敵国が見える場所②
第39章
アイシン男爵の遅い到着と共に、緊張は一斉に高まる。
「モクカツ皇子、到着が遅れて、申し訳ありません」
「父上より、勅令が届いており、この度、アイシン男爵は、軍事ブレーンの役目を命じられた。よろしく頼むよ」
「はい、全力で、この任務を、遂行いたします」
アイシン男爵の到着と共に、モクカツ皇子の側近は、その場の軍人、貴族の前で、国王陛下の文面を読み上げ、任命された事を、公にした。
「先ずは、作戦室に入ろう」
最初、アイシン男爵とモクカツ皇子、二人きりで話し合いが持たれた。
「皇子・・・、今回、このような争いになったのは、やはり、相手国の女性が関係しているのですか?」
「アイシン男爵、彼女と知り合ったのは、随分と昔だ。私は、他の兄弟と違い、父上や母上を尊敬していて、身分の釣り合った嫁も貰った。しかし、彼女の後ろには、欲にまみれた親族が大勢いて、何かにつけて、私に助言をしてきた」
「そんな時に、彼女と知り合った。彼女の母親は、クミン国に差し出された女性で、彼女たちが守っている土地の娘だったそうだ。そして、彼女が産まれたが、その土地の人々がクミン国に忠誠を誓った後に、返された」
「クミン国にとって、彼女たちの生きている土地は、必要で、しかし、彼女と彼女の母親は、要らない存在だったのだ」
「皇子は、彼女と母親を、この国に、亡命させて、助けたいのですか?」
「いいや、無能な2皇子でも考えは持っていた。私は、この越境の地と彼女たちの土地を結び、建国したい」
「その為に、何年も、準備してきている」
「私は、基本、父上のお考えに、賛同している。父上は、君や君の子孫にこの国を任せたい。それこそが、この国を守る方法だとお考えだ。ジュリエールも絶対に、君の跡継ぎを守る為に、なんでもするだろう。そのような女性だ。だから、私のこの計画に、二人の同意は貰ってある」
「君とエレナミ様が、いくら静かに暮らしたいと願っても、最後に、この国を手にするのは、君たちだ」
「モクカツ皇子・・・」
「しかし、その様な事・・・、できるのでしょうか?」
「出来る。君の義父は、クミン国に対して、力を持っている」
「クミン国の半分の財を持っていると言っても過言ではない。私がだまし取った美術品も、既に、換金済みだ」
「お義父様・・・・」
「これで、第1皇子が、どれほどバカだと、わかるだろう?彼は、今、敵国の捕虜と同じような立場だと、私は思っている。プライムス公は、絶対に彼を許さないだろう。ーー私だったら、恐怖で、狂い死ぬ。そういう男だ」
「本来なら、やっと、離婚が成立して、彼女を娶る事ができて、終わりでもいい。しかし、今まで、クミン国の皇室の為に、苦労した彼女と彼女の母親を、今後の争いに、巻き込みたくない。ーーーこれは、事実だ。アイシン男爵、確かな事は、ナツ皇子は、既に、そこまで来ている」
「だから、父上と話し合い、この場を選び、両国の間に、自分の国を建国したい」
「ラミベース国からは、皇子を助けてくれる人間は、いらっしゃるのですか?」
「ああ、それがいる。泥棒稼業を手伝ってくれた人間がいる」
「まったく、あなたは・・・」
「私は、本当に、シキオール国王を優秀だと思っています。だから、今回、膿を出し切りました」
「アイシン・・、それは、きっと、ジュリエールの入れ知恵だ。父上ではない・・・、道中、君の同僚が、体調を壊されたようだが・・・・?」
「ーーーーーー」
「ジュリエールは、なぜ、自分が、ラミベース国を治めないのか不思議でならないよ」
「いいえ、既に、彼女の手の中に、この国は、あるのかも知れません」
「ああ、それは、そうかも知れない。ーー父上は、妹のミルク王女の事を、褒められたと、私に、報告して来たくらいだ。初めて、役立つ子供に、恵まれたと、心から思ったに違いない・・・。息子たちの事は、ずっと、昔に諦めていらっしゃる」
「ーーーーーー」
「クミン国の国王には、プラスムス公の義理の息子がテーブルに着くと、既に、伝達してある。後は、頼んだぞ」
「先ずは、国としての境界線を軍部の人間に引いてもらう、その後、調印がなされたら、互いの国の貴族たちに少し交流を持ってもらい。それぞれの商会で、扱える品物があれば、貿易に関しての協定までも、決めたい」
「そこまで、決まっていて、私は必要ですか?」
「必要だ。表と裏は、また、違う。今回、ナツ皇子の刺客は、既に、離れたが、情報を集める人間は、軍部の中には沢山いる」
「プラスムス公は、既に、クミン国へ、沢山の贈り物をしているに違いない。その贈り物に、君は、目を通す必要がある」
モクカツ皇子とアイシン男爵の会談は、終わり、急いで、軍部の人間によって、測量が始まり、境界線が引かれた。今回、遠征にだされた人達に、本物の軍人は、少なく、工部の人間が多く派遣されていた。
やはり、半分も、腕自慢の軍人を、国王陛下も、この為には送り出されなかったに、違いない。
工部責任者と、話し合いを持った時には、あまりにも大雑把な地図で、アイシン男爵は、驚き、既に、隠す必要も無いと、思い、ロック、ガムシャ、トナカリを自分のテントに呼び寄せた。
「モクカツ皇子は、この土地と、クミン国の一部を使い、ご自分の国を建国なさると申されている。土地を表す設計図が、これだ」
3人は、その土地の計画図を見て、
「ーーーダルマルの方が優秀だと、思われます」と答えた。
「ダルマルは、小さいジュリエールのようで、何もかもが、頭に入っていて、それを、正確に図面に落とすことが出来る様に、教育されている。そして、職人たちの仕事も常に覚えて、実際の現場も知っている」
「それに比べて・・・。工部の仕事は、ずさんだ! この計画図を持って、交渉に向かったら、私は殺されてしまう。君たちが、工部に人間を使い、もっといい計画図を作ってくれ」
「大丈夫だ。国王陛下より、派遣された人間にしてある。それに、この国は、もうすぐ、モクカツ国に代わる。なんでも有りだ」
「・・・・・・」
ロック、ガムシャ、トナカリは、上級公務員に姿を変え、軍部の人間を使い、指導を始める。
ブーメン子爵は、訳がわからず、アイシン男爵に聞きに来た。
「アイシン男爵、一体、どういう事だ。戦争は、いいのか?」
「ああ、和平交渉に、私が向かう、その資料作りで、彼らを雇って貰った。ずさんな資料では、私も殺されかねないからな・・。所で、その時には、ブーメン子爵も、同行してくれるか?」
「ああ、勿論、同行するよ」
「ブーメン子爵、僕は、君と知り合えて、本当によかったよ。ありがとう」
その後、モクカツ皇子が、建国予定の土地を調べ上げ、利点や欠点なども包み隠さずに、資料に乗せ、それでも、両国が協力し合い、この国を認める意義を、毎日のように探し出す事に、数か月を使い、交渉に臨む為に、すべての人達は、尽力し、やっと、明日、アイシン男爵は、クミン国を、訪れる事になった。
「旦那様、やっと、明日ですね」
「ああ、やっとだ。ミオに会いたいよ。もう随分と、お腹は大きくなっただろう・・」
「私たちも、会いたいです」
4人は、その国境の先のクミン国を見ながら、王都のヴァイオレット邸に思いを馳せた。




