新緑の会
第30章
アイシン男爵を、いつもの様に見送り、ミオ達も出発の準備を始める。
「奥様、クランとダルマルが参りました」
クランとダルマルは、二人とも恥ずかしそうに、ミオに挨拶をする。
「あら、二人とも、見違えました。ダルマルは散髪したのですね。かわいい・・、クランも、メイド服が、良く似合っています」
「奥様、今日は、失敗のないよう、一生懸命努めます。よろしくお願いします」
「クラン、失敗してもいいのよ。わたくしは庶民で、相手はこの国一番の貴族、対等ではありません。必ず、失敗します。相手も、それが見たくて、わたくし達を招待していると思います」
「しかし、今日は、熱い飴を作るので、ケガをする失敗だけは、許されません。私でも、あなたでも、ダルマルでも、ジュリエール、フィージアでもです。その他の招待客でもです。わかりますか?」
「あなたは暑い、飴を守る事だけに専念して下さい」
「そして、フィージアは、飴を冷ます事を、一番に考えて下さいね」
「さぁ、出かけましょう。意外に面白い事が、わたくし達を待っているかも知れません」
昨晩、アイシン男爵は、ミオを抱きながら、話す。
「明日の事は、申し訳ないと思っている。今回は、どうしても避けられない芸術展だそうだ。その理由は、王都、王宮の中で、高級美術品がすり替われている事実が発覚した」
「旦那様・・・、そのような話を、わたくしにして、よろしいのでしょうか?」
「本来なら、情報漏洩に当たると、考えられるが、今回、プラスムス公の事を疑っている人間が現れた」
ミオは、ベットから飛び上がり、
「お父様ですか?お父様は、王都に来てから、ホウラインの事以外、動いていないような堕落した人間に、変わってしまっていますが・・・。どうやって、そのような話になるのでしょうか?」
「そう、お義父様は、王都に来てから、動いていない。積極的にマネーロンダリングをすることもなく、海外の人間に会う事もしていない。それなのに、そのような疑惑を向けられて、本当に、申し訳ないと思っている」
「それには、理由があって、王室の人間は、いつも、不安を抱いている」
「そのような事は、どこの国でもあると思いますが・・・、確かに、王室は、国の中枢で、孤独でもあり、周りの人々の事をいつも疑っているのは、仕方がない事です。しかし、私の父の様な人間までにも、疑惑をかけ、ーーーー、旦那様、もしかしたら罪を、父に・・・・?」
「イヤ、この国が正常に機能していれば、それは無いと信じたい」
「ミオ、私たちは、結婚して、もう1年になる。私はミオの事が最も大切で、愛しい人だと思っている。君を愛してる。だから、君の体調も良くなって、多くの食べ物を食べる事も出来る様になってきて、安心して、子供を授かる準備も整ってきたと、私は考えている。ミオは、どうだろうか?僕たちの子供を望むか?」
「旦那様・・、わたくしも、絶対に、二人の子供が欲しいです」
「ありがとう、だから、その前に、話しておきたい」
「??」
「母は、王室の人間だ。現国王の叔母に当たる。二代前の国王が最後にもうけた王女だ」
「ーーーーーー」
「どの国でも王政交代時に、多少なりとも、反乱がおきる。その戦火の中、ジュリエールは、母を救い出し、オリザナダ領の知り合いに預けていた。母も、ずっと、その家の家族が、自分の家族だと信じて生きて来て、父上に見初められて、結婚を望んだ」
「まだ、10代だった母に、縁談が来ていると、聞いたジュリエールは、母が、どんな貴族とも結婚する事を許さなかった。しかし、二人の意志は固く、父は、何度も頼み、説得して、許可を得たと言っていた。その後、母が僕を出産して、しばらくは、母に付き添ってくれていたが、ある日、王都に旅立ってしまった。その時の、母のショックは、大きかったと思うよ。ジュリエールは、ずっと、側に居てくれると信じていたみたいだったので・・。泣いている母を、その時、初めて見た」
「父は、その後、何度が、小さな戦争に行く事になったが、腕の立つ父上でも、常に、本部で待機を命じられていた」
「どうして?」
「母上の、父が亡くなる時に、遺言を残した」
「先王ですか?」
「ああ、そうだ。我が娘、エレナミを守る事が、この国を守る事に繋がると・・・」
「その先人の教えは、ずっと、続いて、時が経つにつれて、解釈が、マチマチになった事は確かだろう・・」
「ただの良家の娘が、ただの男爵に嫁いで、私が産まれている事になっているが、実際は、違う。しかし、前王は、守らず、直ぐに死亡した。その後、今の国王は、母の身分を永遠にかくして、彼女を守る仕事は父上に委ねていた」
「そして、そのような状況を、母やジュリエールも望んでいたのだ。しかし、時が経って、父上が流行り病に罹った頃から、暗雲が立ち込めた」
「誰かが、均等を保っていた状況を、崩し始めた。ジュリエールが、どうして父上との結婚に、あれほど反対したのかは、父上では、母を守り切れないと考えたからだ。だから、反対した。母に何かあった場合は、この国は、滅びると、今でも思っている。彼女は、母上、私、生まれてくる子供を守り、この国を守るりぬくことを常に考えている」
「その考えは、もしかしたら、今の国王陛下も同じ気持ちなのかと、推測される。しかし、どんなに、彼らが守っても、彼の後継者も必ず、その遺言を守るとは限らない。わかるか?ミオ?」
「お義母様は、聖女様なのですか?」
「それは、ミオが、読んでいる本の中身で、母は普通の女性だよ。ただ、先王にとっては、目に入れても痛くないほどに愛した小さな王女だ。かなり年をとってから産まれたので、本当に母上の将来を考えての遺言だと、私は、思ってもいる」
「今の世代の人にとっては、忘れられた遺言になってしまったのですね」
「ああ、そうだ。それでも、私は、ミオと一緒に子供を作り、子孫をこの世界に残したいと考えている。それは、素晴らしい事で、きっと、幸せな事だろう?」
「ええ、わたくしも、旦那様と同じに、この国で、暮らし、子供を沢山産んで、一緒に年をとって行きたいと思っております」
「ミオ・・・」
◇◇◇◇◇◇
そして、ミオ達は、新緑の会に出発して行った。ミオの馬車には、ジュリエールとミオ、後ろには、フィージアとクラン、ダルマルが、乗っている。当然の様に、もう一台、パンネルたちが待機していた。
「さぁ、出発しましょう」とミオが、言い放つ。その言葉に、全員の気持ちは引き締まった。
馬車はゆっくり、トプステイン家に到着した。その華やかさは、びっくりする程のにぎわいで、王都中心部で、広大な土地、そして、このように美しい薔薇が、咲いている庭は、王宮庭園でもないだろうと、思われた。
新緑の会は、薔薇の中で行われ、豪華な美術品が、至る所に飾られ、豪華なテーブルは、すべての貴族の為に用意されて、流石に、今のヴァイオレット家では、ここまで豪華なティーパーティーは、開催出来ないと、ミオは考えていた。
「アイシン男爵夫人、ようこそ、我が家のティーパーティーにお越しくださいました」と、先手をリリスリー夫人に捉えられ、ミオは、動揺を隠さず、深々と挨拶する。
「宰相夫人、この度は、わたくしをご招待下さり、誠に、ありがとうございます」
「何も、ございませんが、楽しんで下さい」
リリスリー夫人の後を、ゆっくりと、リキュルは歩き、二人は、軽く会釈をする。
二人の間には、言い表せない、感情が流れ、ミオは、自分の為に、アイシン男爵の為に、そして、家族の為、絶対に負けない決心をする。




