妊娠と招集
第34章
王都に来て、冬が訪れて、ミオの妊娠が発表された。
新緑の会で、倒れて以来、ジュリエールやミール夫人に、厳しく指導されたミオは、暑い夏も、体調を壊しやすい秋も、病気をしないで、何とか過ごし、ベストな状態でのご懐妊となった。
その日、アイシン男爵を待つ、ヴァイオレット邸は、誰もが微笑みを隠せないで、男爵をお迎えした。ジュリエールは、少し涙声で、アイシン男爵に話す。
「旦那様、奥様が、お部屋で、お話があるそうです」
「何かあったのか・・・?では、直ぐに向かうとしよう」
「その前に、こちらで、手を洗って、うがいもして下さい。流感が流行っていますから・・」
「ああ、そうだ。それは、今、一番大切な事だ」
寝室で眠っているミオの近くに座り、ミオのオデコに手を当てる。
目が覚めたミオは、アイシン男爵を見つめて、両腕で抱きつき、ゆっくりと話す。
「あなた・・、私達の赤ちゃんが出来ました」
「お~~~、本当?・・・僕たちの?おおおお・・それは、凄いことだ。そうか、そうか、ありがとう。ミオ! 」
「嬉しくて、嬉しくて、飛び上がって喜びたいのですが、今は、ゆっくり過ごす事が、一番、大切だと、みんなが言うので、しばらくは、ベットの上で過ごす事が多くなります」
「嬉しすぎて、涙が出る」
アイシン男爵は、目頭を押さえ、本当に少し泣いて、抱きしめた手に力が入っている事を、ミオは、感じている。
外から戻って、すぐに、駆け付けたアイシン男爵の冷たい香りは、ミオを落ち着かせる。
(子供を産もう~~。この世界で、この人の・・・愛する人の子供を産みたい! )
「旦那様、わたくし、あなたを、本当に愛しています。本当です。何があっても、その気持ちは変わりません」
「ミオ、僕も、この世で一番、君が愛しい、このような気持ちは初めてで、本当に愛している」
「だから、子供が生まれるまでは、無理をせずに、本当に、ゆっくり過ごして欲しい。君と子供の命が一番大切だから・・・」
「わかっています。ただ今は、とても眠たくて、しばらく側に居て下さいますか?」
「ああ、ずっと、側に居たいよ。本当だ、産まれるまで、ずっと、居たいくらいだ」
(この国は、存続するのだろうか?それを決めるのは、この国の国民、指導者だが、そして、それは、私がこの国に、存在している間に決まる。この国が、生き残っても、彼と子供は、死んでしまっても、私は、次の国で、新しい仕事をする。今まで抵抗なかった事実は、とても重く感じる。)
「その時、私は、この国のすべてを、彼らを忘れるのだろうか?」
その夜、ミオは、アイシン男爵に抱かれながら、すっと、涙を流した。
ミオの妊娠が、わかっても、大袈裟に騒がすに、ヒナを守る鳥の巣のように、ヴァイオレット邸は、暖かく、静かに、毎日を慎重に、過ごしていた。
年末が近づき、外の仕事は減り、職人たちは、テュテュルールの仕事がメインになっている。
ミオの弟のホウライは、9ケ月になり、少しだけ歩き始め、プラスムスは、ミオの妊娠をきっかけに、再び仕事を開始した。
プラスムスは、長屋のある一帯の土地を買い取り、長屋を増やすことにしたのだ。新築の長屋を、あの辺、一帯に供給して、販売する。
「お父様、本当に、また、長屋を作るのですか?」
「ああ、貿易の仕事はしばらくは中止する。また、王室や、貴族の人たちに、疑われてアイシン男爵に迷惑がかかっても嫌だし、ホウラインや、これから生まれてくる孫に、やはり、少しでも財産を残したいと、思っていた」
「ーー今、王都では、仕事はあるが、住宅の供給が極めて少ない。そのことは明白なのに、国は、なかなか動く事をしない。それなら、あのカラフルな長屋を増やしたいと考えた」
「長屋を沢山作って、売るのですか?貸すのですか?」
「販売する。職人たちの家も、彼らが買い取りたいと申し出て、売る事にした」
「今までは、ショッピングモールも、色々な施設も、安値で貸していたが、結局は、国に取られてしまって、何も残らない。だから、王都では、すべて、売って行こうと思う」
「お父様のお考えは、素晴らしいと、思います」
「ミオ?本当か?」
「はい、本当です。それなら、今の職人たちに、ずっと仕事がありますね」
「ああ、彼らの事も考えてた。ミオやホウライン、孫を守るには、味方が多い方がいいだろう?」
「お父様・・・。お父様は、本当に、ご立派です。このように立派な祖父を持って、この子も幸せです」
「しかし、最近の気がかりは、池の事だ。いまだに完成しない」
「はい、国から水利権を買い取る手続きに、手間取っていると聞いています。トハルトは、面倒なので、近くの川を買い取りたいと、申していましたが、流石にそれは無理そうなので・・・」
「水が引けないのか?」
「水は、職人たちに頼んだら、きっと、どうにかなるでしょうが、しかし、その水は巡回しないので、きっと汚れてしまいます。オリザナダで好きだった池は、川から少しだけ水を引いて、又、川に戻していましたから、いつもキレイで、たまに魚も見えました。やはり、王都では、あのような池は、無理なのでしょうか?」
「それに、子供が生まれると、危険もあります。これから作るのであれば、水深は、30cm位でないと、常に心配です」
「ああ、こんな小さな子供がいるのでは、深い池は危険すぎる」
アイシン男爵は、ミオの池の為に、何度も、河川部に足を運び、申請を行っていた。
「アイシン男爵、前回の水害があり、川の流れを変える事は、この王都では、不可能です。そこで、私の提案ですが、湧き水を探してみてはいかがでしょうか?」
「実は、ヴァイオレット邸が、買い占めた一帯は、森林でした。実は、私は、以前、あの辺を調査したことがあって、あの一帯には、水源があると思っています。アイシン男爵様は、大勢の職人を抱えていらっしゃいます。掘ってみるのも一つの案だと、私は思います」
「う~~~ん、家に帰って相談してみるか・・・・」
アイシン男爵は、屋敷に戻り、河川部の提案を話す。
「その水源を見つけた場合、それは、ヴァイオレットの所有になるのかね?」
「はい、それは、当然です。ヴァイオレット家の土地の水源ですので、そのようになります」
「しかし、あの広い土地のどこを掘れというのだ・・・・」
話を聞いていた、ミオが、
「雪がもうすぐ降るでしょう。その時に、わかるのではないでしょうか?地下に水がある所と、そうでない所の、積雪は違うでしょう・・・・?」
「ああ、それはいい考えだ。雪が降ったら、職人たちと一緒に、探してみよう。場所がわかれば、目印をして、春になってから、掘ればいい」
ミオの考えを、使用人全員に話すと、トハルトは、工程表を作り、水源探しの話を、職人たちに伝えた。職人たちも、池の問題は、ずっと、気になっていたので、みんなで、ひたすら雪が降るのをまった。
年が明け、ミオの言う通りに、雪が降り始め、次の日には晴天に代わった。職人たちと使用人たちは一斉に、敷地内を歩き、水源の場所の特定に、取り掛かった。
あまりにも広い用地で、3日程かかったが、明らかにその場所だけ、雪が少なく、べしゃべしゃしている場所を発見し、急いで、その場所に印を立て、大喜びで屋敷に戻ると・・・・、
ジュリエールが、
「アイシン男爵に、国王陛下より、クミン国との応戦の招集がありました。多分、後方支援でしょうが、奥様のお体の為、しばらくは、屋敷内の工事は、中止となります」
雪と、泥にまみれた男たちは、涙を流し、地面に頭をつけ泣いていた。
「そんな・・・・・」
ジュリエールは、一喝する。
「泣くな! 涙は不吉です。ヴァイオレット邸内で、泣く事は、一切、許しません!! 」




