新緑の会②
第31章
最初は、殆んどの人たちが、その庭の圧巻の薔薇を鑑賞していた。
「クラン、この庭は、どう思いますか?」
「はい、私もこのような庭は、始めて見ましたが、どこから、急遽、運ばれたようです。根付いていません。今日が終わったら、もう一度、植木鉢に戻してあげて、水をたっぷり上げる事をお勧めします。しかしながら、今日、一日で、枯れてしまいそうな薔薇は、一つもなく、立派だと、思います」
展示されている美術品の近くには、その作品に合った植物が配置され、リリスリー夫人のセンスが活かされている。
「ミオ様、ごきげんよう」
「エプリング男爵夫人、ごきげんよう」
「あら、サーティと、呼んでください。今日は、ミオ様に会える事を楽しみに参加しました」
「ありがとうございます」
サーティの後ろには、大勢の夫人たちが集まり、この前の晩さん会や、水害で、きっとお仲間になった地方貴族の人達だろう。
「このお庭は、夢のように美しいお庭ですね」
「ええ、このようなお庭に、ご招待いただいて、誠にありがたいですね」
「ええ・・・」
大勢の女性たちは、この庭のトリコになったように、歩きながら、隅々まで鑑賞していた。
「皆様、ユーリア王妃、ミルク王女が、ご到着されました」
ざわざわ・・・ざわ・・・。
リリスリー夫人も、一番前で、頭を下げて、王妃と王女をお迎えする。
一般の下級貴族にとっては、このように近くで、王妃と王女に会う事など無い。
急遽、王妃と王女の出席が決まった背景には、国王陛下の力が加わったと、アイシン男爵は、見ていた。
「王妃様も美しくて、ミルク王女も可愛いですね。ダルマルと同じくらいでしょうか?」
おかしなもので、あの水害を経験している皆様は、ミオの近くに、ダルマルが常にいる事を、気にしていない。中には、ダルマルが好きなお菓子を、わざわざ作って持って来てくれるご婦人もいて、今、ダルマルは、サンタの様に、お菓子がいっぱい入った袋を持たされている。
「皆様、お子様は、参加されていないのですか?」
「このような場所に、連れて来れるような子供に育っていません。その点、ダルマルは、常に、ミオ様とご一緒で、ジュリエール様の教育も素晴らしく、今では、アイシン男爵様より、武道のお稽古も受けていると、聞いています」
「それに、この貫禄・・・・。このような場所でも、いつも通りで、さすがです。ダルマル! 」
後ろにいるクランの顔は、赤くなったり、青くなったりしているのが、背中から伝わってくる。
「それでは、皆様に、いい事をお教えいたします。これから、美術品について、本物か偽物かと、感想が求められる場があるとしたら・・・・」
「ゴクリ、・・・・」
「ダルマルがスカートを引いた時だけは、本物です。もしもの時は、信じてみてください」
「・・・・・・」
「皆様、お茶のご用意が出来ましたので、一度、席にお座りください」とアナウンスがあった。
丸テーブルには、素敵なカバーや花、見た事もないお菓子、ティーセットが配置され、どの食器を見ても、最高級品だとわかる。
トプステイン家のメイドは、よく教育されていて、優雅にすべてのテーブルのお茶を入れて回る。
王都貴族は、ミルク姫目当てで、大勢の子供たちを連れて来ている。見渡すと、本当に、ダルマルの様に、大人しくしている子供は、少ない事がわかる。
同じテーブルには、当然の事ながら、リリスリー夫人、リキュル、そして、ユーリア王妃、ミルク王女、そして、ダルマル・・・」
クランは、失神しそうだと感じながら、ただ、ただ、後ろで、震えながらミオとダルマルを見守った。
リリスリー夫人が、王妃と王女を紹介した時に、周りのすべての人は、ミオに同情したに違いない。
そして、同時に、ダルマルを心配していた。
リキュルが、ミオに聞く、
「アイシン男爵夫人は、今日は何を披露なさいますの?お得意の歌ですか?」
「いいえ、今日は創作にしました」
「この場でお作りになるのですか?」
「はい、そうです」
王妃が、
「それは素晴らしいですね。楽しみにしています」と話すと、
リキュルが、
「王妃が楽しみしている物、失敗する事は出来ませんね」
ダルマルは、基本素直に答える。
「失敗したら、食べられます」
「??????」
「この子・・・・」
舞台上からのアナウンスで、芸術を披露会の開催が告げられ、同時に5人ずつ舞台に上がり、歌を歌う人、絵を描く人、楽器の演奏などが、同時進行されて行く。当然だが、歌と楽器は、かぶらない様に、構成され、見ている人達は、常に、舞台を楽しんでいる。
「素晴らしい構成です。それに皆様、本当に芸達者な方々ばかりですね」
ユーリア王妃が、
「本当に、その通りです」とミオに話しかける。
丁度、ミオの順番のアナウンスがあり、
「王妃、順番が来ましたので、席を立つ無礼をお許し下さい」
「頑張って下さい」
ミオが席を立つと、何故かダルマルも立ち、ミルク王女は、王妃に聞く、
「あの男の子、食べに行ったの?」
「・・・・・・」
クランは、巨大水筒の中から、丁度いい温度の飴をきれいなステンレスの鉄板に流し込んだ。
毎日、何度も考えて、工夫して考えて、失敗して考えて、誰も、火傷をしない温度を探し当てた。
ミオは、特殊な手袋とヘラを使い、クランと一緒に、タワーの為に飴をのばして行く、周りの人達は、びっくりしながら、ミオの作業を見て、サーティのバイオリンは、ミオの動作に合うように滑らかな音楽を奏でる。
タワーが出来上がり、フィージアが水で冷やしながら、窪みを作り、その後、ミオは、リボンの製作に取り掛かると、同時に、クランは、果物を串に刺した物に、飴をコーティングして、どんどん、そのタワーに刺して行った。ダルマルは、小さな色とりどりの金平糖の様なものを、ツリーに投げつけ、トッピングして行く。その丸々した子供の姿は、面白く、一人の子供が寄って来て、ダルマルを手伝う。
「これと、これも投げていいよ」と、珍しく、ダルマルは、話をした。
二人の姿を見て、他の子供たちも舞台に、上がり、どんどん飾りつけをしていく、ミオの合図で、サーティは、音楽を止めて、みんなでお辞儀をして、ミオの創作は、完了した。
音楽が終わった瞬間に、大きな喝采が上がり、ミオの創作した飴のツリーは、芸術へと変わった。
王妃も立ち上がり、ミオ達全員に拍手を送った。
その後、子供たちは、クランとフィージアから果物の飴をもらい、嬉しそうに席に戻って行った。
席に戻ったミオは、王妃から、
「素晴らしかったです。子供達とのコラボは、考えられませんでした。あのように生き生きした子供達を見るのは久しぶりで、本当に素晴らしい芸術で、出来上がりも、とても美しいです」
「ありがとうございます」
ミオが、王妃からお褒めの言葉を頂いている時に、ダルマルは、ミルク王女に、串に刺したイチゴの飴を一つ、渡した。
「王女様、これをどうぞ・・・」
「ありがとう」
(この子・・・・、手には5本、持っているのに、わたくしには1本しかくれないのかしら?)
その後、手伝ってくれていた子供たちも、ミルク王女に、飴をプレゼントする為に、並んでいる。
結局、ミルク王女の手元には、沢山の飴が集まり。最後には納得したいた。
ダルマルは、満足そうに、飴を頬張り、水筒から、冷たい美しい果物が入ったお茶を、コップに入れて、飲みだした。
ミオは、優しくダルマルの口を拭き、
「美味しい?」と聞くと、
「成功した飴の方が、美味しいとわかりました」と答えていた。
周りがガヤガヤする中、リキュル率いる、オーケストラは、一斉に音を鳴らし、素晴らしい演奏が始まり、前半の部は終了したと言えるだろう。
体力のないミオは、暑さに負けて、すでに、この辺りで、倒れるほどに疲れていた。




