妊娠と招集②
第35章
第2皇子が送られた国境近くで、クミン国と争いが起こったらしい・・・。
今回、招集される貴族たちは、公平を期して、地方貴族と王都貴族が同数で選ばれていた。
軍部の先頭は、カレンジン軍長が、指揮を執る。
貴族たちは、戦争に向かうにしても、身辺の世話をする為に、一人だけ、従者を連れて行く事を許され、ヴァイオレット邸内で、その選出が始まった。
「奥様が、妊娠中で、今は、一番大切な時期です。コメネル医師を連れて行く事は避けたい」
「ああ、それは、当然で、トハルト家令も、不測の事態に備えて、こちらに残る事にしましょう」
「それなら、是非に、私が、男爵様とご一緒したいです」とトナカリは申し出るが、男爵が、
「出来れば、ガムシャかロックをお願いできますか?」と言う。
「すまない、理由は、二つあって、この状況の中、何かあった場合に、私の所まで、情報が届くとは、限らない事。後は、すべての貴族の内情を、私が、まだ理解できていない為だ。王都に来てから、ジュリエールからの情報と、王宮での勉強だけでは、知識として、まだまだ浅いと考えます。私に比べて、彼らは、オリザナダ領でも、情報を集め、王都の状況も把握して、貴族たちの調査もしています」
「私が、必ず、この屋敷に戻るには、彼らが必要です」
そこで、ジュリエールから、使用人達すべてに、アイシン男爵の身の上の解説がなされた。
「え、アイシン男爵様は・・、国王陛下と従弟関係になるのですか?」
「そうだ。ジュリエールは、当時、王室、筆頭女官長、兼、王室の教育係だった。当時から、ジュリエールの知識は幅広く、私の母や私に、色々な教育しくれて、育て上げてくれた」
「それでは、今、アイシン男爵様のご身分をご存じなのは・・・・・?」
「王室全員とサージ宰相くらいか?もしかしたら、カレンジン軍長もご存じかも知れない」
「それは・・・又、厄介ですね」
「厄介なのは、今、ミオのお腹には、子供がいる事を、彼らが知っている事だ」
「・・・・・・」
「私の予定では、今回のような争いは、当分、起こる事はないと思っていた。勿論、その為に、地方貴族が、王都に、集められたに違いないが、今回、冬の最も寒い時期、辺境の地で、戦いを起こす意味がわからない。第2皇子が、クミン国に対して、余程、酷い行いをしたとしか考えられないのだ・・・」
「国王陛下やカレンジン軍長からの、説明も出発間際まで、行われないだろう・・・」
「その為には、いち早く、情報を得る事が大切になる。どうだろうか・・考えてくれないか?」
トハルト家令は、
「私達では、決める事が出来ません。私たちは、常に、ミオ様の為になる事を、一番に考えています。今回の選出の件・・、ミオ様にも話されて、人選をお願いするのが、一番ではないでしょうか?」
「うん、・・そうだな」
ミオは、話を聞いて、
「それでは、二人で、旦那様を支えて下さい。一人は、情報を収集を主に行い、一人は、警護をお願いできますか?私の占いでは、多分、気づかれないと思います。ただ、あまり急がない方が良いと、出ています。急いで先頭を行かずに、常に、後方に位置している事が、最善です」
「私は、ただ、このヴァイオレット邸で、旦那様をお待ちするしかありません。戦争への準備も、ジュリエールの方が、詳しく、わたくしは、・・・あまり役には立ちません」
「だから、ガムシャ、ロック、よろしく頼みます」
「はい」
招集がかかって、3日目の朝、アイシン男爵は、クミン国との国境へと、出発して行った。
ミオは気丈にも、泣かずに見送り、
「必ず、帰って来てください・・・・」とだけ、告げた。
アイシン男爵はミオの頬を触って、「必ず、戻る」と誓い、馬車は出発して行った。
しかし、次の日から、ミオは、寝込み、食事もままならない状態に陥り、ヴァイオレット邸も厳戒態勢に入ったと、言ってもいい。
数日後、王都のヴァイオレット邸に、来客があった。
「奥様、旦那様のお母様が、おみえです」
「え?」
エレナミ夫人は、戦火の中、救出され、オリザナダ領に移り住んでから、一度も王都を、訪れた事はなかったが、今回、ヴァイオレット男爵のすすめもあり、ミオを心配して訪ねて来た。
「お母様・・・・・、」
あまりの突然の訪問で、ミオは、抱き着いて泣いていた。
「泣いては駄目よ。ジュリエールに怒られるわよ」
「はい、毎日、頑張って、泣かない様にしています」
「うん、私も、初めて主人が戦場に赴いた時に、まだ、ジュリエールが我が家に居て、泣いては行けないって、叱られたわ。それでも、こっそり、夜になると、どうしても涙が出てしまうの・・」
「お母様・・・・・」
「アイシンは、必ず、戻るでしょう。その時には、暖かくなって、お腹も大きくなります。その子がきっと、彼を守って下さると、信じて、食事をしましょう。お腹の赤ちゃんが、空腹では可哀そうです。これから、頭や体、腕や足が出来てくるときに、栄養不足では可哀そうです」
「それに、少し、外に出てみるのも、わたくしは良いと思います。ベットの上だけでは、不健康でしょ?」
「はい、お母様・・・・」
エレナミ夫人が来てからは、ミオは、ベットを離れ、食事を始めた。ホウラインを連れて、みんなで、寒い中、散歩にもでかけ、体力増進の為に、なんでも始めた。
ミール夫人は、ホウラインがいる為に、常に、ミオに付き添う事が出来ない分、エレナミ夫人は、常に付き添い、アイシン男爵の小さい時の話をしたり、ベビー服の製作を始めたりして、ミオの気をそらす役目をおっていた。
すでに、春が近づき、職人たちも、ヴァイオレット邸を心配しながら、長屋の建築に勤しんでいたが、クニマルが、クランに話す。
「すでに、土も柔らかくなってきた。お前から、トハルト家令に言って、ヴァイオレット邸の庭に水を引く仕事を再開したいと、伝えてくれないか?」
「奥様が待ち望んだ池が出来れば、気晴らしにもなるし・・・・。お前も側に居れる」
「お前、心配で、仕方がないのだろう?」
アイシン男爵が、戦地に出発してから、ヴァイオレット邸は、ひっそりと沈み込んだ。エレナミ夫人の到着以来、あの大きな門が開いた事はなかったが、元々、職人たち出入りする門は、裏側にあるが、その門もきっちりと閉まっていた。
ダルマルは、ミルク王女に気に入られ、たまに王宮へ出向く事はあるが、基本、クランの近くで、大人しく、石などを運んで、毎日を過ごしていた。
「父上、僕が、聞いてきます。僕が聞いたら、きっと、奥様は、いいわよって、言ってくれます」
「でも、今は、アイシン男爵のお母様が、いらして、奥様をいたわっていらっしゃると思うと・・、どうなのかしら・・・?」
「大丈夫だよ。昨日、ミルク王女から、聞いた話を伝えに来ました。って、言うから・・・、僕が行くよ」
「・・・・・・」
ダルマルは、裏の垣根から入り、知った道を通り、ミオがいるだろうと思われる窓の下から、背伸びをして、キョロキョロ覗いている。
「こんにちは、君は誰?」
ダルマルは、美しくて優しい感じのエレナミ夫人を見て、顔を赤くして、モジモジし始めた。
「ダルマル・・、どうやって、入って来たの?」
「裏の垣根の下を潜って、少し穴を掘って、入って来ました」
ジュリエールは、警備を強化する事が必要だと、真剣に考え始めた。
「そう、それは、弱点を教えてくれてありがとう」
「ええ、どういたしまして!」
「ーーーーーー」
「ハハハハ・・、ジュリエールの知り合いなの?」
「ジュリエール様は、僕の先生です」
「おおおお~~~! それは、優秀ね?」




