふ・・・、面白い」




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